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「日々、新ナリ」-文化財施設で学芸員として仕事をするということ

書いてる人
重岡伸泰(しげおか のぶひろ)
植彌加藤造園株式会社 指定管理部 無鄰菴、岩倉具視幽棲旧宅 主任学芸員。
 私の所属する指定管理部は、京都市所有の国指定名勝・無鄰菴および国指定史跡・岩倉具視幽棲旧宅の二施設を指定管理者として管理運営する部署に当たります。私自身は、両施設で主任学芸員として、展示、解説などの仕事やボランティアガイドの育成などを主に仕事として担当しております。

無鄰菴
岩倉具視幽棲旧宅

 今回冒頭に「日々、新ナリ」と何だか判らない言葉を掲げましたが、こちらは古代中国の王朝、殷の湯王(とうおう)の用いた青銅製の洗面器に刻まれてある言葉です。湯王は毎朝洗顔する時に、さあ今日も新たな一日の始まりだ、昨日とは違う、明日もさらに新たな日になるぞ、といつも洗顔時にこの洗面器を使うことで気持ちを新たにしていたと考えられています。

 学芸員が日常取り扱う文化財は、何となく永遠不変、過去から現在、未来に向けてずっと引き継がれていくもの、というイメージをお持ちの方が多いのではないでしょうか?
 もちろん文化財施設で働くということは、一年間を通じてこの時期には修学旅行生が多い、この時期は小学生の社会見学での来場がある、といった一定期間で繰り返されるルーティンはもちろんありますので、毎年、年中行事的に変わらないこともあります。

無鄰菴

 しかし、実際には史跡や名勝庭園に同じ日は一日として訪れることはありません。例えば来場者の多い日、少ない日。春夏秋冬の季節の違いや、朝昼夕夜の時間の移ろい、晴雨曇雪といった気候の変化など、それぞれの組み合わせによって無限の広がりが加わります。今年の元日には、無鄰菴には雪が積もってうっすらと雪化粧をした状態でした。
 文化財施設で仕事をする立場としては、朝一番に真っ新な状態での雪景色を見ることが出来るのは役得以外の何物でもありません。このように常に無限の広がりを持つ空間で仕事が出来るということは、常に「日々、新ナリ」という気持ちにさせてくれる仕事環境であると言えるでしょう。

原稿を書いていた本日も、朝から積雪がありました。このような景色を見れることも、文化財施設で仕事をする醍醐味の一つです。(2022年1月14日、無鄰菴)

 これから、ヘリテージデザインという全体の枠の中で、文化財施設で仕事をする学芸員の具体的な仕事や、その裏話などについて何回かにわたって書いていきたいと思います。私の所属する指定管理部は、無鄰菴と岩倉具視幽棲旧宅の二つの施設の指定管理者として活動する部局となっています。無鄰菴は山縣有朋の京都における別荘、庭園であり、岩倉具視幽棲旧宅は岩倉具視が幕末の頃に約三年間暮らした建物を中心とした施設です。それぞれ異なる特色を持つ施設ですので、それぞれの特色ある企画について、ご紹介していきたいと思います。次回担当の回(4月)は、企画の立案やお客様の反応などを含めた具体的なお話をご紹介できればと思っております。

岩倉具視幽棲旧宅

 来月は指定管理部、平野による「文化財施設でボランティアを受け入れる際の工夫」などについての内容で掲載の予定です。


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