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法務教官って誰でもなれるの?

法務教官という仕事は,あまりにもマイナーだ。

それは,

少年院や少年鑑別所が,一般市民にとって縁遠い存在であることの影響でもあり,それ自体は望ましいことでもあるけれど,何よりも…法務省の情報発信があまりにも少ないことの結果だ。

未成年による凶悪事件が起こるたびに議論の的になる少年法だが,「非行のある少年に対して,矯正教育を授ける」という理念はまちがいなく大事なものだし,日本が世界に誇る法制度だと僕は思っている。

ともあれ,

2018年4月にTwitterアカウントを開設以来,法務教官志望の学生からも多くのフォローを頂き,この4月にも,また新たに僕のフォロワーさんの中から法務教官が誕生することになる。嬉しい限りだ。

今回で3度目の新年度だが,おそらく累計で10名くらい,僕のフォロワーの中から新人法務教官が生まれている。

全国3000名強…

毎年100名程度しか誕生しない法務教官の中に,拝命前から僕を知ってくれている人たちが10人位上いる…

これはきっと,すごいことなんだと思う。
…みんながんばっているかな?

悩みが9割の現場だけれど,
1割の歓喜に懸けてがんばろうね。
直接お会いすることはないだろうけれど,
全力で応援しています。

何かあれば気軽に連絡ください。DMはいつでも開放しています。幹部の愚痴でも先輩への不満でもなんでも言ってきてください。何もできませんが,聞くだけ聞きますので。

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

さて今日は,

そんな,法務教官に関する数少ない情報ソースである僕,へいなかから,法務教官志望の学生のみなさまへのメッセージを伝えたいと思います。

ちょっと厳しい話もするけれど,偽らざる僕の本心です。

採用担当でもなんでもない,いち現場職員の声ですが…これを読んだ上で,あなたがいずれ法務教官になり,非行少年と向き合いながら,自分の人生を拓いていかれることを,心よりお祈り申し上げます。

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よくある質問に答える形で書いていきます。

1)資格は必要ですか?

資格は必要ありません。

大学もしくは専門学校卒の方なら誰でも採用試験は受けられます。基本的なルートとしては,「法務省専門職(人間科学)」の採用試験を受けることになります。

1次〜筆記(一般常識,専門教養,小論文)
2次〜面接

2次試験をクリアすると,内定者リストに名前が載って,その後,希望する管区の採用面接を受けて,施設からの採用を待つ形になります。

僕の頃と試験の内容は変わっているかもしれませんが,基本的には教員採用試験と似たような感じで勉強されたらよいかと思います。

詳しくは以下のサイト等からご自身で情報収集してみてください。

ちなみに…

仕事がら,教員免許や臨床心理士,公認心理師は持ってた方が,試験をクリアする上では有利に働くこともあるかもしれませんが,それらの資格を持っているかいないかで,職域が変わることはほぼありません。

現場に入ってしまえば一緒です。

僕は教員免許と公認心理師を持っていますが,現場では話題にすらなりませんし,仮にあとからそれらを取得しても,給料が上がるようなこともありません。

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2)○○学部じゃなくても大丈夫ですか?

この質問はほんとに多い。
よく挙がる学部はこんな↓感じ。

法学
心理学
教育学

残念ながら…
いや,幸いにして…?

学部は一切関係ありません。

大卒か専門卒なら受けられるわけですから,あとは合格する実力があるかどうかという話。

ぶっちゃけた話…どんな学部でも,学部で勉強できることなんてたかが知れています。「4年間かけて学んだ」という蓄積は大事だと思いますが,少なくとも学部で得られる情報のほとんどはインターネットや市販の参考書から入手できる。

だから…

「○○学部でなくても大丈夫ですか?」という質問には,丁寧に答えるとこう↓なります。

試験を受けることは可能です。合否が学部によって変わることはないと思われます。試験問題を解く実力があるかどうかは,学部では決まりません。試験で問われる知識は,大学の外でも十分に得ることができます。ですから,あとは,御自身の勉強次第です。

ついでに…

「現場で仕事をする上で,学部による差はあるのか?」という角度からもひと言。

…ぶっちゃけ,全然関係ありません。

確かに,心理系の学部や院卒で図抜けた実力を持っている方もいます。しかしそれは,学部での勉強を下地にしつつも,現場で働きながら,思考と試行を繰り返す中で実力を高められたということであり,決して学部での学問だけで身につけたものではないと感じています。

そもそも,

心理学や教育学は,その他の学問と同じく,毎年のように新たな知見や理論が出てくる。現場に出て,大学4年間よりも遥かに長い期間を働くのですから,学部うんぬんよりも現場に出てからの勉強量の差の方がはっきり言って大きいです。

つまり…

「俺心理学部出てないけど大丈夫かなぁ…」

なんて心配してる間に,勉強した方がいいです。
「勉強」というのは必ずしも教科書的な意味だけではありませんが。

最後に僕のことを少しだけ…

僕は普通の文学部卒で,しかも民間企業で働いてからの転職です。教員採用試験の勉強をしながら,並行して現職の試験を受けました。

試験で問われた心理学や教育学,法学の知識は,教員採用試験の専門教養でだいたいカバーできていたように記憶しています。

もうかなりの時が経っていますから,詳しいことは御自身で調べてみたほうがよいとは思いますが,参考になれば幸いです。

結論をもう一度。

良くも悪くも,
法務教官になるのに,
学部は関係ありません。

自分次第です。

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3)宿舎はどんな感じですか?

答えられません。

なぜなら,職場によってかなり違うから。

法務教官は国家公務員で公安職。だから,休みの日でも非常事態が起きれば駆けつけなきゃいけない。職員宿舎には,職場と連動した非常ベルがあり,現場でベルが押されれば宿舎にもけたたましいベルが鳴る。

それは決して快適なことではないですが,仕方のないことです。そういう仕事ですから。

そして,

そういう仕事だからこそ宿舎が用意され,宿舎に住む限りは,実質タダ同然で住むことができる。

その住まいとしての機能が,果たして快適かどうかは人それぞれの感覚次第ですが,僕は快適に住んでいます。多少不便なところはあるけれど。

宿舎に住むことはマストではありません。自分でアパートを借りて住むこともできるし,その場合には,上限はありますが,家賃補助も出ます。

職員宿舎ですから,隣近所もみな職員で,そういう環境は多少息苦しく感じる人もいるかと思いますが…タダ同然で住めるということとのトレードオフで僕はプラスかなぁと思っています。

宿舎に関する質問は,実はTwitter上ではあまり答えたくありません。

なぜかというと,あんまり一般に伝えたい情報ではないから。

それは,

「快適じゃなくてマイナスイメージだから」とかでは断じてなく,単純に,僕の匿名性の確保と,フォロワーの中に法務教官に恨みを持つ人がいないとも限らないためです。

ついでに言うと…

これは個人的な感覚ですが…タダで住める住居があるということに対して,「快適かどうか」を働く前から気にする人は,あんまりこの仕事が向いていない気がします。

法務教官は公安職。

仕事とプライベートが分けにくい仕事です。
転勤もある。

また,

働き方改革の概念はともかくとして,現実に,交代制勤務で当直もあり,そのため,「時間外労働は絶対したくありません」なんて現代的な感覚では対応できない部分もある。

そういう職業に自ら就くのであれば,多少の不便は覚悟すべきかなぁと僕は思うのです。

まぁ,住居が大事なのはその通りなんですけどね。

働く前から気にすることとして,それは果たしてどうなんかなぁ…と,質問を受けながらいつも思います。

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4)その他(一問一答)

法務教官志望の方から特に多い質問3つにお答えしました。
ここからは,一言ずついくつかの質問に回答しておきます。

Q生徒は暴れたりしますか?
Aそういうこともあります。
 頻度は施設次第です。

Q護身術は難しいですか?
Aカンタンとは言えませんが,
 訓練でできるようになります。

Q体力勝負ですか?
A当直もあるので,体力は必要。
 夜遊び,夜更かしできるくらいの元気が。

Q休みは取れますか?
A取れますが…
 あなたの事務処理能力と意欲次第かと。

Q研修はありますか?
A1年目と5年目の研修はかなりがっつり。
 あとは技能向上研修が時々。

Q転勤はどんな頻度?
A人によります。
 ぶっちゃけ施設のお荷物は早くトぶ。

Q給料はいいですか?
A僕的には普通かと。
 我々より稼げるサラリーマンもザラにいる。

Q仕事楽しいですか?
A僕は楽しんでます。

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5)まとめ

上から目線で生意気なことも書きました。正直なところ,これ書くのどうなんかなぁと思う部分もなくはないです。

でも…

誤魔化したり隠すのは不誠実だなと思い,率直に,思うことを書きました。

正直なところ,僕は,中途半端な覚悟の人は来ないほうがいいと思っています。働きながら覚悟が定まることもあるとは思うけどね。でも本当にそう思う。

僕はこの仕事に誇りを持っているし,非行少年たちと向き合う時間に何よりも充実感を抱いている。学校とは違い,家族とも会わずに塀の中で過ごす彼らにとって,法務教官は唯一の”社会”。だからこそ,成長と変化のダイナミズムを目の前で体感できるこの仕事の凄さと素晴らしさも日々実感している。

この仕事はやりがいと難しさと楽しさにあふれている。

だからこそ思う。

塀の中の非行少年たちには,自己変革が求められている。場合によっては出院後に住む場所すら自分で選ぶことができないのに,それでもこれまでの生き方を改め,再犯しないで生き抜ける自分を目指して自分と向き合っている。

そこには,苦手だとか嫌いだとか,そんな甘っちょろい考えを一切受け入れてもらえない現実があるのです。

彼らが犯した罪は重大で,その生き方によって多くの人が傷ついた。だから,彼らが生き方を変えることは,彼らの義務だし,フツーに考えれば当然のこと…

だけどね,

理由はどうあれ,「これまでの生き方を改める」ってのはそう簡単なことじゃないんですよ。

苦手だから避ける?

AもBも健全な選択肢ならそれは確かに自由だ。

けれど彼らはそうじゃない。

A:非行少年としての自分
B:健全な新しい自分

この選択に,得意不得意も好き嫌いもないんです。

そういう選択を迫り,そのための訓練と教育を授ける仕事が法務教官。その現場に立つのに,中途半端な覚悟ではいかんよやっぱり。

未知の世界,
未知の環境,
未知の仕事…

その不安はわかる。

だから質問が来れば誠実に答えるし,それが僕へいなかの使命の1つでもあると思ってる。だからどんな質問でも,貰えるのは嬉しい。

ただ,

あなたが法務教官を目指すのなら,
あなたが法務教官として生きるなら…

仲間として,同志として僕は思う。

この仕事は,
覚悟と生き様が問われる仕事です。
不安と不満を抱えて噛み砕いて…
それでも本気で,そして笑顔で,
非行少年と向き合えるあなたであってください。

未来の法務教官と…
この記事を読んでくれたすべての人への感謝を込めて。

いつも本当にありがとうございます。

へいなか

放デイのスタッフをしながら、わが子の非行に悩む保護者からの相談に応じたり、教員等への研修などを行っています。記事をご覧いただき、誠にありがとうございます。