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メモランダム拾遺

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気づいたこと、調べたことのおぼえ書きなどです。
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関羽と仏法

 先日、1年ぶりに家族で横浜へ。とりあえず中華街、そして美術展、音楽関係、遊園地などで過ごしました。中華街は日曜日とあって、いくらか賑やかでしたが、活気があるのはいいですね。少し前、コロナ禍のせいで老舗有名店が閉店しましたが、今はまち全体としてコロナ禍前の賑わいが戻ったという話で、よかったなと思います。  中華街では、久しぶりに山東で水餃を食べたり、お茶したり、雑貨店で器を買ったり、お菓子を買ったり。翠香園で「玉帯糕」も買いました。玉帯糕は、もち米粉、クルミ、ごま油、水飴な

高野山・奥之院の供養塔

 高野山へは2回行ったことがあります。プライベートでなく、それぞれ別の仕事のためだったのですが、もちろん、壇上伽藍や金剛峯寺、奥之院・御廟などにはご挨拶を兼ねての気持ちで、お参りをさせていただきました。  昔から「一度参詣高野山無始罪障道中滅」(一度高野山に参詣すれば成仏の障りとなる罪業はすべてその道中で消滅する)というのだそうです。後宇多法皇は正和2年(1313)、生まれて初めて草鞋を履いて高野山にのぼったのだとか。私は往復にケーブルカーやバスを利用しましたが、それでもご利

「天使」と「お空」

 お盆ですね。今年も息子にと、北海道にいる私の両親からゼリーや水羊羹の詰合せが届きました。お盆に送ってくれるお供え物は毎年同じ。両親にとっては「お盆といえばコレ」という定番なのかもしれません。なんにせよ、ありがたいことです。  実家にも息子の位牌があります。あちらのお宗旨では、息子は「浄土」にいるようですが、お盆になれば北海道にも東京にも帰って来て、お盆が終わったら浄土へ帰るということです。しかし私は禅宗で、浄土にいるとはうかがいませんが、何処であっても、幸せであろうかとか、

恐怖と供養

 子どもの頃から、夏は私にとって、一年のうちで最も強く、多くの「死者の存在」を意識させられる季節でした。  理由は多分、いろいろとあります。原爆の日、終戦の日、甲子園球場の黙祷、7月のお盆と8月のお盆、お祭りの踊り、お墓参り、怪談噺、心霊番組、百物語、稲川淳二さん――。  それから、私は北海道の生まれ育ちですが、俗にいう、お盆は海へ行かない、山へ行かないといった話も聞いた気がします。子どもの頃、塾の先生がよく聞かせてくれた怖い話にも、お盆の時期の海や山の話がありましたが、

妖怪に会うためには

 娘が買ってきた『会えるかも!? 妖怪ずかん』(よしながこうたく氏・ようかいガマとの氏著、あかね書房、2020年)が愉快で、拝借して楽しんでいます。  いいなあと思うところ、いろいろありますが、とりわけ私が愉快になるのは、「むかしみたいな小川や井戸が少なくなったから、今は学校の水飲み場に出るかも!?」みたいな語り方かもしれません。  いつだったか幼い頃、「現代は開発のせいで、何々が現れるような小川が減ったから、人類は自然環境を大切にしましょう」という趣旨の話を聞いたことが。自

玄奘三蔵の印象

 映画『ドラえもん のび太のパラレル西遊記』(1988年)に出てくる玄奘三蔵は、どちらかというと、いかつい「おっさん」です。1988年公開当時(実在の玄奘三蔵ではなく『西遊記』の)、「三蔵法師」といえば夏目雅子氏でした。あの『西遊記』は1978年放送開始です。私も80年代、再放送を毎夕見ていました。ですから、『パラレル西遊記』のこの「おっさん」が三蔵法師のモデルになった実在の玄奘三蔵だといわれても、違和感をおぼえた子たちはいたかもしれません。  『パラレル西遊記』の玄奘三蔵

玄奘三蔵の印象 その2

 前の投稿で引用した『大唐大慈恩寺三蔵法師伝』の一節に、以前から気になっていた部分があります。次のくだりです。  底本原文は「服尚乹陁裁唯細㲲脩廣適中行歩雍容」(東方文化学院京都研究所編『大唐大慈恩寺三蔵法師伝』巻第6之10、1933年)です。「乹陁」は、『大正新脩大蔵経』第50巻にある同書のとおり、「乾陀」に同じで、長澤先生は、これを「袈裟」と訳されています。このことが、ひっかかっていました。私としては、この部分は次のような意味ではないのかなあ、という気がしているのです。

文化文政のフィールドワーク

 きのうの投稿した長女所蔵の『会えるかも!?妖怪ずかん』(あかね書房、2020年)も、やっぱり「牛鬼」を取り上げています。水辺に現れて人や動物に害をなす有名な激ヤバ妖怪で、本書の評価は「危険度★★★★★」「友好度★」。三重以西、近畿、中国、四国、九州に伝説があるので、「西日本のあちこちに出現」と書かれています。  東日本ですと、東京に、浅草の牛鬼伝説があったりしますが、しかし『新編武蔵風土記稿』(1803~29)の記事は「牛鬼の如き異形のもの」、鎌倉時代の『吾妻鏡』(130

美味しい三伏、怖い三伏

 三伏盛夏の候、東京の最高気温は連日40℃近い予報です。しかし、ネットで「三伏」を検索すると旨そうな中華料理がいっぱい出てくるので、お昼はついまた、お気に入りのラーメンを食べてしまいました。いっそう暑いです。  今年の三伏は7月15日から40日間。7月15日~24日が「初伏」、「中伏」は7月25日~8月13日、「末伏」が8月14日~23日です。(※決め方は、夏至(6/21)後3回目の庚の日から10日間が初伏、4回目の庚から10日間または20日間が中伏、立秋(8/7)後最初の

息子はキュウリ馬に乗って

 お盆のことですけれども、私は、息子がどこかから帰ってきてどこかへ帰っていくという感覚が、ずっと希薄なままです。何故か、そういう信心に至りません。残念なことかもしれませんが、だからこそ息子がずっと一緒にいるような気がするのかもしれませんし、親として安心する面もないではないです。  一方で、息子は今や(自分の意志ではなかったとしても)すばらしい戒名を授かった一人の仏弟子です。つまり、修行中です。修行の場とは、何処であれ今いるところが修行の場なのでしょうが、修行には修行に相応し

鬼子母神の説話と図像

以前、「鬼子母神」のことを書きました。改心した鬼子母神に対し、柘榴は人肉の味がするから人が食べたくなったらそれを食べるようブッダ釈尊が教えたという、仏典にはないあの「俗説」。あの話の出どころを探ってみたわけですが、今のところまだわかりません。 仏典では「もし人が食べたくなったら」という万が一のことは想定されていないようですが、しかし、善神となとなって子どもを食べなくなった鬼子母神の「今後の食事問題」の対策は、仏典にも書かれています。 唐の義浄三蔵(635~713)訳『根本

『西遊記』と『般若心経』

先日、玄奘三蔵(602-664)が『般若心経』をとなえて砂漠の悪魔を退けたという話に触れました。日本の『今昔物語集』(1120年頃成立)といった説話集だけでなく、玄奘三蔵の弟子が師の遷化24年後に完成させた伝記『大唐大慈恩寺三蔵法師伝』(688年完成)にもみられるエピソードです。 しかし、玄奘三蔵の西天取経物語に着想を得た小説『西遊記』では、『般若心経』(おもに『多心経』とか『心経』という名で出てきます)は妖怪に対してまったく通用しないのですよね。 このことは、かねて興味深い

チッカリングとエラール

先々週、清里の「萌木の村オルゴール博物館ホール・オブ・ホールズ」というところで、チッカリング&サンズ社(Chickering&Sons、アメリカ)の大きなグランドピアノ(9フィート)に触れることができました。 1926年製で、アンピコ社(American Piano Company)の自動演奏装置が取り付けられているという珍しいもの。いわゆるプレイヤーピアノ(自動ピアノ)です。「チッカリング・9フィート・アンピコ・グランドピアノ」と呼ぶそうで、アンピコ付きのチッカリングのグラ

悪魔の声と自分の声

待ち焦がれた映画『デューン 砂の惑星 PART2』を、まだ観られていません。気づけば公開から、はや半月。映画館で観ないと必ず後悔しますが、今日は「デューン」で思い出した、「砂漠」と「悪魔」と「音/声」の話のメモランダムを――。 マルコ・ポーロ(1254-1324)が『東方見聞録』で、次のようなことを述べています。 このほかにも、眠くなると白昼でも、自分の名前を呼ぶ聞き慣れた声が聞こえるとか、ほんとうは存在しないキャラバンが進む音が聞こえてくる、といった不思議な現象も記され