見出し画像

【小説】『フツーに仲良く暮らせていたらどうする?』-元旦3/6

未読の方はまずこちらをご覧下さい。

(6回中3回目:約1300文字)


 強い光に差し照らされて贄達は、わずかずつ身動ぎ始める。
「ん……」
 それぞれに身を起こし出した時には、暁神は退き神々の並びに戻っている。
「ここ、どこ……?」
「なんでこんなにたくさんの人がいるの……?」
「ウソ……。私……、目が見える」
 贄達の中から届いた声に、蝕神は微笑みを浮かべた。
「ここが話に聞かされていた、神々の住まう宮殿ね」
 際立って質の良いドレスを着ていた、贄の中でもひときわ美しい娘が、場の支配権を手にしたかのように言い放った。神々の並びに目を向けるなり立ち上がり、その内の、一柱めがけてまっすぐに歩み寄ると、
「美神様」
 その御前でスカートの広がりも優雅にひざまずく。
「この国で、最も美しい娘として、美を愛する貴方様のために捧げられました、私は……」
「ああ。大丈夫です。名乗らなくて」
 ふっと表情をくもらせる様子に、神の方が声をかけ手を差し伸べた。
「それに私は美神ではありません」
「え?」
 娘は蝕神の手を取りながら、改めて神々の並びを間近に見たが、フフッ、と吹き出しむしろ確信に満ちた様子でいた。
「そんなはずありません。だって、貴方ほど、まるで光り輝くように美しいお方なんて、他にいないじゃありませんか」
「いや。アンタにしかそう見えてないんだけど」
 贄の中でただ一人髪を緑色に染めた娘がそう言って、
「美神は、私だが」
 神々の内の一柱に目を戻した途端、ドレスの娘は絶叫した。
「うわぁ。君はいつもこれを聞かされているわけか」
「そうなんです。ええ」
 美神と蝕神の二柱を中心に、神々はのんびり構えているが、
「ウソっ……! ウソよ。ウソでしょおおぉ! 私達家族の前に現れ出た、あの神々しいお姿は一体何? ひどいわ私達を騙していたの?」
「だーからアンタにしかそう見えてねぇんだって。うるっせぇな」
 緑髪の娘の声も、他の贄達が顔を見合わせ頷き合う様子も、ドレスの娘には届いていない。
「いやあぁぁムリぃっ! このっ……、目に映るだけでもおぞましい、汚ならしい化け物に捧げられるとか絶対に、ムリぃ! やめて近寄らないで触らないで。耳が腐りそうな声聞かせないで!」
「こちらの方で願い下げなんだが……」
「お嬢さん。9月生まれではないんですか?」
 蝕神から声を掛けられた途端静かになった。
「美神に捧げられる娘は、9月生まれが条件だと聞いていましたが……」
「10月の……、1日生まれ、ですけれど……」
 蝕神の、姿に見惚れて声に聞き惚れて、頬も赤らめてぼうっとなっている。
「美しい私なら、美神に捧げられる資格は充分だって……、1日くらいは構わないでしょって……、一家で……」
「朔日が最もその月の質に満ちるのに」
 暁神の苦笑に、表情は様々ながら振り向いた神々が幾柱かいた。
「私の贄は大抵の場合、10月生まれではないんです。先ほどまで目が見えなかったお嬢さん、貴方は、何月生まれですか?」
 急に注目を集めたその娘が、うろたえて答えをためらっていた間に、祭壇の端からまた別の一人が鋭い閃きと共に飛び出して来た。

前ページ | 次ページ
 | 承 |  | 


何かしら心に残りましたらお願いします。頂いたサポートは切実に、私と配偶者の生活費の足しになります!