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陽だまりの粒 外伝②

1988年4月某日
ゴールデンウィーク休みを前にした日の夕刻、和彦は、仕事の同僚と言うよりも幼なじみの冨美子に誘われて喫茶店に行くことになった。
冨美子の話しだと、どうしても会わせたい人がいるので会って貰いたいと言う事だが、明日は行きたくもない日帰りの社員旅館があるし、三ヶ月に一度位しかない定時上がりの日だから、どうも気乗りがしないのだが、一度キチンと断ったのに、何故か慌てた冨美子が車で家まで
迎えに来てくれる力の入れようだ。
そこまでして会いたい人はどんな人なんだろう?冨美子の運転する車の助手席で和彦は外の景色を眺めながら、思い巡らしていた。

喫茶店の駐車場に車を止めて、和彦が喫茶店の中に足を踏み入れると女性の客は一人もいなく、七人の男のグループが端にたむろして集まり、咥えタバコでふんぞり返りながら全員がこっちにガンを飛ばしていた。
少し遅れて冨美子が店の中に入って来ると、和彦にあっちと指を指して男のグループに突き出した。

和彦は、また修羅場かと覚悟したが不思議と恐怖は感じなかった。
確実に言えるのは、コイツらとは初対面で過去に、何か揉めたという記憶もなけれは、友人・知人がコイツらと何かしら揉めた話しも知らないのだ。

「まあそこに座って」とリーダーらしき男が以外にソフトな口調で和彦に目の前に座るように指示し、タバコの火を消しながら、唐突にここに呼んだ意味を話し出した。
「和彦君今日から君は、俺の兵隊になって俺を儲けさせてくれ」と訳の分からない事を言い出し、和彦の回りを囲んだ奴の一人が和彦の肩に腕をかけながら耳元で「分かってるんだろうな!と脅しをかけてきた」

いくら恫喝されても、和彦はコイツらには絶対に負けないと思ったが、コイツらを遊ばせるだけ遊ばせて見るかと、心にゆとりを持ちながら、相手方の出方を待った。

「和彦君なんで分からないの、君がいくら働いても安給料なのは分かってる…だったら俺の兵隊になり君も仲間を捜してくれたら、君にもお金が入るようになるから」と胡散臭い話しを長々話して来る。
中々和彦が屈しないから、段々向こうに焦りが見えて、言葉が乱暴になってきた。

「マスターコーラお願いします」和彦はまだ何も頼んでいない事は最初から分かっていたが、間を取る為にここまで何も頼まなかったのだ。

その後も同じ事を永遠に繰り返す話しが続いたが、その時店に中学生の妹の泉がよく家に遊びに来ている金髪の同級生太田を連れて入って来て、同じ職場で働く村上さんが彼女を連れて入って来た。

知った顔が同じ店にいるからには、ぶ様な姿は見せれないな…と心の底から思うと、パーカーのポケットに手を入れ、ポケット中から8×4のスプレーを二本取り出して、相手のリーダの目を目掛けて8×4のスプレーを二本噴射し、リーダーの手元にあった熱めのコーヒを頭からかけた。

一瞬の出来事で呆気に取られた残されたメンバーだったが、早速リーダーを捨てて次のリーダー選びに取り掛かり、和彦は帰されて、冨美子は余計な人を連れて来たと言う理由でこの場で追放された。

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「雪野、昨日は何してたの?」
夕べ喫茶店にいた、村上が旅行先の厳美渓で絡んで来る。
「何の事ですか?」和彦がとぼけて話しをはぐらかすが、「コイツ人の頭にコーヒーかけてやがんの」「わ~ゆきちゃんは不良だ〜」同じ歳の女子社員が面白がって、あれこれ聞き出そうとしている。
すぐ後ろに遠足で来ているであろう高校生の集団が何やら、騒いでいるが村上の話しはまだ続いた、その時に和彦目掛けて、蓋の取られて中身の入ったお茶のペットボトルがダイレクトに和彦の背中に飛んで来て、背中に当たった勢いで中身が散らばった。

「痛てぇ」和彦が明らかにムッとした表情で後ろを振り向くと、スマなそうに半べそをかいた女子高生が一人立っていた。
村上は昨日の事を思い出して、和彦を押さえようとしたが、「大丈夫ですから、いくらなんでも女子高生相手に何もしませんよ」と村上に言って、逆に制服にお茶がかかったであろう、女子高生を気使った。
「誰かタオルでこの娘の制服拭いてあげて」
和彦は自分が拭いてあげたら、問題になりそうな気がして、一緒に歩いていた女子社員にそれを頼んだ。

和彦が「ありがとうございました」と頭を深々と下げて去って行った女子高生の胸元の名札に目をやると、花畑 咲と書かれていた

彼女が去って行く後ろ姿を眺めていた和彦は、
一緒に歩いてくれる人がいないことに気づいた。
イジメ?だろうなと思っても、今の自分に何かしてやれる事があるのか?と想いを巡らしたが
やがて一人離れた和彦を女子社員達が引き戻しにやって来た。
花畑 咲と名札に書かれた女子高生が後ろを振り向いた時に和彦と視線を合わせた。
何でか分からないが胸がときめくのを感じて、何でか分からないが、また何処で会える様な気がしてならなかった。

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