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02.Well-being

ウェルビーイングという言葉が初めて登場したのは、1946年に世界保健機関(WHO)が設立された時でした。

ウェルビーイング(Well-being)は、健康、幸福、福祉などと直訳されます。

世界保健機関憲章では、“健康とは、単に疾病がない状態ということではなく、肉体的、精神的、そして社会的に、完全に満たされた状態にある”と定義されています。
 
“健康(ウェルビーイング)”は、狭い意味での心身の健康のみを指すのではなく、感情として幸せを感じることや、社会的に良好な状態を維持していることなど、全てが満たされている広い意味での“健康”であると解釈できます。
 
その満たされた状態が持続することが“幸福(ウェルビーイング)”であるのに対し、幸福(Happiness)は、一時的な幸せの感情を指す言葉とされています。

また医療や福祉の分野で使われるウェルフェアという言葉もあります。

ウェルフェアは福祉という意味ですが、福利厚生という意味で使われることも多い言葉です。

社会的弱者を救済するという保護的な考えが含まれており、ひとりひとりが尊重されて自己実現していく“福祉(ウェルビーイング)”とは、少し意味合いが異なります。
 
ウェルフェアは手段で、ウェルビーイングは目的という意味で使い分けられることも多いようです。
 
ウェルビーイングの概念として有名なものに、“PERMA”という指標があります。

これは、ポジティブ心理学という自己実現理論を唱えて発展させたマーティン・セリングマンさんによって考案されたものです。
 
人は以下の5つの要素を満たしていると幸福であるとするもので、頭文字をとって“PERMA”と呼ばれています。
 
Positive Emotion(ポジティブな感情)
Engagement(何かへの没頭)
Relationship(人との良い関係)
Meaning and Purpose(人生の意義や目的)
Achievement/ Accomplish(達成)
 
また、世論調査やコンサルティング業務を行うアメリカのギャロップ社が定義した5つの要素もよく知られています。
 
Career Wellbeing:仕事に限らず、自分で選択したキャリアの幸せ
Social Wellbeing:どれだけ人と良い関係を築けるか
Financial Wellbeing:経済的に満足できているか
Physical Wellbeing:心身ともに健康であるか
Community Wellbeing:地域社会と繋がっているか
 
この分野の研究はこれまで欧米が先進していましたが、近年は日本でも、東洋と西洋、集団主義と個人主義などの違いに着目し、また日本の国民性を考慮に入れたウェルビーイングの研究が進められています。

日本でもウェルビーイングが注目されるようになった第一の理由に“モノ”から“心の豊かさ”へと価値観が変化してきたことが挙げられます。
 
効率や利益、売り上げなどの経済指標を優先してきた結果、格差の拡大や地球環境の悪化、貧困など様々な問題が起きました。

これらはこれまでの“モノ”の価値観では解決できない課題ばかりで、成長を追い求めることに限界がきていると認識され、地球規模で調和し、より良い社会を作る方向へと変わろうとし始めたということです。
 
ウェルビーイングの実現が必要とされる背景としては、
 
・価値観の多様化

ダイバーシティという言葉に代表されるように、価値観は凄い勢いで多様化しています。
性別や国籍、文化など、様々なバックグラウンドを持つ人が集まり一緒に生活をするようになりました。
こうしたことから、社会的に、個人の多様性を尊重することの重要性が高まっています。
多様性を尊重することで様々なアイデアが生まれたり、コミュニケーションが活発になったりする側面が大いにあるからです。
社会が個人の多様性を受け入れ、異なる価値観やバックグラウンドを持つ人材がその能力をフルに発揮する為の環境を整備することは、ひとりひとりの幸福感を増し、社会の質を高め、そして新しい取組にも繋がると考えられます。
 
 
・人材不足や人材の流動性の高まり

国内では少子高齢化が加速し、中長期的に見て深刻な人材不足に陥ることが予測されています。
終身雇用という概念は希薄になり、若者を中心に、価値観に合う組織を求めて転職することが一般化しました。
企業において、事業に貢献する人材の確保は大きな課題といえます。
企業は利益だけでなく、従業員やその家族に対する幸福を追求する姿勢も、明確にする必要があります。
そうすることで、企業に対する従業員の帰属意識や忠誠心が高まり、従業員の維持・確保に繋げられます。
 

・働き方改革の推進

日本では高度経済成長期を経て、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少に直面し、さらにブラック企業の社会問題化もあって、働き方の多様化が進みました。
政府は一億総活躍社会の実現を掲げ、2019年から働き方改革関連法の施行を開始しました。
この法律は、働くひとりひとりが多様な働き方を選択でき、より良い将来の展望を持てるようになることを目指したものです。
長時間労働の是正、雇用形態に関わらない公正な待遇、高齢者や女性の就労促進などが掲げられています。
 

・健康経営

経済産業省が推奨する“健康経営”によって、企業の健康への関心も高まりました。
健康経営とは、健康管理を経営的な視点で捉え、従業員への健康投資が生産力の向上、企業の業績向上に繋がることを期待する経営手法をいいます。
 

・コロナウイルスの感染拡大

働き方改革や健康経営によって取り入れられるようになったウェルビーイングの視点が、より重要視されるようになった背景に、コロナ禍における価値観の変化があります。
リモートワークが普及し、自分らしい働き方を考え直す人も増えました。
しかし、その一方でコミュニケーション不足やメンタルヘルスの問題も指摘されています。
 
日本では、イギリスに続き、世界で2番目に“孤独・孤立対策”の担当大臣が任命されました。
2021年になって、政府が毎年発表する“成長戦略実行計画”に、「国民がwell-beingを実感できる社会の実現」という文脈でウェルビーイングが登場しています。

更に、2021年9月には日経Well-beingシンポジウムが開催され、政府や企業関係者、有識者等によって、ウェルビーイングの実現へ向けた議論が行われています。

2021年は、日本におけるウェルビーイング元年とも言われており、今後もウェルビーイングに向かう時代の流れは進んでいくと考えられます。
 
2023年に国連が発表した世界幸福度ランキングを見ると、日本は47位で、先進国の中では最下位という残念な結果でした…毎年のことですが…。
 
調査された6項目のうち、特に“人生の自由度”と“他者への寛容さ”が低いという特徴が見られています。

ランキングはアンケートの表記内容や国ごとの価値観などの影響を受ける為、この結果がすべてではありません。
 
しかし、個々の事情に合った働き方ができる労働環境が充分でなく、ジェンダーや学歴など属性で判断されることも多い日本において、ウェルビーイングはまだまだ浸透してないと考えられます。

日本のウェルビーイングは、ようやく転換のスタート地点に立ったばかりと言えるのかもしれません。
 
ウェルビーイングと世界の共通目標であるSDGsは、ともに現代社会に必要不可欠なものです。

SDGsの目標3には“すべての人に健康と福祉を”とあります。

あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進するとあります。

ここでのウェルビーイングは“福祉”と訳され、ターゲットを見ても、妊産婦や新生児の死亡率、感染症対策、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(全ての人が適切な予防、治療、リハビリ等の保健医療サービスを、支払い可能な費用で受けられる状態のこと)などについて示されているように、“健康”、“福祉”などの意味合いが強く感じられます。
 
しかし、全体で捉えると、SDGsは“地球上の誰一人取り残さない”、経済、社会、環境の3つのバランスがとれた社会を目指すものです。
 
ウェルビーイングも、単に個人が幸せであれば良いのではなく、個人と社会、地球全体が満たされた状態とは何かを考えるべきものです。 

ウェルビーイングは、SDGsを達成する為の価値観の基準であるとも言えます。

貧困がなくなり、質の高い教育を受けることができ、人や国の不平等がなくなり、17の目標を達成した先にあるのが、地球全体のウェルビーイングであると考えられています。

写真はいつの日か…倶知安町から羊蹄山を撮影したものです。

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