ショートショート 一夜干しの作り方【ショートショート100|No.83「一夜干し」|1382文字】ヒスイさんといっしょ
いよいよゴールデンウィークに差し掛かりました。みなさん、いかがお過ごしですか。この連休を利用して、お出かけの方も多いのではないでしょうか。
一方、私をはじめとした何にも予定のないみなさん。時間のたっぷりあるこの機会に、ちょっと凝った料理に挑戦するのはいかがでしょう。今日は「一夜干し」の作り方をご紹介します。
まず学生を1人用意しましょう。高校生か中学生が適しています。小学生では真剣味に欠けますし、大学生では世の中に擦れすぎて、少々取り扱いが難しいです。学生の年齢が高いほど、また本人の進学意思が高いほど深刻さが増します。そのあたりはお好みで。
下拵えとして、学生は遊ばせておきます。もちろん、テスト前日のぎりぎりまでです。ゲーム? まんが ? 大いに結構。人生は楽しむために存在します。スポーツなんかもさせるとよろしい。体力がある方が、いい一夜干しになります。
また、テストの前日までに、アイスコーヒーを1リットルほど、冷蔵庫に備えておきましょう。一夜干しの味は漬け汁で決まりますが、コーヒーが最もポピュラーな味付けです。コーヒーが苦手な方はミルクティーなんかがおすすめです。栄養もたっぷりですしね!最近では、エナジードリンクなんかも人気のようです。いい感じに蛍光色の一夜干しができあがります。
さて、いよいよテストの前日の夜です。学生にはちまきを締めさせ(アレルギーの出る方ははちまきは除いてあげてください。)、教科書、ノート、文房具をおいた机に座らせましょう。アイスコーヒーの出番です。グラスについで、机に持っていきましょう。なんども追加で持っていきます。そのとき、「がんばれ、がんばれ」などと声をかけると、より良い一夜干しができます。
さて、ここから先は材料任せ。コーヒーを補充しながら、じっくり、夜が明けるのをまちましょう。
翌日の朝、材料がいい感じに漬かっているかと思います。この状態が、いわゆる「一夜漬け」です。細胞のひとつひとつにコーヒーが染み込み、目はうつろ、意識は朦朧としています。「よくがんばったね」と囁いて、学校に送り出しましょう。このとき、はちまきを取ってあげるのを忘れないように。からかわれて、校舎に辿り着く前に心が折れてしまうといけませんから。
一夜漬けが学校に行っている間に、いよいよ凝った料理の出番です。そうです。凝った料理は今作りましょう。ローストビーフなどの、やや高級な料理に傾く必要はありません。カレーやコロッケなんかがいいでしょう。お腹がすいたときに、好きなだけ、ばくばく食べられるようなやつ。作り方はインターネットで調べましょう。このさい、ピザかお寿司を出前するのもありかもしれません。
さて、夕方です。辺りはすっかり暗くなり、金星なんかが出ちゃってます。
ふらふらと、テストで自分の中のものを絞るだけ絞り取られた一夜漬けが帰ってきました。そう。水分とかいろんなものがカラカラです。まさに干物。ついに一夜干しの完成です。「ご馳走あるから」と、大急ぎで出迎えてあげましょう。頑張って一晩漬かったごほうびです。抱きしめて、言ってあげましょう。
「あなたが、わたしの一番干し!」
NNさんの企画「100のシリーズ」に参加しています。
今回のお題はNo.83「一夜干し」です。
金曜日は小粋でポップなヒスイさんと一緒です。
今日はちょっとぎりぎりでした(厳しかった)…。
こちらが、ヒスイさん
あああ?
なんで大人の恋愛ものになるんですか?
魚臭くもないし(混乱)
前回のお題No.26「腸管」