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【小説】『フツーに仲良く暮らせていたらどうする?』-元旦1/6

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(6回中1回目:約700文字)


元旦


 国の全土に、また全国民に知れ渡った仕来たりではない。

 一つの国家として存立して在る事自体、神秘に思えるほど、その国は風合い様々な気候に植生に彩られている。
 惑星全体では要石とでも言うべき位置に座し、南北に細長い国土は、何者かが亜寒帯から亜熱帯までの標本を、少しずつ寄せ集めて造り上げたようだ。国随一の神として讃えられる御名も、実のところ国の都を支配してきた民族の、一伝承に過ぎない。
 その神を生み成した夫婦神の、そのまた起源は謎のままだ。
「第一声から苦言を呈するようで悪いが」
 正月を治める暁神あかつきのかみが、新年の屠蘇を差し向けながら口にした。
「我々の事は『Holy Spirits』くらいに訳しておいた方が、諸外国との軋轢が、少なく済んでくれないだろうか」
 暁神の御座所である、暁の宮の内で、12月を治める宵神よいのかみは笑みを浮かべる。この神々の世界において、口火を切るのは常に暁神の役目だ。
「それは実に頻繁に耳にする誤解だ」
 盃を受けながらの宵神の言葉に、暁神も笑みを浮かべた。
「一神教は何も、ただ唯一の神を戴いているわけではない。多くの中から唯一を、選び抜いた事が意味を持つ」
 盃を干した宵神が、
「つまり我々の存在くらいは、世に認められている」
 この会話を終わらせたヽヽヽヽヽその瞬間が、33年ごとに訪れる、特別な一年の幕開けになる。
「みなっさぁーん!」
 暁の宮の外側から、4月を治める季神きのかみの声が響いてきた。
「今回の贄がいらっしゃいましたぁー。祭壇に、集まってくだっさぁーい!」

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