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勉強しなさいって言わなくても勉強する子にどうやって育てたの?(9)

●息子の中学受験

息子は小学5年生くらいから毎朝漢字ドリルをしてから学校に行くようになりました。中学受験用の漢字ドリルでした。もしもの時に漢字が足を引っ張っては可哀想だと思ったのもありますが、いずれにしても漢字は大人になってからも必要なので無駄にはならないと思っていました。

でも、受験準備と言えるものはこれだけです。日々の会話の中で「塾に行かずに受かったら、K学院なら行かせてあげるよ」と言ったことはあります。でも、まったく塾に行かずに難関私立の中学受験は本当に可能なのか、私にはわかりませんでした。とはいえ、時はすでに6年生の10月半ばです。

大手進学塾の試験を外部生として受けた後、いろいろな塾の「無料テスト」は受けていました。テストに合格すれば難関中学受験クラスへの入塾を許可しますよという類の無料テストです。

入塾する気はなかったのですが、全体の中での息子の位置を把握するために受けていました。息子自身も「受けたい」と言ってのことです。そこで、その中の一つの塾に「冬期講習だけでも受講させてもらえませんか?」と問い合わせてみました。

ここで、無料テストを受験してきた成果が現れました。毎回比較的好成績を取っていた息子のことを、おそらく覚えていてくれたのではないかと思います。進学塾からすると非常識な時期、6年生の10月下旬の問い合わせでしたが、「11月から入塾しませんか?ぜひ一度体験にお越しください。」と言っていただきました。

息子に、一度体験授業を受けてみるか聞いたところ、行きたいということだったので、早速受けてみることにしました。それまで毎日10時には寝ていた息子ですが、塾の授業は9時頃まであります。そしてさらに、ほとんど全員が10時頃まで居残りで勉強しているとのことでした。

体も小さかったので、体力的に大丈夫なのかということも心配でしたが、体験授業を受けた息子は「行きたい」と言いました。「寝るのが11時過ぎるよ。受験間際になったらもっと遅くなるかもしれないよ。大丈夫?」と聞いても、「大丈夫、やる」ということだったので、塾に通うことになりました。

通い始めてしばらくして、受験校を決める塾の面談がありました。「どちらを志望されますか?」「K学院を」「K学院?それは…無理です。2ヶ月半しかありません。過去に3ヶ月の通塾でR中学に合格した前例はありますが、K学院は無理です。前例がありません。」と言われました。「落ちたら公立に行きますからいいんです。」「・・・・・」

塾の方にも都合はあるでしょう。合格率というのも大切な宣伝材料ですから、こんな時期に入ってきた子に強引に難関校を受験されて不合格になったら、合格率引き下げの損害を被ります。私もそれは十分理解していました。ですから、遠慮して「冬期講習だけでも」と言ったのですから。

とりあえず、「もう少し時間があるので、様子を見ながら考えていきましょう。」ということになりました。

その後も、受験校別実践模擬テストのようなものがあって、どのテストを選択するかという届け出用紙に、すべてK学院のところに丸をつけて提出したら、息子は授業中にある先生に呼び出されて「こんな時期に急に入ってきて、K学院にスーッと入ったら、今まで何年も頑張ってきた子に申し訳ないやろ。他の学校も(他の学校を?)受けなさい。」と言われたそうです。

その話を私にしたとき、息子は塾に入って初めて目に涙を浮かべていました。楽しく勉強していた気持ちを否定されたように感じたのかもしれません。

最終的にはこちらの気持ちを尊重してくださり(半ば諦めたのかもしれませんが)、志望校はK学院とすることになりました。他は一切受けないつもりだったのですが、毎日頑張っている息子を見ていたら、滑り止めにもう1校だけ受けさせようかという気持ちになり、学校見学にも説明会にも行ったことのないR中学にも出願することにしました。

学校に直接電話をして、見学だけでもさせていただきたいとお願いすると、12月の終業式の日であれば、校舎内以外は自由に見てもらっても良いと言っていただき、夕方息子とともに見学をさせていただきました。

わずか2ヶ月半、塾に通わせただけで(その時点では実質わずか2ヶ月弱)、「もう1校だけ受けさせよう」と思ってしまうのですから、小学3年生や4年生から受験のために多くの時間を費やしてきた親子が何校も受験する気持ちはわからないではない、と初めて思いました。

入塾してすぐに、とりあえず算数に関しては何とかなるだろうと思いました。先生も「いざとなったら数学を使ってでも何でも解けばいい。」とおっしゃってくださいましたし、小学校の授業でも数学検定でも出会わなかったパズルのような算数の問題の解法を知ることに、息子はうきうきした気持ちだったのかもしれません。授業で習うことすべてをどんどん吸収していきました。

理科に関しては、算数を使うような理科の問題についてはすぐに順応していきましたが、多くの受験生が長年かけて覚えてきたような植物や昆虫のような問題は暗記が勝負なので、この短期間にすべて頭に入れることができるのかと不安でした。

最大の問題は国語でした。小さいころから興味の大半は算数に注がれていましたので、本を読むということを進んでする子ではありませんでした。学校の図書室で借りてくるものといったら、どこか算数、数学がらみのものでした。中でも「秋山仁先生のたのしい算数教室」のシリーズは、塾通いしている子どもたちにも対抗できる力を息子に与えてくれたのではないかと思っています。

しかしながら、読解力には乏しいところがありました。塾の国語のテストを受けても、まず解答欄をすべて埋めることができません。ひどいときには4分の1くらい白紙です。この状態を2ヶ月半で克服できるのだろうか、合格しなかったらそれはそれでいいと思いながらも、「書けないものを時間内に書けるようにすること」など可能なのだろうか、私にはまるでわかりませんでした。

すごいものですね、入試本番の日、試験を終えて出てきた息子は、「とりあえず全部かけたよ。」と言いました。「国語も?」「うん」国語の答案用紙をすべて埋めたということだけで、私は「塾ってすごいわね」と思いました。

わずか2ヶ月半でしたが、息子の場合、塾に通っていなければ合格は難しかったのではないかと思っています。もちろん、算数については、塾に通っていなかったことを感じさせないくらいの力はあったかもしれませんし、新しいこともそれほどの苦労も無く身につけていきました。

しかし、入試は算数の試験だけではありませんから、中学受験を早くから視野に入れて、それまでに家庭であらゆる手段を講じていたのならともかく、我が家では中学受験は基本的には考えておらず、6年生の夏休みには息子は公園で友だちと遊んでいましたし、とにかく時間がたっぷりあるので、夏休みの宿題の自由研究にもかなりの時間を費やしていました。

息子がこのような短期間の受験勉強で合格できた要因は、「短期間といえども塾に通い最低限のところは押さえて試験に臨むことができた」ということと、もう一つは「そんな時期に入ってきた息子を受け入れて認めてくれた周りの子どもたちと先生がいた」ということだと思います。

塾に入れることは決めたものの、そんな時期に入ってきた新しいライバル(であるかもしれない人物)を周りの子どもたちは受け入れてくれるのだろうか、ということが心配でした。最初は子どもたちのことだけを心配していたのですが、例の「授業中に呼び出された『他の子たちに失礼事件』」があってからは、先生方も内心、邪魔者に思っているのではないかという不安を持つようになっていました。

その塾は全国規模の大手塾ではなく、地域で長年難関中学にも合格者を出しているそれほど規模の大きくない塾でした。難関中学受験指導には定評のあるF先生という方がいらっしゃって、最難関中学を受験する子どもたちはF先生の授業を受けることになります。

息子もたしか12月に入ってからF先生の授業も受けるようになりました。そのF先生が授業中にふと「Tくん、せめて夏から塾に来てくれたらよかったのになぁ。」と息子に言ったそうです。それを聞いて、他の子どもたちが「えっ?Tくんって今まで塾行ったことないの?他の塾から移ってきたんじゃなかったの?」と驚いたそうです。

おそらく、F先生は「この子が合格できるかどうか五分五分、せめてあと3ヶ月早く来てくれたら安心して試験に送り出せたのに。」そう思ってくださったのではないかと私は思っています。

F先生のこの言葉をきっかけに、同じ中学を目指す子どもたちの中に「先月初めて塾に来た子が、今まで何年間も塾に通ってきた自分たちと同じところを目指そうとしている。しかもなかなかやるな。こいつすごいかも。」みたいな空気が生まれ、息子は仲間として受け入れられたのではないかと感じています。

親が決めた中学受験ではなく、息子自身が、もっともっと勉強できる場を求めての中学受験でした。そのために、息子自身が塾に行くことを決めました。


合格発表の日、午後だけ仕事を休んだ私は、学校から帰ってきた息子と二人でK学院に向かいました。発表時間まで正門は閉じられており、門の前にはすでに到着した親子連れが列を作っていました。

その列に並びながら、私は不思議と春からこの門をくぐって登校するであろう息子の姿を想像していました。

私たちのところに、塾の先生が近づいてきてくれました。K学院を受けるという私たちの意思を、最後には「それでいきましょう」と尊重してくれた先生です。

「試験、どうだった?」息子に声をかけると、息子の返事は「うん、まぁまぁかな」。横から、私が「一応、解答用紙は全部埋めたらしいです。」と言うと、「えっ?理科も?」と聞きます。「あの、宮沢賢治の問題も?」

試験当日に販売していた試験問題を記念に購入したにもかかわらず、ろくに内容を見ていなかった私は、「理科で宮沢賢治?なにそれ?」とまるで意味がわかりません。息子は「はい」と答えています。「あれ、読んだことあったの?」「あれを読んだことはないけど、知っていました。星は好きだから。」

あとで息子に聞くと、理科の問題の一つに、宮沢賢治の童話「双子の星」の中にある「星めぐりの歌」と、その説明文があったそうです。そして、空欄に適当な語句を入れる問題などが出されたそうです。その予想外の問題に苦戦した子が多かったのでしょうか。しかし、相当な回数、科学館に通っていた宇宙や星が好きな息子には、自然と身についていた知識だったようです。

合格発表の時間になり、校舎内に入りました。合格者の受験番号を書いた大きな紙が、貼りだされているのが、奥の方に見えました。

靴を脱いでスリッパに履き替えながら、遠くに見える番号に目をやると、見えました。息子の受験番号がありました。息子に、「ママもう見えた。あったよ。近くで見ておいで。」と言うと、息子は走り出しました。


ところで、息子同様、いえ、息子以上に、娘はシビアな金銭感覚を持っていました。小学生のときから環境問題に熱心で「エコ」な子でした。

私は、電気を無駄につけっぱなしにしたりするようなルーズな方ではありませんが、「すぐに行くから」と思って点けていた洗面所の電気をすかさず消されたり、こたつやエアコンの電源は、知らぬ間に切られているといったことが日常茶飯事でした。

そんなエコで節約家(?)の娘ですから、「私立の中学に行く」なんて、大いなる無駄だと感じたようです。かなりの反対を受けました。受験するにはまず、この娘を説得しなければなりませんでした。

ママの子育ての計画の中にはね、もともと私立の中学に行くなんてことは想定してなかったの。ずっと前にも話したことがあったけど、勉強は自分自身がするもので、行く学校によって、その人の能力が大きく変わるとは思ってないよ。

だから、Tくんがいい大学に行けるようにとか、そんなことを考えて受験させる気はないよ。K学院に行っても、公立中学、高校に行っても、Tくんの行く大学は同じところだと思ってる。じゃあ、公立でいいじゃないって思うんでしょ。それもわかってる。

でもね、Tくんは中学の数学、自分でもう終わっちゃったよね。公立中学に行ったら、授業中きっとつまらないよね。ママはね、それが可哀想だなって思うの。もっともっと知りたいことをどんどん勉強できるところで勉強させてあげたいなって思うの。だから、合格したら行ってもいいよ、行かせてあげるよ、って思ってる。

娘は、私の気持ちを理解してくれました。


小学校の卒業式でもらった息子からの手紙を紹介します。

パパ、ママへ

産んでくれてありがとう。
カレンダーを取ってくれてありがとう。(※2歳のころのこと)
ご飯を作ってくれてありがとう。
数字を書いてくれてありがとう。(※2~3歳ころのこと)
洗濯してくれてありがとう。
いろいろ買ってくれてありがとう。
毎日、仕事をしてくれてありがとう。
漢字の勉強をいっしょにしてくれてありがとう。
塾に行かせてくれてありがとう。
K学院に行かせてくれてありがとう。

いろいろ大変だと思うけど、これからもよろしくね。

(次回は「●娘の中学受験(公立中高一貫校)」)


勉強しなさいって言わなくても勉強する子にどうやって育てたの?(1)

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