7年前、UVERworldのライブを最前列で観たら「生きよう」と思えた話
子どもが産まれる前、私はよくバンドのライブを観に行っていた。特に足を運んでいたのは、UVERworldのライブだ。ツアーやフェスの情報が発表されるたびに、チケットを申し込み、ライブハウスを巡り歩いた。
残念ながら、2020年以降はさまざまな要因が重なってライブに行けていない。それでも、新曲が出るたびに彼らの楽曲をチェックし、インタビュー記事やライブレポートを読み漁っている。
そんな私には、今でも印象に残っているライブがある。それは、2017年9月25日に沖縄県のミュージックタウン音市場で開催されたライブだ。この日は彼らにとっても特別な日だった。なぜなら、UVERworldのSax/Manipulator・誠果の生誕祭ライブだったからだ。
2017年8月からスタートしたUVERworldのツアー『UVERworld IDEAL REALITY TOUR』中に迎えた誠果の生誕祭。彼らのライブでは、毎年、生誕祭のセトリを誕生日の主役が決めることとなっている。この日のセトリは、主役である誠果によって構成された。
UVERworldの楽曲を語る上で、サックスや打ち込みの存在は欠かせない。それらを担っているのが誠果だが、実は2005年にUVERworldがデビューした当時は、レコード会社の意向で正式メンバーから外されていた。そこから正式加入する2014年まで、誠果は「サポートメンバー」というかたちで活動することとなる。
2017年9月25日は、誠果が正式加入して4回目の生誕祭。正式メンバーになってから迎える誠果の生誕祭は、メンバーにとっても大切な日だ。
そんな祝福ムードに満ちているこの日、私は、彼らのライブを最前列で目の当たりにした。
もう7年も前のことだから「なんで今更」と思われるかもしれない。それでも、私は最前列で見たあの日のライブのことを、断片的でも残しておきたかった。
きっかけは心を救ってくれたある曲
生誕祭ライブの話をする前に、私がUVERworldのライブに行くようになったきっかけについて少し触れておく。
初めてUVERworldの演奏を生で聴いたのは2015年9月。結成15周年&デビュー10周年を記念して行われた代々木第一体育館4daysのうちの1日だ。当時の私のUVERworldに対する認識は、「有名な曲なら知っている」程度だった。
そんな私だったが、初めてライブに行ったにもかかわらず涙を流してしまった曲がある。それは「Ø choir(ゼロクワイア )」だ。
ライブを終えてから過去のセトリを見返すと、Ø choirはライブでは割とよく演奏されている曲だった。それなのに、当時の私はライブに行くまでこの曲を聴いたことがなかった。
初めて聴く曲なのに泣いてしまった最大の要因はおそらく「歌詞」だろう。
当時の私は周りと最低限当たり障りなく接することはできても、人を心の底から信じることができなかった。過去に仲が良いと思っていた人から突然避けられたり、自分がいないところで悪口を言われたりした経験から、人を信じられずにいた。じわじわと心を蝕んでいた過去の経験がどうしても忘れられず、自分ことも、他人のことも信じられずにいた。いっそのこと消えてしまえば楽になるのだろうか、と思ったこともあった。
そんなときにこの曲と出会った。
ライブではボーカルのTAKUYA∞が熱をこめて歌っていたのもあり、この歌詞が私の心に深く突き刺さった。まるで、曲を聴いた人たちをまるごと包み込んでくれるかのような歌詞だった。
心をさらけ出すさまをリンゴにたとえるなんて、どんな経験をすればこんな歌詞が書けるのだろう。この曲を初めて聴いた瞬間、私は衝撃を受けた。そして当時の私は、この歌詞に救われたような気になった。
「もっと彼らの曲を生で聴きたい」
この公演をきっかけにUVERworldにどハマりし、ライブに足を運ぶようになった結果、数ヶ月後にはファンクラブに入会していた。
生誕祭ライブでまさかの最前列
UVERworldのライブに足を運ぶようになってから2年を迎える前、誠果の生誕祭ライブに当選した。しかも整理番号が2桁だった。
生誕祭ライブは誕生日のメンバーがセットリストを組むのでレア曲をやる可能性が高い。そのため、数ある公演の中でも倍率が高い傾向だった。そんな幸運なチケットを、私は手にすることができた。当選連絡が来た瞬間、思わず手が震えた。
そして迎えた2017年9月25日。開演の17時30分になり、整理番号が呼ばれた私は、ライブハウスの中へと足を踏み入れた。幸運なことに、ライブハウスに入ると、私は最前列で待機できた。今まで遠くからでしか見ることのできなかった楽器や機材が、私の目の前にあった。
「今日はどんな曲をやるのかな」「どんなMCをするのな」最前列で待ちながら、私は開演時間までさまざまな思いを巡らせていた。
気がつくと開演時間1分前の18時29分。1分前になると、歓声とともに観客の掛け声によるカウントダウンと手拍子が始まった。カウントダウンが進み、ステージ上のスクリーンが「18:30:00」と表示されると、会場からは大きな歓声が上がった。照明が暗くなり、開演前から流れていたBGMの音量がさらに大きくなる。誠果生誕祭ライブがはじまった。
最前列から見た景色
ライブがはじまると、ドラムの真太郎と、本日の主役である誠果が登場した。登場して早々、真太郎のドラムソロが披露され、その姿に観客は圧倒させた。ドラムソロが終わると今ツアーのSE「TYCOON」が会場に流れ、他のメンバーも続々とステージに登場。
さすが最前列、メンバーとの距離が近い。最前列からステージとの距離はもう目と鼻の先。手を伸ばせばメンバーに手が届きそうな近さだ。いつも遠くから見ていた彼らが目の前にいる……心拍数が急上昇した。あまりの近さに感動している中、最初の曲が始まった。
青い照明が照らされる中、誠果生誕祭を盛り上げる1発目の曲として選ばれたのは「AWAYOKUBA-斬る」。なかなか聴けないレア曲ということもあり、初っ端から会場の歓声が湧いた。始まりの合図を告げるかのように、サックスの音色がライブハウス中に鳴り響く。
間髪入れずに次に披露されたのは、これもまたレアな曲のひとつである「6つの風」だ。観客同士の大合唱による「Which one is mine?」の掛け声が、会場の熱気をさらにヒートアップさせた。
「今日は最高の一日にするぞ!」
TAKUYA∞の言葉によって始まった3曲目は、実写版銀魂の主題歌になった「DECIDED」。TAKUYA∞が指を"パッチン"と鳴らして間奏に入ると、ここでも誠果の高らかなサックスの音が、会場へと響かせた。曲が進むごとにメンバーの演奏位置が変わり、ギターの克哉や彰が、私のほぼ真上で演奏を繰り広げていく。
3曲目が終わると、楽器隊がパーカッションの位置につき「WE ARE GO」がはじまった。生で聴くこの曲はCDよりもパーカッションの音圧が増し、より一層音に重みがあるように感じられた。
「今日は誠果への『おめでとう』って祝う気持ちは、言葉よりも一体感で伝えよう!ちゃんと誠果にも届くはずだから……もし届かなかったんだとしたら、それは全部俺が悪いってことで、全部俺のせいにしてよ!」
そんなTAKUYA∞の前振りで始まったのは、「一滴の影響」。バンドの後ろにあるスクリーン上に、曲の歌詞が映し出された。彼らは歌詞を大切にしているバンドである。そのため、特に歌詞が重要視された曲は、今回のようにスクリーンを用いた演出を行う。観客はじっとステージ上のスクリーンを眺めながら、演奏を聴いていた。
その後も冒頭からサックスを奏でる「BABY BORN & GO」、信人が奏でるベースとサックスのセッションが良い味を出している「IDEAL REALITY」、銀テープが飛んだ「シリウス」と続いた。
トリで聴けた思い出の曲
ライブの盛り上がりが加速する中、中盤に演奏されたのは「Fight For Liberty」。宇宙戦艦ヤマト2199の第2期オープニング主題歌で、世界観も反映された楽曲だ。疾走感あふれ、息つく間もないTAKUYA∞の歌と、楽器隊が奏でるバンドサウンドに、ただただ圧倒された。タイトル通り「戦い」を思わせる激しいメロディだった。
「PLAYING RUN」「一石を投じる Tokyo midnight sun」と新旧混ざる人気曲が続く中、さらに会場を盛り上げたのはAK-69の登場。サプライズでAK-69が現れ、歌い始めたのはコラボ楽曲である「Forever Young」。なんと今回の生誕祭のために、AK-69は名古屋から沖縄に駆けつけてくれた。なんとも豪華な共演。ジャンルを超えた、リスペクトと音楽への愛にあふれるパフォーマンスが繰り広げられた。曲が終わると、TAKUYA∞とAK-69は、熱いハグを交わした。
「SHOUT LOVE」「a LOVELY TONE」とバラードが続き、「和音 the stoic」でTAKUYA∞が一旦袖にはけた。インストとなるこの曲は、楽器隊それぞれのパートにスポットが当たる。この日は主役のサックスパートでの歓声が一段と大きかった。インストの良さはやはりCDだけでは語ることができない。ライブ会場で生音を聴くことによって、その魅力を初めて本当の意味で理解できるのだろう、と肌で感じた。
インストが終わり、楽器隊が再びパーカッションの位置について音を奏で始めると、ステージ上にTAKUYA∞が戻ってきた。特徴的なパーカッションと歌唱、そしてサックスともに始まったのは「Wizard CLUB」だ。ライブでは序盤で演奏されることが多い曲だが、今回は後半にセトリが組まれていた。
「Q.E.D」「LIMITLESS」、「零HERE」からの「IMPACT」と続き、ライブの盛り上がりは最骨頂。IMPACTのサビが歌われるころには、観客の盛り上がりにより、最前列にいた私はもみくちゃとなっていた。
IMPACTが終わると、MCでTAKUYA∞はこう語った。
「俺は誠果のことは愛してるけど、ただの幼馴染みだから愛してるわけじゃない。
「誠果に何か惹かれるものがあるから、それをこいつが持ってるから愛してる。俺にとってもUVERworldにとっても大切な存在」
「逆に俺もそういう意味でこいつに愛されてると思う。俺はこいつを愛して、誠果は俺を愛してくれてると自負してる。惹かれるものを持ち、与え合えるからこそ愛せるんだよね」
「だから、俺は何も無いお前たちは愛せない」
「もし街で逢えた時には、何か大切なもの・大切な人・大切な夢の話をしてよ。それができる奴でいてよ!そうやって、お互いに惹き惹かれる関係で居続けような」
ドキッとさせられた。はたして今の自分は街で運良くTAKUYA∞に出逢えたとしても、大切なものや人、夢の話ができるだろうか。熱中できる「何か」について語れるだろうか。
そんなことを考えながら始まったのは「LONE WOLF」。どこか孤独の切なさを思わせつつ、仲間との強い絆が感じられる楽曲だ。会場はさっきまでの熱気を帯びつつも、観客たちは静かに演奏を聴いていた。
「次の曲でラストです!皆で一緒に歌ってほしい。そして今日の熱を、皆は扉の向こうに持って帰って明日からの人生にぶつけてほしい。俺達も次のステージにぶつけるから!」
「最後の曲は、誠果が帰ってきて初めてのこの曲で終わりたいんだって。誠果が選んだんだよ。帰ってから、誠果がこのセットリストにした意味を考えてみて?」
「俺達の始まりの合唱、Ø choir」
ドラムの真太郎以外のメンバーがステージの前まで出てきて横一列に並び、演奏が始まった。自分が最も心動かされた曲を目の前で披露してもらえるなんて、はたして今後の人生であるのだろうか。
誠果の正式加入までの背景を知ったあとに聴くこの曲は、最前列で涙を流さずにはいられなかった。
この楽曲は過去のインタビューで、TAKUYA∞が聖歌隊の「聖歌」とサックスの「誠果」のダブルミーニングもあると述べている。Ø choirの由来について「ゼロがスタート地点で、ここから始まる合唱みたいな意味合い」とも語っていた。まさに、聖歌隊(choir)を思わせる楽曲だ。
あのときと同じように、私はまた涙を流した。今回は最前列という特別な場所で。まだ死にたくない。死んでなんかいられない。そう思った。
「誕生日っていうのはお祝いされる人よりも、誕生日の人がお祝いする人を幸せにする日なんだよね」
「また世界のどこかで、日本のどこかで、またこの沖縄で逢いましょう!新しい時代に足あとをつける、俺達がUVERworld!よろしくどうぞ!」
興奮冷めやらぬ中、誠果生誕祭ライブは幕を閉じた。
7年後の今、私は
あのライブから7年。彼らは今もなお、”6人”の仲間とともに歩みを進めている。あの日最前列で見た光景は、きっとこれからも忘れないだろう。7年の間で世間や自分を取り巻く環境、価値観は変化したが、根底にある「UVERworldが好き」という気持ちは変わっていない。
もしも運良く彼らに出逢うことができたら、そのときは私もTAKUYA∞のように、大切なものについて語れる自分でありたい。
UVERworldは来年で25周年を迎えるバンドだ。年々進化を遂げていく彼らの活躍を、今後も注目したい。
【余談】
生誕祭ライブに行く前、私はあまりにも楽しみすぎて、ケーキ屋さんにオーダーして似顔絵のケーキを作ってもらった。お祝いの言葉を書いたファンレターと一緒にケーキの写真を封筒に入れたことを大学の友達に報告したら「愛が重すぎる」と言われた。
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