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【小説】『フツーに仲良く暮らせていたらどうする?』-元旦5/6

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(6回中5回目:約2800文字)


「それぞれに、どこまでを聞かされて今ここにいるかは分からないが、贄として、すぐさま命を奪われると思いながら来た方もいるようだが、実際のところはこうだ。我々は33年に一度、ヒトの世から伴侶を迎え取る」
 ホッとした者も頷いた者もあり、贄達の表情は様々だった。
「貴方達には我々の伴侶として、今日から一年の間、それぞれの神と生活を共にしてもらう」
 微笑む神に笑みを見せない神がいて、神々の表情も色々だ。
「自分の相手はどの神か、まだ把握できていない方もいるだろうが、心配はいらない。先ほどからの流れで察しならついている事と思う。ヒトは皆、自分の生まれ月を支配する神の、姿形に性質を恋慕い、また神からも慕われるようになっている」
「え。あんなのも? 好きになれる人いるの?」
 ドレスの娘がすぐそばに立つ美神よりも、神々の並びを見て口にしたが、
「いるんだ。貴方も蝕神からは好かれるように」
 ようやく届いた亜麻色の神からの言葉に、口をつぐんだ。
「この、円形の祭壇を設けた広場の、外周に並んでいる十二の宮が、それぞれの神の御座所であり貴方達が暮らす場所にもなる。そしてあらかじめ心得ておいてもらいたいんだが、伴侶、である以上貴方達の生活は、『交配』を伴うものになる」
 特に何とも思わないふうで頷いた者が、贄の中に三分の一、意味が分からない様子で首を傾けた者が三分の一、
「ええっ!」
 と驚いたり赤くなったりした者が、残り三分の一ほどいた。
「じゃああんた何、幼児と? 気っ持ち悪い!」
 ドレスの娘が美神に向けて言い放ったが、元幼児は怯えた様子で美神に寄り付き美神から軽く抱き寄せられてもいて、見た目は成長した姿に整えられているので、ドレス娘の方が心無い様子に見えてしまっている。
「その……、えっと、それってさ……」
 贄の中から勇気を振り絞ったような声が上がり、
「どう、なるのかな俺……、男、なんだけど……」
 男にしか見えない娘と、
「私も……」
 娘にしか見えない男子が、とりわけ赤くなってうつむいている。
「うん。ありがとう。しかし、問題は無い」
 虹色の神は朗らかな笑顔で言い切った。
「神々は皆、性質や見た目といった好みはともかく、男女両性を併せ持っている」
「それって鼻で笑っちゃうみたいな何、純潔、とか求められんじゃないの?」
 一人だけ床にぺったりとあぐら座りでいた、緑髪の娘が言ってくる。
「アタシ、とっくに男とはヤりまくってきてんだけど」
 贄達の中にはそれを聞いて、眉をひそめた者に、息を詰めた者がいたようだが、
「うん。何ら、問題は無い」
 虹色の神は朗らかな笑顔のままだ。
「それと言うのもヒトの世でヒト同士が行う性交渉とは、似て非なるものだからだ。我々に生殖は必要無く、ヒトの子が宿る事も無い」
「じゃあ何なのそれって。何のため?」
 ポケットからタバコか何かを取り出そうとして、服が変わっている事に気付き舌打ちした。
「ヒトとしてヒトの身体を備えたまま、今ここに来てくれた、貴方達に敬意を表し、身も心も慈しむために行われる、手段の一つと思ってもらいたい。貴方達の方で望まない事であれば、我々には無理を強いるほどの欲望は無いから、そこはある程度安心して」
 隣で頷きが無かった事に気付いて、虹色の神は一旦口を結んだ。
「……とは言え我々の方でも、33年ごとに巡り来るこの機会を、この上無く心待ちにしてきた事は、知っておいてもらいたい。これまでの32年間を、伴侶無しで耐え切れたほどに」
「どうして33年ごとなんですか?」
 贄の中から声が上がった。
「分からない。初めからそう決められていた」
「貴方達、神様なんでしょう?」
 呆れたように聞こえる声も届いた。
「おかしな話に聞こえるかも知れないが、神々といえども自然の摂理には従うんだ」
 おかしな話に思って吹き出した者が何人かいたが、他は贄達にも神々にも、笑う様子が無かったので黙り込んだ。
「『交配』が行われる日は、もし行われるとするならば、晦の晩、日が沈んでいる間に限られる。それぞれの神との相性によっては、『似て非なる行為』に及んでもらっても構わないが、それぞれの宮の内側に留めて、外には明かさないでもらえると有り難い。なぜなら我々の内には、晦の晩しか伴侶に触れる事も叶わない者がいる」
 炎に包まれた神に、氷に覆われた神もいたので、贄達は皆頷き合った。
「姿が無い私みたいな者ですかねぇ」
 布状になった幻神が、祭壇の周りを飛び回って見せたので、贄達も神々も皆苦笑混じりながら微笑んだ。
「晦の晩だけは、ヒトのために定められた姿形から解放され、接触に『交配』が可能になる」
「あの……」
「ん?」
 元幼児の娘が上げた声に、虹色の神が注目した。
「えっと……、その……、んーっ、と……」
「何なのあんた、イライラするわね」
 ドレスの娘から言われて「あう」と驚いている。
「言われている事がほとんど分からないと思う。無理も無い」
「何だろう。ゆっくりでいいから、話してみて」
 美神から肩に手を置かれると息をついて、
「その、イチネンがおわったら、パパとママのところにかえれますか?」
 虹色の神が一瞬笑みを消し息を詰めるような事を口にした。しかし一瞬だけですぐ朗らかな笑みを作ってみせる。
「帰れない」
「あう」
「申し訳無いが今ここに集められた時点で、貴方達の名前に、ヒトの世における立場は、失われてしまった。一年を過ごしてもしヒトの世に帰れたとしても、ヒトの世の方でこれまでと、同じようには扱われない」
 実のところ3歳児に聞かせるには難しい言い方を続けているようだが、丸く見開いた目を向けてその子は、黙って聞き入っている。泣き出すのではないかとハラハラしながら見守っていた贄達も、ホッとさせられたくらいに。
「先ほど戦神の伴侶に決まった君」
 虹色の神が顔を向けるより先に、その彼の方では話が向けられる事に気付いていたようだった。
「狩神はそうとは言いたがらないだろうが、君は妹さんのために良い事をした。理由はどうあれ贄になる事を望まない者が、今この祭壇に集められる事は無い」
 狩神は分かりやすくふくれた様子になって、祭壇からはそっぽを向く。
「妹さんは心根では望んでおらず、君が替わってくれた事に、間違いなく、感謝している」
 彼の方でも狩神とは別の向きにそっぽを向いたが、
「別に、感謝とかいらねぇし」
「狩神のフォローによっては心を濁らせずに済む」
 亜麻色の神の声が随分と、重みを乗せて響き、重みに堪えかねたように狩神が、あえて軽い口調で言い出した。
「あとでナイフとナイフケースちょうだーい。フォローに使うからぁ」
「やだね。俺の命より大事なもんだ」
「うん。そうだよねぇ。それは分かってるからさぁ。出来たらで」
 お互いそっぽを向いたまま、顔は向け合わずに言い続けている。ウサギの耳がピクピク動いて、妙に可愛い。

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