うつ病を3回発症したことのある著者(=ソロモン)による、自身の体験と、うつについての知識が集められた本。
彼はセラピーと投薬による治療により安定したが、1回目の発症以降、症状が現れていない時期にさまざまな代替療法も体験している。
とくに印象に残った部分
・自殺の口実としてエイズ(HIV陽性)になろうとした
・母親が末期癌のため自死を選び、それを看取った
第一章 うつ病
著者がうつ病になったのは、人生が順調に動き出した時期であったという。
1回目の発症では紆余曲折のあと薬による治療をスタートし、勝手に断薬して、2回目のうつでまた薬を飲むことに。それが治ったあとも薬を飲み続けていたが、3回目のうつ状態が起こる。
自殺しても周囲の人が悲しまないよう、エイズ(HIV陽性)という口実を作るために複数の男性と性交渉を行ったり
母の死が、実は末期癌を理由とする自死だったというエピソードも登場する。
著者には友人が多く仕事も充実しており、「恵まれたうつ病」という印象を拭えなかったのだけれども、彼らには彼らの苦痛があるということも理解できた。
私自身は大学時代が一番しんどかった時期なので、若いときの時間を無駄にした気がして残念なのだけど、若さを満喫できても人間は満足しないのだと思うと少し気力が湧く。🐰💬
そして、数少ない幸せだった時間を思い出したときの、「二度と戻ってこない」という悲しさは、「症状」ではないから治療の対象ではないのだ。
第三章 治療
うつ病の人々はそれぞれの方法で症状から離れようと苦心する。
投薬を支持する人もいれば、しない人もいる(筆者=ソロモンは薬を飲み続けている立場)
対人関係療法(IPT)は現在の日常生活に的を絞って、特定の問題にのみ焦点を当て短期間で終了する。周りの環境を確認し、問題となっていることを特定しながら目標を決めて達成していくという。なんとなくコーチングに近いのかも(すごくアメリカっぽい)
ETC(電気ショック療法)は効く人がいる一方、記憶障害になる人も多い。仕事に必要な知識が消えてしまい、転職を余儀なくされたエンジニアや弁護士も紹介されていた。
信仰。ただし宗教に限らず、何かを「信じる」ことができるのであれば、祈りではなくエアロビクスでも、ボランティア活動でも良い。
例えばホメオパシーに傾倒しているクローディア(p250)は、毎日のようにドクターと相談しながら、細かく処方を調合している。おそらくホメオパシーそのものよりそれらの手順が彼女の精神に良い影響を与えている。
ストレスから離れることで改善した人
第四章 代替療法
この章で紹介されているものは、以下の通り。
運動と食事、反復性経頭蓋磁気刺激法(rTMS)、ライトバイザーを使った光療法、EMDR、マッサージ、アウトワード・バウンド(ブートキャンプのようなもの)、催眠術、セントジョーンズワート、アデノシルメチオニン、ホメオパシー、グループ療法、外科手術(帯状回切開術)、レブ族の儀式「ンデウブ」
グループ療法(気分障害支援協会)に参加したときの記述。
EMDRについては、別の記事にまとめましたhttps://note.com/hebiyama3/n/naaec3040a6f4
第五章 集団
子供、高齢者、女性、黒人、同性愛者、国による文化の違いなど、それぞれのカテゴリ特有の問題と思われる事柄がピックアップされている。
第七章 自殺
この章では、著者の母親がガンを宣告されてからセコナールを使って自殺するまでの経緯も記されている。
取材された事例(概要)↓
▶️ 妻に肝臓ガンが見つかり、心中を試みたが生き残ってしまった85歳の男性。うつ病として治療中である。
▶️ 10代後半の若者。孤児院で育てられ6歳で養子となったが、虐待を受け保護され、12歳から病院で生活している。
脳性麻痺のため下半身は動かず、話すことも困難。5年間病院から出たことはなく、これまでに何度も自殺未遂を試みているが、いつも救助されてしまう。
▶️ 生徒会長であり学校内でもスターだった男の子が、飲酒行為で捕まったのちに自殺。
自殺に至らなかった人のエピソード↓
ストレスホルモン、コルチゾールの話。あまり良くわからないけど、とにかく副腎が疲れるという。ストレスによりCRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)が放出され、それと鬱が関係あるらしい。
その他の分類
大量虐殺からのケア
ポル・ポト政権による残虐行為を経験してきたパリー・ヌオンは、同じ境遇の女性たちをケアするグループを立ち上げた。
彼女たちには順番に、3つの技術を教えている。
・忘れること(刺繍、はた織り、楽器を弾く、テレビを見る、等)
・働くこと(掃除、子供の世話、専門職など)
・愛すること(お互いに爪をケアをしたり、メンバー同士で交流する)
これらの手順を経て、社会生活をするための準備が整う。
とくに3つ目のグルーミングについては、ペディキュアやマニキュアなど、互いに身体を任せることで、他人を信じることを覚えていくという。
実存主義
第八章(p147)で紹介されている作家を簡単に
自傷行為
エンジェル・スターキーは3歳のころからうつ病だった。ひどい境遇で育ち何度も自傷をくり返したため、柔らかい皮膚はどこにも残っていない。
缶のフタ、歯磨きチューブで切り刻む、熱いコーヒーを注ぐ、タバコを押し付ける。車にも2度轢かれている。
この部分を読んだとき、別の本の以下の箇所を思い出した。
エンジェルは、自分の言葉で状況を説明できている。
それでも自傷と入院をくり返してしまって、投薬やETCなど、さまざまな治療をずっと受けて続けているのだ。
ユダヤ人強制収容所
ダッハウ収容所で1年以上を過ごし、そこで家族全員を失った女性。
しかし、最も辛い時期を凌いでも自殺の危険性がゼロになるわけではない。下巻には以下のような記述もある(上記の女性とは別のはなし)
イヌイット(=エスキモー)の人々
彼らは他人の心の状態にアクセスする文化がないので、不調を見てもただ放っておくしかない。
>「私たちのやり方では、誰かに、たとえ友達であっても、『それはお気の毒に』というのは無作法なことなのです。」
これらの地域では、うつ状態以外にも、以下のような精神疾患が現れることがある
・(実際は違うのに)ボートが浸水して溺れ死ぬと信じてしまう
・皮膚の下に水があるという訴え
銃乱射事件
この「アモック」という状態は、アメリカでよく起こる無差別の銃乱射事件のことを思い起こさせる。これらの事件では犯人の多くが、最後は自害しているため。🐰💬
ウィキペディアに載っていた事件をざっくり集めてみたもの↓
注釈
巻末でとくにお勧めされていた本📝
躁うつ病を生きる(1998)ケイ・ジャミソン
早すぎる夜の訪れ(2001)ケイ・ジャミソン
黒い太陽(1994)ジュリア・クリステヴァ
数奇な芸術家たち(1964)ルドルフ・ウィットコウアー