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山本文緒の新作【自転しながら公転する】読んだ

山本文緒さんの7年ぶりだという長編小説。

あああああああああ〜〜〜〜〜〜〜!!


山本文緒の作品をほぼすべて読んでいた私にとって

(唯一読んでいない「あなたには帰る家がある」がドラマ化された時はなぜ?と思った、こわくて読めていないので近々手をだします)

待望の…!

ドッキドキ、ヒヤッヒヤの…!

新作…!!!!!


【プロローグ】からはじまり、本編、そして【エピローグ】


このプロローグとエピローグがなかなかにニクい。

プロローグを読むことで、「勝手にラストがみえてしまう」のだ。

物語は一喜一憂しながら進んでいく。


親の介護、安定しない仕事、できたばかりの不安定な恋人、いいことやよくないことが、さざ波のようにくり返される。


結末は、想像がつく、だけどその「想像する結末」にたどりつくまでの過程がわからない、

いや主人公の性格(と、山本文緒の作風)的に、「なんとなくこうなるんだろうな」と予想をつけながら読んでいると、

思わぬところで「え、そうなるん」と声がもれる。



【服には、その服を着る必然性が要る。

もし、素敵な服が好きでそれが着たいのならば、そういう服を着る必要のある生活をするしかない。

ハイファッションの世界に飛び込むか、素敵な服にふさわしい恋人を作るか。】

これは、地元のアパレルブランドで働く主人公のミャーが、以前勤めていた東京の友人に会いにいったときに思った胸の内だ。


【「お金持ちなのにどうしてバイトするの?」

「経験はお金じゃ買えないですからね。」】

お金で経験は買えない。これ、お金持ちじゃなくても、共通することだよなあとしみじみ。


【「ニャン君にとって私は外国人だよね。恐くないの?」

「恐い?どうして?」

「私だったら価値観が違いすぎる人と結婚するなんて恐いけど」

「同じ国の人だって価値観はひとりひとり違うでしょ」】


価値観っていう言葉がなかなかに好きになれない私は、なんだかこのセリフが胸にとまった。

価値観。なんとなくざらざらした気分になる言葉。

どうしてだろう、どうしてそのワードを聞くと、首をかしげたくなるんだろう。

高校のとき、あまり恋愛をしないクラスメイトに、「どういう人がタイプなの?」と聞いた私に、「価値観が同じひとがいいな」と言ったことを思い出す。


価値観がまるで一緒。それって、こわくない?

だって、なにか一つでも、少しでも「合わない」と思ったら、もうそれだけでその人と恋愛はできないってことでしょう?

たがいの違いを認めない完璧主義な子なんだ、と思って、価値観という言葉が末恐ろしく感じた。


【お洒落な人って狭量な面があると思います。

ダサいって思うのはその人の自由ですけど、人の持ち物を、聞かれてもないのに、そんなふうに指摘するなんてどうかと思う。

ネクタイならネクタイの、ビジネスバッグならビジネスバッグの、用途を果たしていれば別にいいじゃないですか。

そこにセンスをプラスするのは余剰金がある場合です。

ないから簡素なものを選んだわけですよね。】


主人公のミャーが、無職の恋人に10万円のネックレスをプレゼントされて、「こんなのもらえない、そんなお金があるならあなたが持ってる安っぽいネクタイとかバッグを変えられたのに」と言ったことに対しての、ミャーの友人のセリフだ。

おしゃれな人は、許せないものが多く、その許せないものを削ぎ落として、おしゃれにしていくんだろうな、それが「狭量」なんだろうなあ、と感心。

おしゃれって、センスだ。センスは、余剰だ。

用途にセンスをプラスできるのは、お金持ちのできることなのだ。

まあ、お金だけじゃないけれど、お金がある程度ベースとなっているのは間違い無いのだと思う。


【恋愛なんて楽なわけないですよ。人間同士の感情のぶつけ合いですからね】

思い切って仕事も恋愛も休むという手もありますよ、と指摘されたミャー。

人間同士の感情のぶつけ合い。相当なエネルギーだ。

相手にぶつけるだけじゃなく、相手からもぶつけられるんだなあ、恋愛って。


【甘えていいと言われるのは、甘えるなと言われるよりきつかった。】

これ、わからなくもない。

甘えるんじゃないよ、と言われれば、ハイよッやってやんよ、と返しができるけれど、

自分が自活していくなかで「甘えていい」と言われると、はいそうですかと素直に甘えることができない、むしろ甘えちゃいけないと感じる。

憐れまれている、とミャーは感じていたけれど、まさしくそんな感じ。


【アハハハハと空笑いが出る。

笑いながら、おばさんてこういう笑い方をするなと頭の隅で考える。

何か失敗したとき、中年女性はごまかすために大笑いする。】

ごまかすための大笑い。

怒りやかなしみを、ごまかすための大笑いを、中年じゃなくてもするよ、と思ったセリフだった。


【明日死んでも悔いがないように、百歳まで生きても大丈夫なように、どっちも頑張らないといけないんだよ!】


ひええ、頑張ります。


【別にそんなに幸せになろうとしなくていいのよ。

幸せにならなきゃって思い詰めると、ちょっとの不幸が許せなくなる。】

シメのこの言葉。

言うのはいったい誰でしょう?



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JURIA
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