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春を謳う鯨 ㉓

◆◇◇◇ ㉒ ◇◇◇◆

ミナガワは、答える代わりに自分も膝立ちになって、鈴香の両手を取り、重たげに影を作っているその丸みの下に導くと、自分は鈴香の乳房を丁寧に、包んで、その鋒を、鈴香が支えている自分の先端に、触れさせた。

ああ、すごい、こんな…。

思わず呟いた鈴香に、ミナガワは盗むようにキスをして、微笑んだ。交互に、周りや付け根を愛撫した。鈴香は、ずっしりと鈴香の掌に委ねられるミナガワを、うっとりと、感じていた。

あ、…ミナガワ…ミナガワも、硬く、なってきた…? 私すごく…興奮、してる…。

ミナガワは、鈴香、ちょっとずつ、ちょっとずつね…? ぴったり、くっつけて、だんだんくるくるって、擦ってみよっか…? と、吐息交じりに、囁いた。

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…鈴香は、ゆっくり、ゆっくり、楽しみたい。ミナガワは自分からはあまり、…鈴香に、何かをしてくれるとき以外には…こうしたいとかああしたいとかは、言うことがなくて、なんでも、鈴香に合わせてくれて、本当にそれでいいのか、鈴香は不安に思っていた。本当にそれでいいのかと、鈴香が抱いている不安を、ミナガワはたぶん知りながら、何も言わずにただ優しさを積み重ねることで、取り除いていった。鈴香は、坂道を踏みしめながら登るような、息の弾んだ、鈍い速さで、だんだん素直になった。沸き起こるように、ミナガワに何かをしてほしい、ミナガワと何かしたい、という気分になる、それを、気づけば、自然に受け入れられるようになっていて、そして、それを口に出すことを、不安に思わなくなっていた。1年経ってやっと…振り返って、鈴香はようやく、ミナガワのそんな根気強さに、気づくことができたのだった。

鈴香が、そのときどきの気分で本当に、してほしいと思うことは、小さな、細かな、ことだ…唇を重ねずに舌の先どうしだけで感じ合いたいとか、腕の背をつぅっと、爪で撫でてほしいとか、もう少しだけ同じキスをしていたいとか、お臍を舐めてほしいとか、内腿をなぞってもっと焦らしてほしいとか、そんなことをセックス中に言うのは鈴香には、とても勇気のいることで、佐竹さんにだって、言ったことはなかった。ミナガワは、鈴香が躊躇いがちに見せる合図を、必ず汲み取って…ミナガワを信じきれないまま、けれど、ようやく、鈴香が勇気を出して言えるようになると、ミナガワは、教えてくれて嬉しいよ、と言わんばかりに愛おしげに、それをひとつひとつ、叶えていった。

ミナガワは鈴香の気分を、呼応しているかのように察した。鈴香が高まってくるとそれを、不思議なほど正確に見定めて、安らかに、穏やかに、けれども確実に、円を幾度も重ねて狭めるように、鈴香を追い詰めた。鈴香がずっと追い求めてきた、真っ白な中心は、他のどこでもない、鈴香のなかにあったのだということを、ミナガワは鈴香に、教えてくれた…。

「どれくらい経ったろう」。ミナガワといると、何度もこの言葉に当たる。

鈴香はその言葉が重なるたびに、鈴香があれを、それを、してほしいと思うということ自体が、ミナガワを喜ばせて、そしてそれをミナガワに求めることが、そのまま、鈴香がミナガワを愛おしむということになるのだと、…信じられないような気持ちで…知っていった。どれくらい経ったろう、どれくらい、経ったろう、…鈴香はだんだん、心が快感に蕩けてしまって、感じている自分だけになったような、軽やかな気持ちになる。そして、そんな、軽やかに蕩けきった感覚のなかで、鈴香がおそるおそる守りながら運ぶ、ちいさな優しい炎を、ミナガワがすぐそばに寄り添って、一緒に見つめ、守ってくれている、安心感で、…鈴香は、満たされていく…。

髪を乾かすのも煩わしいほど、昂ぶっていた。鈴香はバスタオルを鈴香の背中に回し掛けるミナガワの首に、腕を絡めて、ねっとりと唇を交わした。ミナガワは両手を使って、入浴のせいでなく濡れそぼっている鈴香を、慈しんで、ときどき、痛いほどに高まった鈴香の胸先を、まるでキスするような仕方で、自分の胸に掠らせた。

バスタオルが、床にするりと、落ちた。

ミナガワを見た。ああ、ミナガワも、鈴香を感じているんだと、…鈴香は波間に溺れゆくような気持ちで、視線が、視線の先にある快感が、繋がっている感覚を、味わった。唇をついばみあいながら、ベッドに並んで腰掛けた。ミナガワにこちら側の片脚をベッドにあげさせて、こちらを向かせた鈴香は、髪を耳にかけ、体を倒して、床に足先がついているほうのミナガワの腿に、キスをした。

最後まで、できないかもしれないけど…。

ミナガワは、吸った息を止めて、体を強張らせた。軽く制止するような仕草で、ミナガワは鈴香の肩に手を置いた。

あ、…ね、鈴香は、しなくていいんだよ…?

…? どうして…?

どうしてって、だって…。

ミナガワは躊躇いがちに、私は、だって…でも、普通…と、言いかけて、唇を結んだ。

鈴香は悩ましげにまつげを瞬かせるミナガワを、じっと見つめてみた。ミナガワは…漫画みたいに束になった放射状の下まつげが、とても可愛らしいと鈴香は思うけれど、そういえば、言ってあげていない…。ベッドへ乗せたミナガワの脚に乗り上げるように近づき、額と額、鼻先と鼻先をぐっと、くっつけた。ミナガワの体に緊張が走るのがわかった。鈴香が唇を重ねながら指を滑りこませると、ミナガワはたっぷりと、生温かく、期待に揺らいでいた。しばらく、ふんわりとなぞって…ミナガワが両脚をベッドにゆるゆると、上げて、開き、鈴香を受け入れてくれるのを待ってから、鈴香は体を離して、ミナガワの脚の間から鈴香の中指へ、光の糸が絡んで延びる様子を、ミナガワに見せた。鈴香は、指を舐めて、微笑んだ。

キスを中断したまま、ほのかに開いたミナガワの唇の奥には、綺麗に並んだ白い歯列の頭と、優しい色合いの舌が見えていた。鈴香は態勢を変えて、体を折って、ミナガワの入り口のごく近くに口付けた。

ミナガワは、鈴香の肩に触れて、引っ込めて、背中にそっと、手を置いた。

ミナガワは、海の味がした。


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今日は明日、昨日になります。 パンではなく薔薇をたべます。 血ではなく、蜜をささげます。