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エッセイ集 へいたのはなし

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エッセイ集です。ここに書いていることだけは本当の話です。おそらく、多分、だいたいは。
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#シロクマ文芸部

エッセイ 東風吹かば

エッセイ 東風吹かば

 梅の花には苦い思い出がある。

 大学の終わり、4年生に書いた公募の台本が関西の人形劇のフェスティバルの公募に残り(この公募はもうない)、表彰式と上演を見に行った。近くに天神社があり、早咲きの梅が咲いていた。

 縁ができて、それから数年、私は上演してくださったアマチュア劇団に年に1つ程度の台本を書いた。初演を観に行くのは春の初め。行く時はいつも天神社に寄る。(そして近くの商店街でたませんを食べ

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エッセイ 紅葉より肉団子(#シロクマ文芸部)

エッセイ 紅葉より肉団子(#シロクマ文芸部)

 紅葉鳥。「もみじどり」と読むそうだが、なんのことだろうと調べたら鹿のことだそうだ。

 「奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の 声聞く時ぞ秋は悲しき」の句が百人一首にあるので、「鹿に紅葉」は馴染みがある。同じ辞書の「鹿」の項目に下記のような語誌がある。

 まだ少し弱い気がする「萩」も代表格に上がってるし。「紅葉鳥」の起源について、「声が鳥に似ている」とする解釈もみた。鹿の鳴き声をYoutubeにあげてい

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エッセイ りんご箱みかん(#シロクマ文芸部)

エッセイ りんご箱みかん(#シロクマ文芸部)

 りんご箱で家具を作る、と言う趣旨の記事が初期の「暮らしの手帳」にあったそうだ。この雑誌の長年の読者なものだから、そうした記述を何度か見た。「自分の手で洋服を作る」という記事もある。暮らしを自分たちの力で作り出そうという雑誌のメッセージを感じる。

 母親が洋服を自分で作るタイプの人だった。若い頃、型紙つきの本を買った思い出を聞いたことがあるし、私の小さい頃の服も何着か縫ってくれた。だから「洋服を

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エッセイ 秋有リ中(#シロクマ文芸部)

エッセイ 秋有リ中(#シロクマ文芸部)

 秋が好きである。
 朝夕、窓を開けるといい風が入ってくるし、散歩をすれば紅葉が見えるし、栗が美味しいし薩摩芋が美味しいし秋刀魚が美味しい。なんだか食べてばっかりになったが、とにかくいいことがたくさんある。秋が来ないと困る。

 たまに店先に「春夏冬中」という札をかけている店があるけれど、あれは「商い中(秋ナイ中)」と読むはずで、要するに営業中という意味だ。落語のまくらに「飽きがこないから、『商い

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