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腰部・骨盤帯 特編 《筋筋膜性腰痛 》

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私は、クリニックに勤めていますので、20分の間に評価・治療をすませなければいけません。

時間が限られていますので、まず、口頭での問診をとったあと、


前後屈を必ずしてもらいます。

その際、上記の図のように、腰部から臀部にかけて広範囲に手掌でなぞるような疼痛の訴えがあれば『筋筋膜性腰痛』を疑います。


筋筋膜性を疑えば腹臥位になってもらい、圧痛所見をとります。

経験上、筋筋膜性の場合で一番多い機能障害は、筋膜および皮下脂肪の滑走障害(癒着)です。


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滑走障害が生じやす場所は、

・L1-2周囲PVM(脊柱起立筋)

・L4-5周囲PVM(脊柱起立筋)

・PSIS周囲 ※PSISは筋膜のインターチェンジ(交差路)と呼ばれるほど、多方向から筋膜が重なっています。

・腸肋筋-腰方形筋間(Mouth Of Dolphin)

です。(これは私の経験上です)


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特に腰方形筋-腸肋筋間は、よく滑走障害(癒着)がおきます。程度がひどければ筋間の筋膜は白く分厚く映ります。(Hyperechoic=高いエコー輝度)

リリースをかければ、輝度が低下し、エコー上でもリリースが完了したのが確認できます。

腸肋筋の筋膜の先端がイルカのくちのように見えるため、Mouth Of Dolphinとも呼ばれています。



過緊張・筋スパズム・筋線維損傷など、筋性の痛みはいろいろありますが、滑走障害(癒着)の判断基準


皮下脂肪や筋間の滑り具合です。



皮下脂肪や筋間の滑り具合が乏しく、なおかつ、滑らせたときに疼痛の訴えがあれば、滑走障害(癒着)が疼痛の原因だと判断しています。


筋間や皮下脂肪の滑り具合の判断は、たくさんの患者さんを経験しないと、自分の中での判断基準ができないので、こればかりは臨床をたくさんこなすしかありません。


では、『皮下脂肪って何?』と思われている方について、少しお話したいと思います。


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先ほどの腸肋筋-腰方形筋間(Mouth Of Dolphin)の部位です。


表層から皮膚、浅脂肪組織、浅筋膜、深脂肪組織、深筋膜、広背筋という順に並んでいます。


私はこの中で、浅脂肪組織、浅筋膜、深脂肪組織、深筋膜をまとめて『皮下脂肪』と言っています。


なぜかというと、患者さんに機能障害を説明するさいに、上記のような専門用語はわかりづらいので、皮下脂肪とよんでいます。ですので、この記事でも皮下脂肪とよばせていただきます



ちなみに体幹の皮下脂肪の厚さは個人差が激しいので、経験によってその厚みをとらえる(太っている人は分厚い、痩せている人は薄い)のですが、文献的にはおおよそ9.8mm(約1cm)と言われています。

‘’若い日本人女性のグループにおいて,体幹の 215の異なる点で皮下脂肪の厚みを 計測した.皮下脂肪の平均の厚みは9.8mm(± 1.5mm) であった.(Saito and Tamura., 1992)‘’



経験上、50-70代の方(特に女性)は、それより若い方よりも厚みが大きいです。

‘’皮下脂肪は加齢とともにその厚みが増す傾向があり,とくに,腰部や殿部下部領域などの 体幹下部で起こる. (Murakami et al., 1999)‘’




では、ここから滑走障害(癒着)に対してのリリース方法について述べます

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著名な先生の中では、リリース方法について、細かく講習指導されているところもありますが、


私の中では、『癒着がはがれれば、どんな方法でもよい』と思っています。(こんなことを言えば、著名人の方からお叱りを受けそうですが…)


上記で上げているのは、臨床上、私がよくするリリースの仕方です。


癒着がかなり強固な場合、肘(elbow)を使用することもあります。


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自分で、自分の大腿直筋を肘(elbow)でリリースしています( ´∀` )


ここまでの、内容でおわかりになると思いますが、

筋筋膜性腰痛で、その機能障害が筋間や皮下脂肪の滑走障害(癒着)であった場合、

その治療の結果を左右するのは


触診の精度です



筋間リリースの場合は、もちろん筋の形状をしっかり触診で把握できなければなりませんし、


皮下脂肪の場合は、深さを間違えると、まったくリリースできていないこともよくあります。


普段、何気なく、患者さんを触っているのと、

触っている組織が何のか?を意識しながら触っているのでは、

全く経験値として異なります。


何気なく、患者さんをマッサージしているのであれば、

厳しい言い方で申し訳ありませんがが、『臨床経験として意味が少ない』と私は思います。


それほど、触診は奥が深いですし、難しいものだと私は感じています。


ちなみに私は、触診だけの講習会を計6日間受講し、130種以上の筋を、上は頸部から、下は足底面まで、受講者同士で触診し、筋の形状をマーカーペンでなぞるという気の遠くなるような講習を受けました。(笑)


そこまで、する必要はありませんが、やはり触診は普段の臨床から上達させる意識を持つことは重要です。

マッサージでも、常に解剖書と患者さんの体を照らし合わせながら触るようにしないと、臨床経験値として積み重なってきません。



次は、滑走障害(癒着)以外の機能障害の治療法のお話します。


疼痛の原因が


『筋の過緊張』の場合は、

筋腹自体を垂直に押して圧痛(斜め方向に押すと滑走障害との判断が難しくなります)があり、尚且つ筋の緊張が高ければ筋の過緊張が原因。


『筋スパズム』の場合


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上記のように骨盤の動きでスパズム様(筋がピクピク攣縮した感じ)の抵抗や感触を感じれば、スパズムが疼痛の原因だと判断します。



『脊柱起立筋(PVM)および腰方形筋の、過緊張・筋スパズム』に対して、臨床上よく使用する治療方法としては


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上記のようなものがあります。

過緊張や筋スパズムは、患者さんの反応を見ながら、どの治療手技が効果的かを判断しながら、臨機応変に変えています。



私は、手技に関しては、患者さんが気持ちよくリラックスできることが一番重要なので、患者さんに合わせて手技は変えるべきであり、セラピスト本位で決定するものではないと思っています。

過緊張や筋スパズムには、疼痛への恐怖感や精神的な疲労、肉体的な疲労も重なっていることがほとんどです。

そのため、患者さんへの気持ちの配慮が一番重要です。




『多裂筋の過緊張・筋スパズム』は少し技術を要します。

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特に反回抑制(求心性収縮後の弛緩)は、うまく患者さんの多裂筋の動きを誘導できれば絶大な効果がでますが、これは実技で習得しなければ難しいため、紹介程度にします。


反復収縮(リラクセーション)』は、患者さんの尾骨に手掌面をあて、多裂筋の走行を意識して骨盤を軽く挙上させ、また元の位置に戻す。ということを繰り返します。


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上位の多裂筋を狙いたい場合は股関節屈曲角度は30-40°ほど

中位の多裂筋の場合は、70°ほど

下位の多裂筋の場合は、90-100°ほど

股関節の屈曲角度を変えることにより、狙える多裂筋の部位が変わります。



最後に稀なケースですが、

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『バックグリッパー』という、

腰椎を屈曲することに対しての長期の恐怖心から、起立筋が過緊張に陥っている患者さんもいます。


私は臨床上では、一人経験しています。

その方は、80代前半の女性でADLは独歩です。

50代の頃にヘルニアを発症し、腰を曲げるたびに、下肢痛が生じるのを経験してから、腰を曲げることに恐怖心を抱かれるようになりました。

30年間も、腰椎の屈曲を拒んできたため、かなり強い伸展拘縮に落ちっており、皮下脂肪-起立筋-多裂筋の著名な滑走障害および過緊張を伴っていました。

上記をリリースすればその日は、NRSが10⇒6くらいにはなるのですが、翌週には、症状が戻っているということをずっと繰り返していました。


今考えれば、当たり前のことなのですが、問題は筋組織にあるのではなく、『腰を曲げることへの恐怖心から始まった、長期にわたる腰椎伸展位をとる姿勢習慣』であり、それは『中枢の問題(脳の姿勢・運動プログラミング)』であったのです。


そこに気づいてからは、図のように、ボールを抱え込むように腰椎屈曲位を促しながら、ゆっくり時間をかけて、腰椎を屈曲することへ慣れる訓練をしました。

その結果、治療は順調にすすみました。



いかがでしたでしょうか?

筋筋膜性腰痛について、理解が深まったでしょうか?

もし、わかりにくい箇所やご質問があれば、記事のコメント欄でもTwitter,Instagramでもよいので、質問いただければお答えいたします。


最後まで読んでいただき誠にありがとうございました。

次回は、椎間関節性腰痛を予定しております。


引用

 Saito. H.. Tamura. T., l 992: Subcutaneous fat distribution in Japanese women. Part1. Fat thickness of the trunk. Ann. Physiol. Anthropol. 11(5), 495-505.

Murakami, M., Hikima, R., Arai, S., Yamazaki, K., Iizuka, S., Tochihara, Y., 1999:Short-term longitudinal changes in subcutaneous fat distribution and body size among Japanese women in the third decade of life. Apple. Human Sci. 18(4),141-149.

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