閃光

人には、やましくてつく嘘と相手を傷つけたくなくてつく嘘がある。
空気が乾き始め、のどを通る風が冷たさを感じるある日の早朝。
雑居ビルの5階、ベランダで煙草に火をつける。
気温の寒さより胸を通る風が冷たい。
隣にいた、30歳近くの同僚も煙草に火をつけた。
2つ線を成すようにけむりが空へ消えていく、歩いてきた道のような感覚だった。
同僚が私に伝わるかわからない低い声で呟く。
「体調、大丈夫?」
その一言で、瞼に熱いものがこみ上げる。
「いやいや、大丈夫ですよ。そんなに顔色悪いと思います?」
そういって無理に笑顔を作る。
「人生いろいろあるだろうが抱え込みすぎるなよ!」
そう言葉にする同僚に対し、何も言わずに煙を吐いた。
長い沈黙が続き、また煙草に火をつけた、ここでこうしてどれぐらいの時間がたっただろうか。
「私は、落ちるところまで落ちました。後は這い上がっていくだけですよ。」
そう言葉を捨てた瞬間混みあがったものが瞼からあふれ出る。
「お前は、まだまだこれからやれることがある。」
同僚から言われた言葉にどうしたらいいのかわからなくなった心が叫びだす。
「助けて、助けて。」と
だがその叫びを口にすることはなく、込み上がる熱いものを瞼にとどめ、まるで心の叫びを押し消すように私は、タバコの火を消した。
「今日も1日、しっかりと頑張っていきましょう。」
そういってオフィスに戻る。
その本当の心の叫びをたたえるべき人は自分の愚かな行いによって遠くへ行ってしまった。
何をしていたとしてもあなたのことを思いだす。
強さの意味をはき違え、傲慢に生きてきた。
自分が一番正しいと突っ走って生きてきた。
そんな私に訪れた孤独と絶望。
本当の愚者が自分自身だとは思ってもなかった。
それでも私はあなたと共に年を取り生きていきたいその思いだけは捨てられなかった。
なぜこうなってしまったのだろうか、なぜあの時、いろいろな思考が頭をよぎっては心を乱し、そして最後にはあなたの笑顔が脳裏に宿る。
幸せを、そばにいる人の美しさを理解していながら私は、突き放してしまった。
自責の念がこの身を包む。
「人は、独りでは生きていけない」その言葉の真意を実感し、己の罪を背負い今日も生きていく。

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