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梅雨になったら戦争が始まる

私は東京の下町に拠をかまえている。大学入学と同時に東北の田舎から上京し、数年が経った。
 
しかしながら、東京の梅雨は性格が悪い。ジメジメというかイジメイジメである。
 
そんな梅雨の時期は学校へ行くのも難しかった。しかしある程度勉学に面白みを感じていたので雨の間を縫って通った。
 
上京して3年目の梅雨の時期、皮膚にカビが生えた。
 
誇張しているわけではない。本当にカビの一種が皮膚の上で炎症をおこし首の後ろなど赤い絵の具を点々と垂らしたように腫れ上がった。皮膚科の若い女医に「絵の具ちゃん」と呼ばれたのはさすがにその女医のことが心配になった。
 
間違い無く梅雨は人間に害をもたらすと思った。
 
気圧も低くなり、副交感神経が働くので人間の活動力は低下する。そんな中、無理して晴れの日と同じ通常業務を行うのは体のつくり方からして難しいことなのだ。
 
上京して4年目の3月の終わり頃、某疫病と「おうち時間」たるものが流行し、大学の授業開始延期が言い渡された。
自然も息抜きも充分になくなった東京に一人でいるのが自分には精神衛生上良くないと感じたので、3月から北海道の田舎に住み始めた恋人の家に居候をきめこんだ。
 
全てネットの上で完結する授業のスタイルのおかげと、一人暮らしと新しい仕事に慣れていない恋人を助けていたらいつのまにか6月になった。
私は人生を勘で生きているので、「6月は戦闘期間」だと思っている。その6月が来たぞと身構えていた。
 
結果からして、北海道にいつもの6月は来なかった。梅雨がなかった。
 
少し調べれば分かったものだが、東京の基準で言えば風や外のにおい、草花は3月で止まっているように見えた。
 
3月は環境の変化の月なのであんまり好きではないが、6月よりはましである。
 
今年もあいつがやってきた。私はそそくさと荷物をまとめ、飛行機のチケットを購入した。それは「平和宣言」のチケットである。

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