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エッセイ 秋有リ中(#シロクマ文芸部)

 秋が好きである。
 朝夕、窓を開けるといい風が入ってくるし、散歩をすれば紅葉が見えるし、栗が美味しいし薩摩芋が美味しいし秋刀魚が美味しい。なんだか食べてばっかりになったが、とにかくいいことがたくさんある。秋が来ないと困る。

 たまに店先に「春夏冬中」という札をかけている店があるけれど、あれは「商い中(秋ナイ中)」と読むはずで、要するに営業中という意味だ。落語のまくらに「飽きがこないから、『商い(飽きない)』」というもじりがあるのに似ている。秋がこなくて飽きないのが商売らしい。

 私の職場は半期末が1番忙しい。要するに9月と3月だ。春と夏。2番目が年末。12月。冬である。テトリスみたいにどんどん仕事が降ってくる。夢中、というのは言い過ぎだけど、少なくとも飽きている暇はない。

 お盆休みも正月休みもない職場で、特段この時期に特別休暇があるわけでもないが10月11月はほっと一息つける月だ。次の繁忙期に向けて準備をしたりはあるけれど、上からタスクが降ってくる感覚が緩やかで、ブロックの底の壁が見える時もある感じ。寝っ転がって、お茶でもすすって、ふう、とため息をつく暇がある。

 「簡単すぎるなあ」と余裕があるときが、きっと「飽き」がくる時期だ。飽きもなかなかいい。新しいことをする気が起きる。ほうかりっ放しだった倉庫の整理をしたり、フォルダの保管方法を見直したり、新しいツールが使えないか試したり。

 今日はちょっと遠出をしていて、帰宅してから栗の味のアイスクリームを食べた。残暑で汗まみれになったところに冷たいものが嬉しい。幸い、秋自体に飽きが来る気配はない。

 カレンダー通りの休暇で、明日はお休みだ。まだ敬われるほど老いてはいない身でも祝日の恩恵に預かれる。「あきない」は明後日においておいて、明日はあくびでもしながら薩摩芋でも齧って秋を満喫したい。

 みなさんもどうぞ、良い秋をお過ごしくださいね。

エッセイ No.071

小牧幸助|小説・写真さんの #シロクマ文芸部 に参加しています。今週のお題は「「秋が好き」から始まる小説・詩歌・エッセイを書く」です。

ちょっと外出しておりまして、暑気にやられてぼんやりしておりますので、今日はエッセイで。どうぞみなさまよいお休みをお過ごしくださいませ。