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答えのない問題にどう向き合うのか

written by 小池恭久

私は上海にて、在中国の日系企業のマネジメント層の方が、中国人部下の目標達成に向けてコーチングをするというプロジェクトに、数多く関わらせて頂いています。

先日、プロジェクトをスタートしたばかりのクライアントAさんから、次のようなリクエストがありました。

「昇格をしたいという目標を持っている中国人中堅社員がいるが、実際には難しい。どう回答すればいいか? その考え方、並びに対応のスキルを教えて欲しい」

Aさんは、目標設定をするセッションで、部下に

「何を手に入れたいか?」

と問いかけたそうです。すると、

「昇格したい」

という答えが返ってきたとのこと。この部下は在籍年数も長く、普段も真面目に仕事に取組んでいる中堅社員。しかし、Aさんの会社の中国現地法人は組織規模も限られており、昇格ポストが空いていない。結果、長く昇格させることができずに今に至る、という背景があるそうです。

中国は、日本と比べて非常に離職率が高い。何をもって彼らのモチベーションを維持させることができるのかは常に悩みの種とのこと。

これはAさんに限らず、在中国日系企業のリーダーから非常に多くいただくリクエストの一つです。過去に、別のクライアントであるBさんからも同様のリクエストをいただいたことがありました。

答えを急がず、共に考える

Bさんの中国人部下は、転職入社して間もないものの、非常に勤勉で実行力もあり、成果も出している。一方、最大限の評価はしているものの、部下は昇給率に満足していない模様。組織内の規定を変えていくことは容易ではなく、例外をつくることによるリスクもある。すぐにはどうしようもない環境下、部下のモチベーションを保ち続けるために自分はどうすればいいのかを教えてほしいというリクエストです。

しかし、そもそもこうしたことに「答え」はあるのでしょうか。私は、Bさんとの間に、

「Bさんは、答えがすぐ出ない問題に対し、どのように対処する傾向があるか?」
「それはBさんのどのような前提から来ているのか?」

といった問いを置いて対話をしました。Bさんは、悶々としながら考え、最後にこう言いました。

「会社の規定や方針の下で考えなければならないという前提があるとき、自分ではどうしようもないと、きちんと対処してこなかったと思います。まずは、この前提を外して部下と話してみたい。」

その後、Bさんは「会社の規定や方針」という前提を横に置き、部下と向き合い、対話をしたそうです。

「仕事を通して何を手に入れたいのか?」
「具体的にいくら稼ぎたいのか?」
「いつまでに達成したいのか?」
「その時の自分はどのような自分なのか?」

対話を継続する中、当初は曖昧なイメージしか持っていなかった部下でしたが、

「3年で今の5倍、年間100万元(約1600万円)稼ぐ」

という、具体的なイメージについて話し始めたそうです。人件費が上昇している中国といえど、100万元の年棒、しかも3年でとなると容易ではなく、会社の規定を考えれば到底無理な話です。

それでもBさんは、対話を続けました。
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【参考資料】
帚木蓬生『ネガティブ・ケイパビリティ ~答えの出ない事態に耐える力』(朝日新聞出版)、2017年

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筆者情報: 小池恭久
高起企业管理咨询(上海)有限公司(中国現地法人)総経理
自身の経験を活かした多角的経営視点にたったコーチングを得意とし、現在は上海にて日本人駐在員の異文化マネジメント力向上や、次世代幹部候補のリーダー開発、組織横断コミュニケーションをテーマに、複数の日系企業組織変革プロジェクトをマネジメントしている。「生まれながらのリーダーはいない」を信条とし、クライアントが固定観念や先入観を自己認識し、ダイバーシティを受け入れることで、業績の決め手となる現場を動かすリーダーを輩出することを目指したコーチングを実施。

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