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小泉小太郎民話 (1/4) ~ストーリーを考える~

はじめに

 長野県の上田地域に小泉小太郎、松本地域に泉小太郎という民話があります。この2つの民話は題名こそ似ていますが、話の内容はあまり似ていません。そのせいか、これらは元々は1つの話で、前半が上田の小泉小太郎話になり、後半が松本の泉小太郎話になったという説もあります。
 絵本作家の松谷みよ子は、これらの話を再構成して「龍の子太郎」という話を作ったという内容を、民話の世界[1]に書いています。

 この記事では上田の小泉小太郎の伝承を紹介して、そのストーリーを考えてみようと思います。その1回目です。

小泉小太郎伝承をざっくり要約

 手始めに、長野県上田地域に伝わる小泉小太郎のお話を、郷土の民俗 民話[2]からざっくり要約してみましょう。

1. 鉄城山の頂に寺があり、寺の僧のもとに毎夜どこからか女が通ってくる。
2. 不思議に思った僧が、女の着物に針をつけ、糸を繰出しておく。
3. 翌朝、糸をたどっていくと、その女の正体が大蛇だと分かる。
4. 大蛇は子どもを産み、小泉小太郎と名付けられ、老婆に育てられる。
5. 小太郎が14、15歳の頃、山で薪用の木を取り、2つの束にまとめて持帰る。
6. 小太郎は「2つの薪の束は山の萩全てを取ってきた束なので、結び縄を解かずに1本ずつ抜いて使う」よう、老婆に言う。
7. 老婆が言われたことを守らず結び縄を解くと、萩が家中に広がり家と老婆を押しつぶしてしまう。

 このようなストーリーになっています。どこかで聞いたことのある話が織り込まれている気がしますね。

物語の前半

 この民話では、小太郎が生まれるまでの前半部と、山に薪取りに行く後半部に大きく分けられると考えます。上記の要約4で、大蛇が子どもを産むまでが前半、小泉小太郎と名付けられて老婆に引取られてからを後半とします。

 前半に関しては、三輪山の活玉依姫(イクタマヨリヒメ)のお話とそっくりです。古事記にあるお話はこんな感じです。

 活玉依姫の元に毎夜男がやってくるようになり、姫が身ごもります。男の素性を調べるため、ある夜に男の裾に糸のついた針を刺しておきました。翌朝になり糸をたどっていくと、糸は鍵穴を抜け、三輪山に続いていました。男は三輪山の大物主神(オオモノヌシノカミ)だったのです。

 こうしてみると、似ているのはストーリー展開だけでないことが分かります。登場するキャラクターの特性も大変似通っているのです。

 小泉小太郎の話では、僧のもとに女(実は大蛇)が通って来ますが、三輪山の話では活玉依姫のもとに男(三輪山の主で実体は蛇)が通ってきます。通ってくるのは男女で違いますが、父親となるのは僧あるいは神という、位の高いものであることや、相手の正体が蛇であることが共通です。

 三輪山の主が蛇であるのは有名な話です。
 三輪山には倭迹迹日百襲姫命(ヤマトトトビモモソヒメノミコト)の伝説(俗にいう箸墓伝説)という、姫が三輪山の主と結ばれる、これまたよく似た話があります。この話では三輪山の主が蛇として現れます。

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類型のお話

 他にも、常陸國風土記 那賀の郡 哺時臥(クレブシ)山※の条には、努賀毘咩(ヌカビメ)という女のもとに毎夜男がやってきて、女が小蛇を産むという伝承が載っていますし、 肥前国風土記 松浦の郡の条には、松浦佐用姫(マツラサヨヒメ)のもとに毎夜男が通って来ますが、その正体は褶振峯(ヒレフリノミネ)の沼の大蛇だったという話があります。

※ 哺時臥山にはダイダラボウ伝説もあるそうです。これはこれで興味をそそりますが、別な機会に。

 いずれの話も似たストーリーで蛇が出てきます。このストーリーと蛇というのは、かなり密接に関係しているとみてよさそうです。

 類似の話は日本中にありますが、大元(オリジナル)がどこなのか、あるいは全く違う場所で似た話が作られたのか、定かではありません。また、この類型の伝承は日本のみならず、世界でもみられることから、古代に中国や朝鮮あたりから入ってきた話が日本中に広まってできたのかもしれません。

まとめ

 そもそも、僧侶でありながら通ってくる女に子どもを産ませてしまうのがどうかと思うのはさておき(浄土真宗なの?)、ストーリー展開的には三輪山の類型とみて差し支えないと思います。

 また、日本中に似たお話が伝わっている事も分かりました。上田の小泉小太郎だけが特別ではなさそうです。

参考文献

[1] 松谷みよ子. 民話の世界. PHP研究所, 2005.
[2] 上田市立博物館編. 郷土の民俗 民話. 上田市立博物館, 1983.

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