見出し画像

96.お散歩と徘徊

2023年の話ですが、認知症やその疑いがあって家族などが警察に捜索願を出した行方不明者の数が全国で19039人になりました。

2012年から統計を始めていますが、開始以来11年連続で最多を更新しています。

警察庁によると、認知症の行方不明者数は2012年には9607人だったのですが、10年余りで約2倍に増えました。

2023年は1日あたり52件の届け出が出された計算になります。

年齢別では80歳以上が11224人、70歳代が6838人、69歳以下は977人で、70歳からリスクが高まる傾向があります。

男女比は男性が55.7%、女性は44.3%になっています。

2023年になる前から届け出られた人も含めると、18221人が生存した状態で見つかり、大半が3日以内に所在確認されています。

一方で、徘徊中に事故に遭ったり、体調を崩すなどして553人が死亡しました。

認知症の行方不明者のうち、死亡が確認された割合は3%です。

認知症になると、外出した際に帰り道や行き先が分からなくなって、行方不明になってしまうことがあります。

2020年頃から、徘徊によって行方不明になる高齢者の数は子どもの迷子を上回っています。

行方不明になった場合、99%以上の人は1週間以内に保護されるなどして所在が明らかになっています。

一方で、行方不明から5日間以上経過してしまうと生存率は0%になっており、早期発見が極めて重要であることがわかります。

生存していても、自宅から遠く離れた場所で保護されたり、保護されても認知症の為に名前や住所を言えずに身元不明者とされるケースもあります。

また、踏切事故や交通事故に遭う場合や、徒歩ではなく自転車や自動車で出かけて他人を巻き込んでしまうような事故を起こしてしまうこともあります。

認知症の方が徘徊する理由は、認知症じゃない人が歩いて外出する理由と同じ場合がほとんどです。

その為、本人に歩く能力がある限りは、徘徊と呼ばれる症状は誰にでも起こり得ると考えられます。

これらの行動は、本人にとっては何かしらの意味がある行動なのですが、周囲の人にはその理由が理解されないことが多く、徘徊と見做されてしまいます。

目的地が遠くにある故郷だとすると、歩いて到着できるはずもなく、また、道が分からなくなってパニックになってしまいます。

近所での徘徊でも、夏場であれば熱中症の恐れがありますし、家の中であっても転倒して骨折する危険があります。

家族や支援者は、徘徊する理由や目的が何かを考えて、その行動による影響や危険性を予測して、リスクを抑える為の工夫が必要になります。

高齢者の行方不明は、前期高齢者(65歳以上74歳以下)と、後期高齢者(75歳以上)で状況が大きく変わってきます。

前期高齢者よりも後期高齢者の方が徘徊で行方不明になった時にすぐに見つかる傾向にあります。

その理由は、前期高齢者の方が認知症の症状が軽度で体力があることから、後期高齢者よりも徘徊する距離が長くなり、自宅から遠く離れた場所まで行ってしまう場合が多いからです。

徘徊による行方不明は、後期高齢者よりも前期高齢者の方が、注意が必要になります。

行方不明の時間が9時間を過ぎると発見率が大幅に減少してしまうこともわかっています。

行方不明になってから1日が経過すると行方不明者の死亡率が約37%も増加するので、9時間以内に発見できるかどうかが分かれ目となります。

認知症の方が徘徊で行方不明になってしまう原因に、認知症の中核症状である記憶障害と見当識障害が挙げられます。

記憶障害は、新しいことを覚えられないで、いろいろなことを思い出せなくなる症状です。

認知症の初期段階では直近のことから数日前までの短期記憶が失われます。

外に出てみたものの、何で外出したのかを忘れてしまうことなどがあります。

認知症と区別される物忘れは、夕食を食べたけど、おかずが思い出せないなどの記憶の一部を思い出せない症状です。

記憶障害は、夕食を食べたことすべての記憶が抜け落ちている状態になります。

見当識障害は、現在の時間や現在居る場所、周囲の人や周囲の状況などがまったく分からなくなってしまう症状です。

外出先で、ここがどこなのか…、なんで自分がここにいるのか…と分からなくなり、パニックになることがあります。

認知症の方が夕方になると、落ち着きをなくし、出かけようとする症状のことを夕暮れ症候群と言います。

これは認知症の周辺症状(BPSD)です。

自宅にいるのに、昔の記憶が甦って、家に帰ると言って故郷に帰ろうとすることがあります。

夕暮れ症候群は、デイサービスやショートステイなどの慣れない介護施設にいることの不安や落ち着かなかったりすることによるストレスが引き金で起こることも多いようです。

また、自宅であっても、リフォームをしたり、子ども達と同居し始めたことが引き金になることもあります。

認知症の記憶障害によって、道順や目印などを忘れてしまったり、見当識障害により自分が今どこにいるのか分からなくなることがあります。

こうした症状は屋外だけではなく、家や介護施設の中であってもトイレの場所が分からないで、食堂や事務所などを歩き回ってしまうことで、徘徊していると見做されることもあります。

記憶障害が進行すると、家族の顔や知人の顔すらも忘れてしまい、自宅に知らない人がいると不安になり、安心できる居場所を求めて外へ出てしまうこともあります。

また、認知症により感情のコントロールができなくなるので、介護に不満があったり、自宅で疎外感を感じると現実逃避から外出してしまうこともあります。

見当識障害により、現在自分がいる場所が分からなくなることから、自宅にいるにも関わらず、家に帰らなきゃいけないと、どこかに帰ろうとする行為も徘徊と見做されます。

また、最近の短期記憶が抜けて、若い頃など昔の長期記憶が甦る記憶障害の影響で、自分が青年と認識してしまい、実家などに帰ろうとすることもあります。

しかし、街並みが変わっていたり、親が既に他界し実家がなくなっていることなどにより、道に迷いパニックになって徘徊に至ってしまいます。

記憶障害により、自分がなぜここに来たのかが分からなくなり、今いる場所の確認の為に外へ出たり、施設内を歩き回ってしまうことも徘徊と見做されます。

過去の習慣を思い出して、記憶障害によって今の年齢や生活状況を忘れて、過去の記憶や習慣で行動を起こしてしまい、結果として徘徊になってしまうこともあります。

脳の一部である前頭葉や側頭葉が、萎縮してしまうことで発症する前頭側頭型認知症は、同じ行動を繰り返し行ってしまう症状(常同行動)が見られます。

この常同行動により、目的もなく同じところを歩き回ってしまい、それが徘徊になってしまうこともあります。

レビー小体型認知症の場合は、その場にない物や音が見えたり聞こえたりしてしまう幻視や幻聴などの症状が見られます。

この幻視や幻聴により、強い不安を持ち、その場から逃げようと歩き回ってしまうことも、徘徊と見做されることがあります。

徘徊自体を止めることは非常に困難です。

認知症の方が出かけようとした時、無理に止めるのではなく、一緒に外に出てみると良いかもしれません。

外に出て歩いているうちに、外出した目的を忘れたり、気持ちが落ち着いたりすることがあります。

歩きながらどこに行くのか出かける目的を聞いたり、道端で見たものについて話してみたり、通りかかったお店に入ってみたりすることで、高齢者をリラックスさせることもできます。

また、一緒に行動することで、徘徊のルートや危険な場所、立ち寄るポイント、間違いやすい場所などを知ることができます。

認知症の方も適度な運動は必要です。

外に出かけることは、健康の面においてもストレス解消の為にも、とても良いことです。

出かけることで、歩く能力や地理感覚を保持できるので、認知症の進行を緩める効果もあります。

その為には、一人でも安全に通える場所を持っておくのも良い方法です。

デイサービスなどの介護施設や、地域の集いの場、認知症サロンなど認知症について理解し、支援してくれる場所を活用するのも良いと思います。

やってはいけないのは、外から鍵をかけて部屋から出れないようにしたり、 靴を隠したりなど、封じ込み作戦は止めておきましょう。

暴力や暴言などの威圧的な態度で接しても効果はありません。

効果がないどころか、もっと悪循環に陥りエスカレートしていきます。

夜の徘徊に苦労するご家族や支援者もいると思います。

夜の徘徊を防ぐ方法としては、体調管理や生活リズムを整えておくのもとても大切なことです。

昼寝をし過ぎたり、活動量が減少すると夜眠れないのは誰だって同じです。

定期的に昼間に運動する習慣を作るのは効果的です。

認知症の場合、徘徊の時に遠くまで歩いてしまう原因として身体的には元気で活動するエネルギーがあり余っているという側面があります。

適度に運動してエネルギーを発散して、心地良い充実感や疲労感を味わうことで外出衝動を抑えられる場合があります。

運動によって足腰が鍛えられるので介護予防の効果もあります。

何もやることがなく、話し相手もいない環境では、外出しようとしがちになります。

集中できることや、やりがいのあること、夢中になれる趣味などをやることで、一人で外出する気持ちを抑制できます。

これらのことは一方的に押し付けたりしないで、本人が過去、どんな仕事をしていたのか、どんな趣味があったのかを聞いて、それに沿ったものを提供するのが良いと思います。

最近は認知症の方による万引きが社会問題になっています。

コンビニの店長などに写真を見せたり、連絡先を伝えておくことで、犯罪を未然に防ぐことができます。

また、市区町村によっては、認知症高齢者の徘徊などSOSを共有するネットワークを確立しています。

こういったネットワークに行方不明者の情報を共有して、多くの人に気にかけてもらう方法もあります。

地域包括支援センターは管轄内の事業所と連携しているので、デイサービスやケアマネジャー、ヘルパーなどの福祉関係者に行方不明者の情報がすばやく広がります。

毎年増え続けている認知症の徘徊による行方不明対策や孤独死対策として見守りネットワークがあります。

見守りネットワークは、行政や福祉関係者、民生委員、自治会に加えて、民間事業者やNPO法人などが高齢者に関する地域の課題やSOSなどの情報を共有したり、探したりするものです。

見守りネットワークを利用した方々は、行方不明者を発見するまでに平均15.8時間だった一方で、利用しなかった方々は、発見までに平均43時間もかかっていたというデータもあるぐらい効果的です。

行方不明の対策は連携が大切です。

そう理解していても、家族に徘徊する老人がいることを恥ずかしくて近所に知られたくない…、大ごとにしたくない…と考えている人も多いのが実情です。

その結果、認知症で行方不明になると、家族だけで探そうとして、結果的に手遅れになってしまう…ということも多々あります。

しかし、現実には認知症による行方不明者の数は年々増加しており、地域との連携やお互い様の関係は築き上げていかなければなりません。

全国には、認知症を正しく理解して、認知症の方やその家族を温かく見守ったり、手助けをしてくれる認知症サポーターがいます。

認知症サポーターは、市区町村や地域包括支援センターなどが実施する講習を受けて、修了したことを証明するものとしてオレンジ色のリングを身に着けています。

全国の市区町村に、認知症に関する相談や制度又はサービスの案内などをしてくれる認知症地域支援推進員もいます。

徘徊の悩みや介護サービスのこと、治療のことなど認知症に関することが相談できます。

認知症の方やその家族などが、定期的に集まって、参加者の介護経験を話したり、困っていることを相談する場である認知症サロンもあります。

認知症サロンは、介護事業所やNPO団体などが主催していて、無料または低額の負担で参加できます。

自宅で介護を続けるのが限界となった場合は、介護施設に相談するのも方法です。

入所することも検討するのも何も悪いことでも恥ずかしいことでもありません。

認知症に特化したグループホームや、軽度の認知症であれば認知症対応が可能なサービス付き高齢者向け住宅などに入居するのも選択肢として挙げられます。

専門の施設であれば、本人には適切なケアができ、そして家族も安心できます。

徘徊は力づくで止めるのではなく寄り添う対応が必要です。

公的制度や民間サービス、介護施設などを活用して、家族だけで抱え込まないで地域や専門家などの力を借りることが最善策だと思います。

徘徊は認知症の症状の1つなので、行方不明の危険性があってもを止めることはかなり難しいです。

しかし、徘徊は子供の迷子よりも深刻な場合も多く、行方不明になって怪我したり、事故に遭遇したり、命を落としてしまう危険性もあります。

認知症は進行するものですが、適切な対応方法を取ることでリスクを軽減することはできるはずです。

ストレスなく穏やかな気持ちで生活することは、安全に過ごすだけではなく、認知症の進行を緩和することもできます。

本人にとっても、それを支える家族にとっても、地域にとっても、できるだけ穏やかに過ごす為に、誰かに頼ったり、助け合える環境作りが求められているということで、本日の ふくしのおべんきょう を簡単ですが終了します。

写真はいつの間か…札幌市内で撮影したものです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?