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風は吹き続け、今円舞する。 「風のロンド」を描いた高橋南さんの今に迫る。

静けさと激しさが共存している。

全方向から引かれる曲線をみていると、風が自由に舞う世界へと引き込まれるような、自然な引力をもつ、風のロンド。

この作品を手掛けたのは、岩手県花巻市のルンビニー苑に入所する、高橋南さん。

実は南さんは、この作品を最後に作品としての絵を描いていません。

今回の作家インタビューでは、そんな南さんのありのままの「今」に迫ります。日常で垣間見る瞬間や心温まるエピソードを、南さんの母親である由美子さんからお話をうかがいました。

書き手:玉木穂香(広報PR)、淺岡花奈(インターン)

愛してやまない南ワールド

南:「あっかんべー」(白目の顔)

―南さん、とてもお元気ですね!(笑)

由美子さん:
そうなんです。今日は週に一度の帰省なのですが、家にいる時はテンションが高くて。

―帰省中、南さんと由美子さんは何をして過ごされることが多いですか?

由美子さん:
今はコロナの影響で外出しづらいですが、南が落ち着ける車椅子で、ショッピングモールを見物して歩いたり、フードコートでラーメンを食べたり、スーパーで好きなお菓子やコーヒーを買うことですね。缶コーヒーが好きで、メーカーまで指定するんです。(笑)スーパーだと金色の缶がお気に入りのようです。外食するときに何を食べたいかと聞くと、必ず「ラーメン」と言って。味はみそだったり、しょうゆだったり。野菜を摂るためにちゃんぽんを食べたり、色々ですね。

―南さんは食べることが好きなんですね。

由美子さん:
そうですね。果物も好きで、家族と一緒に食事するときは「早く食べないと南が全部食べちゃうよ」と言ったそばから、南が1/8カットを一口でほおばって、あっという間に一人で食べてしまうんです(笑)

―周りを明るくする方なんですね。由美子さんにとって、南さんは一言で言うとどんな方ですか?

由美子さん:「ガハハハハ」と笑って、周りを明るくする子です。

―たしかに、南さんの目を細くして口を窄める笑顔は本当に素敵です。

南:「はいチーズ、ニコッ。」

―そうその笑顔!南さんは写真を撮られることも好きなのでしょうか?

由美子さん:
最近は写真を撮ってもらうことに夢中ですね。「カシャっ」というシャッター音にまず満足、それから画面をスクロールして自分の姿を確認して、また満足。

―お気に入りのポーズはあるのでしょうか。

由美子さん:帽子やメガネを身につけて撮ることが好きなんです。メガネは頭にのせて、時には4つのせることも(笑)

―おしゃれをして撮ることがこだわりなんですね。ルンビニー苑で南さんはどのように過ごされているんですか?

由美子さん:
空き缶とペットボトルを潰す作業をしています。毎日ぐっすり寝ていますし平穏な日々です(時には問題行動も・・)。でも一つだけ、服を木にぶら下げることはやめてほしいなと。
パジャマだと落ち着いていられるのですが、なぜか普段着になると脱いで、オブジェのように飾っていたい。それはお庭だったり、ルンビニーの病棟の前の木だったり。
それを阻止すると不穏のスイッチが入るので、ひとまず見て見ぬ振りをするのですが、難しいですね。「今日もぶら下がっているな。ああ。」と思って。

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―ほんとだ、ぶら下がっていますね、ぺこちゃんのパーカーが(笑)

由美子さん:
こうして時々写真を撮っては、家族と「今日はこんなふうに飾ってあったよ」と共有するんです。

南:「おわり」「ごくろうさまでした」

―南さんがおわりということなので、次に進みましょうか(笑)

風のロンドに包まれた家

―ところで、南さんは今、絵を描かれることはあるのでしょうか?

由美子さん:
私も試しにクレヨンと紙を用意してみるのですが、少し描くと「終わり」といって、片付けてくださいと指示するので、ほとんど描かないですね。

―そうなんですね。風のロンドは明るいオレンジの印象が強いですが、南さんの好きな色は何色なのでしょうか?

由美子さん:
実をいうと、南はこれまで暗い色を選ぶことが多かったんです。「風のロンド」の後に描いた絵があって、その作品は暗い印象でした。
一見暖色の印象もある「風のロンド」ですが、暗い色もありますし、南にとっては実は暗い部分の方が好きなのかもしれないです。

―先日、「風のロンド」が裏地デザインに起用されたメゾンスペシャルのセットアップを着た南さんの写真をいただきました。他にも「風のロンド」は様々な商品に起用されていますが、南さんの一番のお気に入りはどのアイテムですか?

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由美子さん:
実は南自身はあまり興味を示さないのですが、いただいたものやイベントに参加した時の写真は額縁に入れて、全てリビングの「南のコーナー」に飾っています。

それで少しでも南が自分の作品だということを認識してくれたら嬉しいなと思って。それから、今年岩手で開催されたパラリンピック集火式での聖火皿の除幕式には、風のロンドのスカーフを身に着けて参加しました。

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―「南のコーナー」素敵ですね!後ろにあるのは風のロンドの・・・ウォールポケットでしょうか?

由美子さん:
そうです。2014銀座イルミネーションの装飾で使用されたフラッグを回収後にいただいて、私が手作りしたものです。他にも、壁にタペストリーのように飾ったり。家全体が風のロンドに囲まれています(笑)

―風のロンドに包まれた家――。
いるだけであたたかい気持ちになりそうですね。
南さん宛にファンレターが届いたとも伺っています。その時の南さんはどんな気持ちだったのでしょう?

由美子さん:
きっと嬉しかったと思います。手紙の送り主の方は風のロンドを「モネの絵のようだ」と気に入っていただいて、今もメールのやりとりを続けています。

―南さんのファンの方は多いのではないかと思います。この記事で作品だけでなく南さん自身の魅力も深堀して伝えることができたら嬉しいです!

由美子さん:
最近、日本人の方が海外で風のロンドのエコバッグを持っている写真を目にしました。南の作品がこんなにも広く愛されていることがまだ信じられないですし、嬉しい限りです。

ヘラルボニーと出会って、これからも。

―最後に、南さんにとってヘラルボニーはどんな存在でしょうか?

由美子さん:
風のロンドは、南が高校2年生の時に描いたものです。当時の担任・立花佳子先生(小林覚さんの高校の時の先生でもあります)に出会わなければ、今のヘラルボニーさんとも出会うことがなかったはずです。この場をお借りして感謝を伝えたいです。
ヘラルボニーの目にとめていただいたおかげで今のヘラルボニー作家・高橋南は存在しているのです。3年前「MUKU(ヘラルボニー改名前の前身ブランド)」で傘を発売いただいてから、首相官邸のイベントに参加したり、岩手県の来賓の前で東京パラリンピックの除幕式に参加したり、今まででは考えられない貴重な体験をさせていただき、本当に感謝しています。日々の生活ではいろいろ大変な事がありますが、ヘラルボニーさんは私たちの励みになっている会社です。
南は今年、30歳になります。できることに制限があり、思いもよらぬ行動をするので、常にサポートが必要です。それでも、ルンビニーでは身体を動かし、家ではハイテンションで元気に過ごし、ルンビニーに帰ってぐっすり眠るという生活をこれからも大切にしていきたいんです。

さいごに


「障害」は、空気のように自然な日常で、その生活の中に小さな幸せがたくさんある。南さんと家族の間には風のロンドに見た暖あたたかさを感じました。

南さんの心は優しく自由で、明るい時も暗い時も吹き続ける強い風のよう。

風のロンドが南さんの心の一部であるならば、
今も自由に舞い、暖かい風が吹き続けている。


↓ 南さんの作品「風のロンド」のアートプロダツはこちら ↓

↓「風のロンド」のライフスタイルプロダクツ(ソファ)はこちら ↓

↓ 東京・京橋で開催の展覧会「ヘラルボニー/異彩のみらい」でも展示中  ↓

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《 展覧会概要 》
展覧会名:「ヘラルボニー/異彩のみらい」
会  期:2022年2月1日(火)~2022年3月27日(日)
会  場:BAG-Brillia Art Gallery-
    (東京都中央区京橋3丁目6-18 東京建物京橋ビル1階)
主  催:株式会社ヘラルボニー
特別協力:東京建物株式会社
企画監修:公益財団法人 彫刻の森芸術文化財団
開館時間:11:00~19:00
休館日 :毎週月曜(月曜が祝日の場合は翌日の火曜へ振替休)
料  金:無料


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