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【小説】『フツーに仲良く暮らせていたらどうする?』-元旦2/6

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(6回中2回目:約1500文字)


 暁神と宵神の、二柱が宮の外に出た時には、既に他の全ての神々が暁の宮を背にしながら暁の宮の戸口部分は空けて、祭壇に向かい立ち並んでいる。
「やあ、みんな! 迎えに行ってくれてありがとう!」
 近付いて行く二柱に、振り向いた神々は皆、笑顔を見せる。元旦に暁神と宵神が、暁の宮を離れ得ない事くらいは心得ている。
「わざわざお迎えに行かなくてもぉ、祭壇に集められて来ますのにぃ」
 草花で緑色の身体から、ツルを伸ばして季神は不満顔だが、何も季神の役目に能力を軽んじているわけではない。
「ヒトの前にも時々は姿を見せておかなければ」
「見せる度に私達には悲鳴が上がりますけれど」
 10月を治める蝕神(しょくのかみ)が呟き、7月を治める嵐神(あらしのかみ)が頷いた。
「我々は喜ばれ讃えられるな」
 8月を治める戦神(いくさのかみ)が呟き、9月を治める美神(びのかみ)が頷いた。
「私達はその時々で微妙ですぅ」
 6月を治める幻神(まぼろしのかみ)が身を揺らがせ、3月を治める狩神(かりのかみ)が溜め息をついた。
 12の月それぞれを支配する、十二柱の神々が住まう、12の宮を円周に配したその中央には、円形の祭壇を設けた広大な宮殿だ。神々の中でも巨大な嵐神のために、天井も高い。
 そしてその、円形の祭壇には、十代の後半から二十歳前後と思われる、12人の男女が横たわり、皆眠り込んでいた。着飾り化粧を施された者もいれば、縛られて足枷をはめられた者もいる。
 皆この一年の間に、神々に捧げられる贄(にえ)だ。つまり今現在はヒトの世で平穏に暮らしている者もいるはずだが、そこは祭壇を管理している季神が、この一年の時間も支配しているので問題は無い。
「12の人数だけはいつも、正確だな」
「少し、無理をして集めたような者も混じっています」
 11月を治める炉神(ろのかみ)が頭を掻き、2月を治める霜神(しものかみ)が頷いた。
「連れて行く、寸前でようやく……『贄になる』……、と聞けたような者も……。まぁ候補でしたら私の月には……、常にいくらでもいますから……」
 5月を治める憂神(うれいのかみ)が、ヒトの耳には届きそうにないか細い声で苦笑した。
「幼児が一人、混じっている。不愉快な事に我が贄として」
 戦神が心底げんなりした溜め息をつく。
「残虐を好む神と誤認されているようだが、我が伴侶になりようがないではないか」
「あと男の子がふたぁり」
 季神が残念そうな溜め息をついたのは、常に女体でありたい自分の贄ではなかったからだ。
「私の贄にはいつも目が見えない子が選ばれているんですよ。縛られてもいて、かわいそうに」
 蝕神が笑みを浮かべながら呟いているが、決して気分が良さそうな様子ではない。
「まずは縛られてる子はほどいてあげてっ、服が汚れている子は、お着替えさせてあげましょっ」
 季神が口にしてまたその通りにした。
「3歳くらいの子は、この子が成長した姿に変えちゃいますぅ」
 幻神が口にしてまたその通りにした。
「中身は変わっていないではないか」
「ええ幻ですけどぉ、致し方ないかとぉ。ヒトの感覚は大部分が、見た目にごまかされてくれるのでぇ」
「目が見えない子も見える事にしてもらえませんか」
 蝕神のいつもの頼みに「ほいほーい」と、幻神も応えた。
「それでは」
 宵神と横並びでいた暁神が、おもむろに祭壇へと進み出た。端際まで近寄りながら祭壇との境は越えず、ゆっくりと、神々の並びを振り返る。
「贄達の目を、覚まさせる」
 戸惑う表情も中にはあったが、神々は概ね笑みを見せ頷いた。暁神も一つ、頷いて、祭壇に向き直りその、右の目を開く。

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