【本棚から冒険を】君たちはどう生きるか
小学生の頃、公文に通っていました。元々は算数が苦手で通っていたのですが、国語のワークシートを一目見てからどうしてもやりたくて、親にお願いをしてやらせてもらっていました。
国語の何に魅力を感じたのかって?公文の国語は、物語文・説明文の読解が中心となっていて、様々な児童書から抜粋された文章が掲載されています。つまり、公文に通えば、毎週いろんな作品に出会うことができるのです!!
公文で新たな作品に出会い、図書館で借りて読む--小学生の頃、週末はそんな過ごし方をしていました。中でもおもしろかったのは、『ゲド戦記』です。反対に、その頃はよく分からなかったのが『君たちはどう生きるか』。「コペル君」という奇抜なニックネームだけが印象に残りました。
大人になってから改めて読みました。まず笑ってしまった(表現が失礼ですね。“親近感が湧いた”の間違いです)のは、おじさんの手記です。
コペル君は、お父さんを亡くしています。そのため母の弟(叔父)が、コペル君の元をちょくちょく訪ねてくれます。この叔父さんに、悩みや他者には恥ずかしくて言えない気持ちなどを話す形で物語が進行していきます。そしてその叔父は、コペル君が大きくなったときにこれを読んでほしい、と海老茶色のノートに日々の感想を書き連ねていくのです。この「おじさんのNotE」、現代なら私たちが利用しているnote機能でしょう。作品の終盤では、コペル君がおじさんから渡されたノートを読み、自分もまたノートに感想を書いていこうと決意する場面があります。俄然親近感が湧きました。
前置きが長くなりました。この作品は、読む人にとって心に響く場面も、言葉も異なると思います。私にとっての“心に響く場面”は、浦川君でした。
浦川君は、コペル君と同じ中学初年級の生徒です。授業中は居眠りをしていて、運動も全然できません。みんなからからかわれることの多い人物です。
豆腐屋さんの息子である浦川君のお弁当には、いつも油揚げが入っています。それを目ざとく見つけた隣の席の山口が「アブラゲ」と陰であだ名を付け、意地悪をします。
この「油揚事件」は、正義感あふれる北見君の介入によって先生の知るところとなります。苦しい事件ではありましたが、これをきっかけに、浦川君は北見君、北見君と仲良しのコペル君、水谷君と仲良くなります。
そんな浦川君が、学校を3日続けて休みます。心配になったコペル君は、浦川君のお見舞いに行くことにします。
浦川君の家は、魚屋、八百屋、焼芋屋、米屋、駄菓子屋などが軒を連ねる狭い通りにあります。初めてこの通りを歩いたコペル君は、誰もがエプロンをかけて汗を流して働く姿に驚きます。
浦川君は、父親が親戚の家へ金の工面に行き、また、そのタイミングで従業員が病気になったため、人手不足となった家を手伝うために学校を休んでいたのでした。
薄く切った豆腐を油が入った大きな鍋にそっと落とし、手早く揚げて竹箸ですくう…浦川君の手際の良さに、またまたコペル君は驚きます。実は、浦川君が授業中に居眠りをしてしまうのは、朝の早いうちに起き出し、豆腐の準備をしてから登校しているためでした。
この作品の主人公はコペル君ですが、どうしてもこの浦川君の必死に生きる姿が印象に残ります。表題『君たちはどう生きるか』ーー大人になった今だからこそ、私も浦川君のように生きていきたいと強く思います。
すなわち、世の中で何かを生み出す人間であること(浦川君は豆腐屋の一員として製品を生み出しています)、友達との約束を守る人間であること、仲間の危機を知ったら駆けつける人間であること、そして、家族を大切にする人間であること…。
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