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目標達成にむけた「ワクワク」とはどんな状態か? 〜「ワクワク」を中国語で表現すると〜

あなたの「ワクワク」と私の「ワクワク」

written by 小池恭久

先日、日系中国現地法人A社の社長と、プロジェクトの目的についてディスカッションする機会がありました。

同社は中国において業績拡大を続けており、社員の目標達成へのコミットメントも非常に高い。一人ひとりが自らのミッションを確実に遂行している。非常に勤勉な社員が多い企業です。

そのような状況の中、社長から

「3年後、5年後を見据えた時、現状のままでは描いているような成長は実現できないと感じている。何かが足りない。」

というコメントがありました。

「ワクワク」とはどんな状態か?

話をよく聞くと、

「目標達成に向けて必死に働いてくれているが、全く遊びがない。目の前の自らのミッションは遂行するものの、他部門や全社の視点で考える余裕がないように感じる。このままでは1、2年は持つかもしれないが、いつか疲弊するかもしれない。ロボットのように働くのではなく、もっと一人ひとりがワクワクしながら仕事をして欲しい。」

とのこと。

この「ワクワク」とはどんな状態なのか。

日本語のオノマトペ(擬音語+擬態語)は、その擬態語の多さから約4,500あると言われます。正確な数字は諸説あるようですが、他言語の3倍から5倍あるとも言われ、非常に多いという認識が一般的だそうです(韓国語はさらに多く、8,000語!)。

一方、中国語には擬態語が非常に少ないため、擬態語の通訳は大変難しいと言います。

参考までに、コーチ・エィの中国人スタッフにも「ワクワク」を中国語でどう表現するかを聞いてみました。

欢欣雀跃(喜びに小躍りする)
激動(高ぶる、興奮する)
兴奋(興奮する)
期待(期待する、待ち望む)
跃跃欲试(やりたくて気が焦っている)
迫不及待(待っていられない)

など、それぞれから様々な表現が出てきます。私自身の感覚では、どれも「遠からず、近からず」といった印象を受けました。

さて、通訳さえも難しいこの「ワクワク」という状態を、どうやって共有し、浸透させていけばいいのでしょうか?

「理念」をどう解釈しているか

考える中で、私は以前サポートさせて頂いたB社のプロジェクトを思い出しました。

B社は会社の理念として「誠実である」ことを大切にされています。中国事業開始当初から、経営トップは現地の社員にもそのことを伝え続けていらっしゃいました。

そして、事業規模が大きくなり、社員数も増えていく中、経営トップは改めてその理念を浸透させ、理念に基づいた行動を増やしたいと考え、コーチング・プロジェクトをスタートさせました。

経営幹部を中心にスタートしたコーチングの中で、

「あなたにとって『誠実である』とはどういうことですか?」

と一人ひとりに問いかけました。

興味深かったのは、これまで長い間、理念に基づいて行動してきた経営幹部の方々でも、返ってくる答えがそれぞれ違っていたこと。

「時間を守ること」
「約束を破らないこと」
「常に平等に接すること」
「嘘をつかないこと」

どれもたしかに「誠実さ」につながるものですが、一人ひとりの解釈は異なっていたのです。

「知覚」と「記憶」は人それぞれ

「心像(しんぞう)」という言葉があります。「心像」とは、過去の経験や記憶などから、具体的に心の中に思い浮かべる主観的現象のことです。心像には「知覚心像」と「記憶心像」があります。

知覚心像は、自分の五感で知覚し、頭の中でイメージ化されたもの。
記憶心像は、既に頭の中に、過去の記憶としてため込まれているもの。

人それぞれ五感は異なりますから、同じものを知覚しても、同じ知覚心像が生まれるわけではありません。頭の中に記憶された記憶心像も異なってくるでしょう。

アメリカの脳神経学者であるアンドリュー・ニューバーグとマーク・ロバート・ウォルドマンは、その著書の中で、

「抽象概念の意味は十人十色である。その違いは滅多に議論されることがないため、ミスコミュニケーションや対立を起こす原因ともなる。つまり私たちは自分が捉えている意味を他者と共有していると勝手に思い込んでいるのだ」

と述べています。たとえばリンゴといった物理的に存在するものを表す言葉であったとしても、人が頭に思い浮かべるイメージは様々でしょうから、抽象概念であれば、なおさらでしょう。

浸透させるためにできること

理念の浸透の第一歩は、お互いの解釈を知り、共有することです。そして、B社の例に見るように、どんな言葉も解釈は人それぞれです。通訳しづらいオノマトペだから共有が難しいというわけではありません。

B社のプロジェクトでは、コーチングの中で「誠実であること」について改めて考えることで、

「自分の思考を立ち止まって見直すことができた」
「なんとなくわかっていたことを言語化することで自分事になった」
「同じことを部下に問いかけることで、部下への理解が深まった」

といった声が上がりました。

社員全員で「ワクワク」を共有するためには、まず、それぞれが「ワクワク」をどう捉えているのかを立ち止まって考える。そして、お互いに問いかける。お互いの解釈を知ることで、自分の解釈が変化するかもしれません。

対話を通してお互いが自らの解釈を振り返り、それぞれの解釈を共有する。浸透は、そんなところから始まります。

コーチングの時間は、そのための貴重な時間になるでしょう。

【参考文献】

山鳥重著『「わかる」とはどういうことか ― 認識の脳科学』(ちくま新書)、2004年
アンドリュー・ニューバーグ、マーク・ロバート・ウォルドマン (著)、川田志津(訳)『心をつなげる』(東洋出版)、2014年

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筆者情報: 小池恭久
高起企业管理咨询(上海)有限公司(中国現地法人)総経理
自身の経験を活かした多角的経営視点にたったコーチングを得意とし、現在は上海にて日本人駐在員の異文化マネジメント力向上や、次世代幹部候補のリーダー開発、組織横断コミュニケーションをテーマに、複数の日系企業組織変革プロジェクトをマネジメントしている。「生まれながらのリーダーはいない」を信条とし、クライアントが固定観念や先入観を自己認識し、ダイバーシティを受け入れることで、業績の決め手となる現場を動かすリーダーを輩出することを目指したコーチングを実施。

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