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大学でドラムを始めた初心者の私が、人生で初めてライブに出た

桜が咲くころになるとドラムを始めたときのことを思い出す。ちょうど満開の桜が散り始めていた。

私は大学でドラムを始めた。中学時代から吹奏楽部でパーカッションを経験していたり、高校時代からバンドを組んでドラムを叩いたりしていた人と比べると、遅めのスタートだと思う。

ギターやベースよりもハードルが高いと思われがちだし、実際、私もドラムを始めるまでそう思っていた。

そんな私は、社会人になった今でもドラムを続けている。バンドを組んで不定期でLIVEに出たり、J-POPやロック、アニソン、ボカロ、ハードコア、メタルなどジャンル問わずいろいろな曲が叩けたりできるようになった。ドラムを始めたことがきっかけで、自分自身でもLIVEイベントを企画している。

大学時代の4年間で演奏した曲を数えたら、全部で181曲だった。8日に1曲のペースで演奏していたことになる。自分でも訳がわからない。社会人になってから演奏した曲を合わせたら、200曲を超えている。

そんな大学からいきなりドラムを始めた初心者の私が、ドラムに興味を持ち、初めてLIVEに出たときのことを書こうと思う。

もし、新しく楽器を始めたいけど悩んでいる人がいたら、読んでほしい。

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ドラムに興味を持ったのは高校時代。受験期にUVERworldにハマっていた私は、YouTubeである動画をたまたま見つけた。

かっっっっっっこよ!!!!!!なんだこれ?手と足どうなってるの?人間ができるわざじゃなくない?

彼はUVERworldのドラマー・真太郎。父親がジャズ・ドラムをやっていたことから家にドラムセットがあり、中学2年生の文化祭で初めてドラムを叩いたそう。当時は野球もやっていたが、いろいろあってUVERworldのドラムとなった。

話を戻すと、私はこのドラムパフォーマンスを見たときに、ぶわっと全身の鳥肌がたった。一目見た瞬間に、心を持っていかれた。気づいたら、演奏が終わるまで画面に釘付けだった。

「ドラムってかっこいいな」

私は、高校生まで、何かに熱を持つことが少なかった。感情表現が乏しいともよく言われた。そんな私が、心を揺さぶられ、興奮した瞬間だった。それからというもの、受験勉強の合間にプロアマ問わず、ドラムの演奏動画を見るのが日課になっていた。ドラムの演奏動画を見ては「こんな風にドラムが叩けたら楽しいだろうな〜」と思った。

とはいえ、ドラムはまったくの初心者。中学・高校と所属していたのはバレー部。楽器の演奏経験は、ピアノとギターをかじった程度だ。私の中で、ドラムは「中学・高校時代から吹奏楽部や軽音学部で経験してきた人が、演奏を許される楽器」だった。憧れを抱きつつも、このときはまさか自分が大学に入ってドラムを演奏することになるなんて、つゆほども思わなかった。

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受験が終わり、都内の大学に進学した。オリエンテーションが終わって学内を歩いていると、大量のサークル勧誘のビラを渡された。渡されたビラを眺め、私はどのサークルに入ろうか悩んだ。ずっと続けてきたバレー部に入るのもいいし、友達がいるダンス部に入るのもいいなと思った。でも、やっぱり1番惹かれたのは、軽音学部だった。 

高校時代に見たドラムの演奏動画が忘れられず、自分もあんな風になりたい。軽音学部に入ってドラムを演奏したい。という思いがずっとあった。

一方で、「初心者の私が入部してもいいのかな?」という不安もあった。周りが経験者ばかりだったらどうしよう。場違いだったらどうしよう。そんな不安を抱えつつも、とりあえず軽音学部のブースに行ってみた。

いざ軽音楽部のブースにいってみると、先輩たちが優しく迎えてくれた。そしてブースの隅には、「初心者歓迎」と書かれた看板が置いてあった。

「大学からでもバンドをやってもいいの……?」

バンドはずっと続けてきた人じゃないと始めちゃダメだと思っていた。そんな私にとっては、初心者を迎えてくれる環境が衝撃だった。それでも、不安は消えなかった。初心者の私が入って本当に大丈夫なのか。果たして楽しめるのだろうか。でも、今やらなかったらずっと後悔しそう。

そう思った私は、気がつくと入部希望者の欄にサインしていた。

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いざ軽音学部に入部してみると、さまざまな部員がいた。高校時代から軽音学部だった人、他大学の軽音サークルと掛け持ちをしている人、大学以外でもバンドを組んでプロを目指している人……みんなスペック高すぎでは?一方で、私のような初心者で入部する人もちらほらいた。

軽音学部では、毎年入部したらまずは新入生同士でバンドを組んで、LIVEに出るとのこと。ランダムでバンドメンバーが決まり、2曲演奏することになった。

LIVEの日程が決まったので、私はそれまでに演奏できるようにならなければならない。ドラムを叩くのに1番必要なドラムスティックすら持っていなかった私は「とりあえず楽器を買うなら御茶ノ水」という謎の偏見から、電車で1時間以上かけて、御茶ノ水まで行った。

初めて買ったスティックはPearlのクラシックシリーズの110AC。店員に初心者に向いているスティックを教えてもらったものの、種類が多すぎて全然名前を覚えられなかった。結局1番自分が握ってしっくりきたスティックを買った。後々知ったが、初めて買ったスティックと同じものが、家から電車で10分の距離にある楽器屋にも売っていた。

無事スティックを買った私は、実際のドラムで練習することにした。学校内にある練習室に向かい、ついに本物のドラムと対面。少し狭い練習室の真ん中で、そのドラムは圧倒的な存在感を放っていた。

一通り正面から眺めた後、ドラムの奥にある椅子に座った。椅子に座ると、観客側からは見えにくくなっていたスネアやタムが目の前にあった。イヤホンをつけ、スマホで曲を流してドラムを叩いた。

序盤はいい滑り出しだったと思う。受験期間中にエアードラムでイメージして鍛えた8ビートが役に立った。意外といける?と思ったのも束の間、8ビート以外のパートになったとき、右手でハイハットシンバルを叩き続けようとすると、左手がいつまでたってもスネアドラムを叩けなかった。

右足もタイミングがわからず、バスドラムが踏めない。どこかの手足を動かそうとすると、つられて同じ動きをしてしまうのだ。大縄跳びでいつまで経っても入るタイミングが分からず、縄を見送り続けてしまうあの瞬間に近い気分だった。

その後も同じ場所を練習したが、その日は習得することができなかった。このままじゃやばい、と思った私は、授業とバイト以外の時間をとにかくドラムに費やした。

楽譜を見てリズムを覚え、実際のドラムでも叩けるよう家ではエアードラムでイメージトレーニングをした。ドラムを練習して初めて知ったが、ドラムの楽譜はピアノのような音階がなく、書かれている音符の位置で、どのドラムを叩くか判断しなければならない。ピアノやギターの経験がある私にとっては、まずドラムの楽譜の読み方を覚えるところから大変だった。

学内の練習室ではスマホにイヤホンを差し込み、音源を聴きながら実際のドラムを叩いた。だが学内の練習室は電波が圏外になるほど通信環境が悪かったので、だんだん先輩から教えてもらった大学の近くのスタジオで練習するようになった。

たとえまわりが経験者ばかりだったとしても「あいつ下手くそだな〜(笑)」とバカにされたくなかったし、何よりバンドメンバーに迷惑をかけたくなかった。

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そんな日々を過ごすこと1ヶ月。ついにLIVE当日となった。他のバンドのドラムは経験者ばかり。正直私はとても緊張していた。ミスしたらどうしよう。周りができる人ばっかりの中で大丈夫かな。緊張のあまり、自分の出番が来るまでお昼用に買ったコンビニのパンが食べられなかった。

ついに出番が来てバンドメンバーと一緒にステージに立った。ステージから見た客席の顔はほとんど覚えていない。緊張したら人をジャガイモやカボチャだと思えばいいとよく言われているが、そう思う余裕すらなかった。

深呼吸をして、ドラムのカウントで曲は始まった。演奏が始まると自然と心は落ち着いていった。自分がステージから見た光景は、今まで観客側から見ていた景色とはまったく異なっていた。

ボーカルやギター、ベースの背中。視界に広がる照明。ドラムの隙間から見える観客。メンバーがドラムの方に向けてくれる表情もよくわかった。それは、ドラムを始めなければわからなかった景色だった。

練習に費やした時間に対し、本番はあまりもあっけなく感じるほど、終わるのが早かった。こうして、私の初めてのLIVEが終わった。

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初めてのLIVEを終えてから、モチベーションの上がり下がりはあったものの、「ドラムが好き」という気持ちは変わらなかった。シンプルに、練習すると曲が叩けるようになるのがうれしかったんだと思う。

ついにはスティックだけではなく、スネアとツインペダルを買うようになった。スネアは「UVERworldの真太郎が使っているメーカーだから」という理由でSAKAEを買った。(SAKAE自体は1925年に創業され100年近い歴史を誇っているすごいメーカー)

ペダルは元々買おうか悩んでいたが、私が好きなバンドはツインペダルで演奏する曲が多く、シングルペダルだけで演奏するには限界があったため、購入を決意した。

初めてのLIVE以降もスタジオには通いつめ、1日8時間以上いることもザラだった。スタジオのオーナーとは社会人になった今でもLINEを取り合う。顔を出しに行くとたまにお酒をくれる仲になった。

最近は、出産してなかなかスタジオに行けていないものの、受験期間中のときのように気になる曲を見つけては、ドラマーの演奏動画を観たり譜面を見てエアードラムでイメージトレーニングをしたりしている。

娘は母のそんな様子を見て、一緒に手拍子でぱちぱちとリズムにノッている。将来はバンドマンかな。学生時代の仲間からも「またバンドしよう」と誘われているので、娘がもう少し成長したらLIVEにも出る予定だ。

周りが応援してくれる環境でなかったら、きっとここまで続けられていなかったと思う。初心者から始めても優しく教えてくれた先輩や一緒にバンドを組んでくれた後輩、そして同級生がいてくれたからこそずっとドラムを好きでいられた。

音楽に関連する仕事に就いたわけでもなければ、プロになったわけでもない。ずっとドラムを習ってきた人や、高校時代から吹奏楽部・軽音学部で演奏する機会があった人と比べたらきっと私はまだまだだ。それでも私はドラムと出会い、続けられて、今とても幸せだ。

子どもが大きくなっても、自分がおばあちゃんになっても、ドラムをやりたい。

音楽をはじめるのに「遅すぎる」なんてことはない。いくつになっても音楽をはじめていいんだよ。と、ドラムを始める前に不安を抱えていた自分に伝えてあげたい。


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