奈良-路線バス実証運行に乗ってきた
2021年12月の一部日付けにて行われている電気バス等を使用した奈良交通株式会社様によるバスの実証運行に乗ってきましたので、その様子と感想をお伝えしたいと思います。
実証運行の概要
今回の実証実運行は2つのルートをそれぞれ別の期間にて実施されます。
【平城宮跡~西ノ京ルート】は、12/4~12/10にて平城宮跡朱雀門ひろば~(西ノ京エリアである2寺の)唐招提寺駐車場~薬師寺駐車場~朱雀門ひろばを環状するルート。
【奈良公園~若草山頂ルート】は、12/19~12/25にて奈良公園大仏殿前駐車場~若草山頂駐車場~大仏殿前駐車場(一部便は近鉄奈良駅経由JR奈良駅に降りる)の、奈良公園平坦部と若草山頂を往復するルートです。
2ルート共に、電気バス(アルファバスジャパン様ECITY L10、奈良交通様の車籍ではなく実証運行期間中のリースと思われる。)と奈良交通様所属の一般的な路線バス車体を交互に使用するダイヤグラムとなっています。(点検にて一部日程は奈良交通様一般路線バス車体のみで運行。)
運賃は無料で、車内にて奈良交通様のバスガイドさんによる解説をいただくことになります。ツアーバスや定期観光バスではなく一般的な路線バスのような運行となります。
尚、今回の実証運行は「奈良県と連携」としながらも、奈良交通株式会社様によるもののようです。奈良市街において時折「社会実験」や「ぐるっとバス」の運行による周遊ルートの改善を行っており、交通事業者や自治体などで作る「奈良中心市街地公共交通活性化協議会」とは関係が無いようです。
実証運行の意味1
この実証運行は2つの意味があります。一つは「新たな路線ルートの開拓」です。
実証運行のルートである平城宮跡~西ノ京、奈良公園~若草山頂においては、現在のところいずれもこのルートで運行する系統はありません。
平城宮跡~西ノ京の直通に関しては過去に「奈良中心市街地公共交通活性化協議会」による社会実験の一環として2つのエリアを結ぶバスの運行が実施されたほか、2019年には奈良交通株式会社様単独で奈良公園~平城宮跡~西ノ京~法隆寺を結ぶ急行バスが実証実験として運行されたことがあります。
しかしながら、いずれも定着には至っていません。現在は平城宮跡のゲートウェイ機能を持つ施設群「朱雀門ひろば」から400m歩いた先にある「三条大路四丁目」バス停から西ノ京方面への奈良交通様の路線バスが運行されていますが、有名な観光ルートとは言えないのが現状です。
一方、奈良公園平坦部を含む奈良市街から若草山山頂へは過去に奈良交通様による路線バスが運行されていた事はありますが2001年には廃止となったようです。
奈良交通株式会社様の路線バス運行とは関係ありませんが、若草山への交通機関としては「奈良公園地区整備検討委員会」にて一重目への移動支援施設としてモノレール案やバス案が検討されました。しかしバス案においても走行ルートや回転場所において構造物の設置が必要となり、いずれも凍結されています。同委員会では山頂駐車場へのバス運行も触れられていますが具体的な動きは見られません。
実証運行の意味2
2つ目の実証運行の意味は「電気バスの活用検証」です。プレスリリースでは「世界遺産地域」と表現されていますが、特に若草山のルートでは隣接する場所に「春日山原始林」が存在し、走行ルート上における環境負荷を気にする必要があると言えます。
乗ってきた感想
今回、私は「奈良公園~若草山頂ルート」の実証運行にお邪魔してきました。
若草山頂は有料のドライブウェイでマイカーで登るか、若草山か春日山原始林いずれかのハイキングコースにおいて登山するしか術がありませんでしたので、「非常に気軽に山頂へアクセスができる」という事が一番の特徴と言えます。
また、起点となる「大仏殿前駐車場」は「ぐるっとバス」の拠点にもなっており、「乗り継ぎ拠点」として使用することもできました。
電気バスの走行については、「驚くほど静か」という感想を持ち、従来のディーゼルエンジン車との「差」をまじまじと実感させられました。
ダイヤグラムの設定についても、山頂での観光に適した運行間隔であり「観光のしやすさ」についても注文はありません。
そして、実証実験本来の目的ではないと思いますが、一番の感想としては運転手さんの運転テクニックと、ガイドさんの興味深い解説です。
新若草山ドライブウェイを利用された方なら印象に深いかと存じますが、鼓阪小学校横の幅員3mほどでしょうか?その道が2回クランクするという隘路を大きな路線バス車体で「スルスルっと」抜けて行く運転テクニック。そして幾重のヘアピンカーブで車体を操る運転手さんには感動を覚えました。
奈良のおおよその歴史や観光に関する知識を習得していると自負している私でも、興味深く、そして楽しく聞くことができたガイドさん。道中タイミングよく、その場の解説をしていただくことができました。普段は定期観光バスにご乗務されておられるようで、ガイドさんによると奈良在住の方も「改めて地域を知る」目的で利用することもあるとのこですので、「奈良交通の定期観光バスに乗りたい」と思いながら利用させていただきました。
「こうなったら良いな」と思う事(個人の妄想です。)
「平城宮跡~西ノ京」の移動に関しては、今回の実証実験ではなく古いデータではありますが、それを見ている限りでは決して需要は多いとは言えないでしょう。※1 しかしながら、「平城宮跡~西ノ京」のわかりやすく、簡単な移動ルートの提供によって、新たな周遊が発生する可能性もあります。
※1:奈良県-第14回 奈良中心市街地公共交通活性化協議会 資料より(元リンク https://www.pref.nara.jp/dd.aspx?moduleid=34988&pfromid=30#moduleid34988)平成25年度の取組結果及び、平成26年度の取組予定(案)https://www.pref.nara.jp/secure/116592/01_h26yotei.pdf
私見ではありますが、「三条大路四丁目」バス停を「朱雀門ひろば南」なり、「平城宮跡南」なりに改称して「わかりやすさ」を重視したサービス水準の向上で、ひとまず応急措置的な対応ができるのではないでしょうか。
また、同地区に新たな路線バスの検討をなされているのであれば、平城宮跡周辺~西ノ京周辺において特に弱い「南北の移動」。つまり、秋篠寺~大和西大寺駅~法華寺・海流王寺~コンベンションC~宮跡庭園・ミナーラ(金魚M)~朱雀門ひろば~唐招提寺~薬師寺のようなルートでの実証実験を行って、その結果の需要の分析は興味があるところです。
次に、「奈良公園~若草山頂」のルートについてです。公表されている過去のアンケート結果を見ると、「行きたくても行けなかった場所」として若草山(山頂かどうかは不明)が挙げられており※2、また、モノレール整備検討の際のアンケートからも若草山からの眺望及び登山支援施設への期待感は存在している※3と言えます。(アンケート内容は一重目への登山を対象としているが、上で述べた通り一重目へのバス車両進入は不可能であるという見方。)
※2:「奈良中心市街地公共交通総合連携計画」 https://www.pref.nara.jp/secure/40508/nararennkeikeikaku.pdf
(元リンク 奈良県-奈良中心市街地公共交通活性化協議会 https://www.pref.nara.jp/17539.htm )
※3:奈良県-第6回奈良公園地区整備検討委員会 資料より(元リンク https://www.pref.nara.jp/30696.htm) https://www.pref.nara.jp/secure/109819/siryou-2.pdf
また、奈良市観光協会様によって毎年運行されている「夜景観賞バス」などからも見える通り、若草山頂での積極的な観光活用については何らかの「期待感」を伺い知ることができます。
最後に
2つのルート共に、私企業である奈良交通株式会社様だけが単独で運行するのではなく、関連する団体様が一丸となって、「アクセス」とその先にある「魅力」を総合的に創出する必要があると思います。
電気バスについては、その存在が「珍しい」物であることは確かでありますので、バス車両そのものが観光の対象となりえます。
奈良、平城京エリアにある観光スポットは、複数のスポットがある程度集積している「エリア」が、徒歩では連絡できない距離に点在しているという特徴を持っています。また、その「エリア」そのものが広大であり、移動を支援する交通機関を求められる場合もあります。(若草山頂はちょっと特殊な事情ですが。)
それを解決する移動手段として、奈良交通株式会社様の路線バスや、奈良公園と平城宮跡を結び、また奈良公園エリア内を周遊する「ぐるっとバス」が提供されています。
しかし、今回の実証実験にあるように、現在結ばれていない導線において潜在的な需要が存在している可能性もあります。.
この実証実験が新たな需要の発掘と、奈良観光の更なるスムーズな移動環境の提供に繋がれば良いと筆者は考えます。
参考文献
▷運行概要:@Press「【奈良交通】 電気バス(EVバス)を活用した新たな観光ルートの実証運行について」https://www.atpress.ne.jp/news/285064
▷運行概要:奈良交通株式会社「電気バスを活用した奈良公園・平城宮跡周辺地区無料周遊バスの実証運行について」https://www.narakotsu.co.jp/news/news_1218.html
▷奈良交通単独の過去の実証運行:@Press「世界遺産周遊急行バスの実証実験運行について」https://www.atpress.ne.jp/news/192077
▷若草山への過去の路線バス:nako-club「系統データベース」http://nako-club.info/syaryodata/brsearch.cgi
▷若草山へのバス及びモノレール検討に関する記述:奈良県-第10回奈良公園地区整備検討委員会 各資料より(元リンクhttps://www.pref.nara.jp/30696.htm)https://www.pref.nara.jp/secure/144154/02siryou.pdf https://www.pref.nara.jp/secure/144154/01siryou.pdf https://www.pref.nara.jp/secure/144154/04siryou.pdf https://www.pref.nara.jp/secure/144154/03siryou.pdf https://www.pref.nara.jp/secure/144154/giziyousi.pdf(議事要旨)
ほか、文中に記載。
この文章は筆者個人の感想及び私見を述べているものです。この内容について奈良交通株式会社様ほか関係団体様へのお問い合わせはしないでください。
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