ショートショート 素敵なステッキ
僕のおじさんは手品師で、素敵なステッキを持っている。
帽子をぬいで、くるりと回して、ステッキでとんとん、と叩けば、中から鳩が出てくるし、ロープを結んでとんとん、と叩けば結び目がとれちゃう。
本当に不思議だ。
誕生日に何が欲しい、と聞かれたので、おじさんのステッキと答えたら、ちょっと困った顔をした。
「ないと、おじさんが困っちゃうからなあ。おじさんのじゃないけど、同じやつを用立てるよ。」
誕生日に届いた荷物を大急ぎであけると、やった! 本当におじさんのステッキが入っていた。ええと、違う。おじさんのステッキとおんなじやつ。クローゼットから帽子を取り出して、とんとん、たたいてみた。何も起こらない。紐を結んでとんとん、何も。
「これ、おじさんのと全然違うよ。」
お母さんに頼んで、電話をかけた。お母さんは嫌がったけど、言いたいことはちゃんと言わなくちゃ。
「おなじだよ。」
おじさんがのほほんとした声で言う。
「ちゃんとお代を支払わないとダメなんだ。」
「お代?」
「『対価』さ。」
おじさんの言う通りに対価を払うことにした。お母さんを僕の部屋にむりやりつれていく。
「『これより始めますは、世紀の大マジックでござーい!』」
おじさんの言う通りに、向いに座ったお母さんに言う。ちょっと恥ずかしい。さっきの帽子をくるりとまわす。ステッキでとんとんと叩く。
「お母さん、今!」
僕が言うと、お母さんがぱちぱちと拍手して、帽子の中から鳩がとびだした。
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