揺れる懲役刑。
懲役刑…犯罪行為に対する罰として科されるもの。
役務の徴収。
つまり…タダ働き。
それは
憲法に基づいて保証されている基本的人権「労働の選択」と「労働対価の受取り」が制限される罰だ。もちろんその前提として住居選択を含めた多くの人権も,同時に制限される。
当然のことながら法律によって定められた仕組み。
懲役刑は,罪と罰を定めた法律「刑法」の中で最もメジャーな罰だ。
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刑法について…多くの人がなんとなく勘違いしていることがある。
「刑法」が実は…「行動を制限していない」
ということだ。
「人を殴ってはいけません」
「人のものを盗ってはいけません」
「人に迷惑をかけてはいけません」
そんなことは,刑法のどこを読んでも書いていない。
刑法はただ…
「どんな行為にどんな罰があるか」を示すだけ。
刑法199条
人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。
人の行動はあくまでも…
本人が選択し,律するものだ。
法律が決めるものではない。
刑法はある意味で…
こんな罰があるけど…
それでもやるならやれよ。
と言っている。
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罪を犯した者は,その罰を受けることによって自分の行為を認識し,行動様式を改め,再犯せずにいち市民としてその後の生活を送る。
それが…
刑法制定時のこの国の人間像だったろう。
否定はしない。そういう側面はたしかにある。
罰によって自分の行為を見つめ直し,その後の自分の行動を変えることは,学習機能を有した人間としては当然期待できるものだし…
実際に
懲役刑を経て罪を悔い,自分を見つめ直して…再犯防止に向けて歩み出す例だって少なくない。
ところが最近,
こうした罰の論理…
特に「懲役刑」が揺れている。
「罰を与えるだけでは改善のしようがない者もいる」という事実が,塀の中でも外でも明らかになってきたからだ。
だから今…
日本だけでなく…
海外でも…
「懲役刑」がゆれている。
罰を与えるだけでは行動を改められない者に対して,罰ではなく教育を行うべきだとする考えが,徐々に拡がっているからだ。
そしてその点において…
わが国の法制度は改善されているとは言い難い。
「世界一治安のいい国」かもしれないが…
「世界一刑罰が適切な国」ではないのだ。
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考えてみれば当たり前のことでもある。
人は,生まれつき人なわけではない。
人間に,人間として育てられて…
はじめて人間として生きることができるようになる。
オオカミに育てられた少女が,人としての生活が身につかないままジャングルで生活していたことからも明らかな事実だ。
あの少女が例えば街で罪を犯していたら…罰を与えることによって,人として社会生活ができるようになっただろうか?
刑務所に入れられ,そこに数年収容されたところで,指示された工場作業ができるわけもなく,仮にできたところで,塀の外に出てまともに生きていけるわけもない。
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多くの人にとって,社会で日常生活を営むことは大して難しいことではない。
けれどそれは…
生まれつき出来たことではなく,生まれ落ちてから今日までの間に何らかの形で学び…身につけた技術の集大成として「あたりまえ」になったことだ。
もし仮に…
それらのうちのいくつかを身につけることなく今日を迎えていたら…
知らずに罪を犯し,
刑務所に収容され,
言われるがまま刑務作業に勤しんで…
いつの日か外に出てきたとき,
この社会に帰ってきたとき…
まともに生活できる自分になっていられるだろうか。
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刑務所は,人権を制限し罰を与える。
しかしそれは,
罪に見合った最低限度のものでしかない。
「懲役刑」と言われた者に科せられる罰は「タダ働き」であって,科せられた労働を終えれば,その後の時間に何らの強制も受けない。
それは不当な人権侵害を抑止するための制度であり,犯罪者ではなく,刑務所を運営する側に対する制限だ。
ところがそれは…
「刑務作業以外の時間に,彼らに何らの刑罰的義務を課すこともできない」という制限でもある。
つまり
刑務所に残業や宿題はない。
どんなに作業が雑だろうと,
どんなに常識に欠けていようと,
どれだけマナーを知らなかろうと…
彼らに宿題を課して成長を促したり…「振り返りノート」を作成させることもないのだ。
もちろん道徳の授業もない。
果たして,タダ働きさせることで人は成長することができるのだろうか…
成長の過程で手にすべきスキルを身に付けられぬまま大人になった者に対して,学びや気付きの機会と,それに必要な能力を高める機会を与えずして…
われわれは,自分たちの生きるこの社会を,護ることができるのだろうか。
この映画もまた…
その問いを我々に突きつけている。
「懲役刑」の揺れは,塀の外にまで及ぶものであることを,改めて考えなければならない。
放デイのスタッフをしながら、わが子の非行に悩む保護者からの相談に応じたり、教員等への研修などを行っています。記事をご覧いただき、誠にありがとうございます。