コメント_2020-01-28_114833

酒井いぶきさん総評:30年前を「発掘」しても創作ではない

twitter集合知により、酒井いぶきさんが「自分が始めた」として主張しているテプラをカラフルに埋めていく技法は、実のところ1980年代テプラ→1990年代ルシール→2000年代マスキングテープと続く「テープデコ文化」の系譜に属するもので、2010年代に入ってから1990年代のルシールに先祖返りしたと評すべきものであると整理されつつある。

また、筆者も指摘したが、彼女のテプラの演出スタイルも目新しいものではなく、定番の表現技法の範囲に収まるものである。

彼女の「作品」はテプラ以外の写真コラージュなどもcutie、egg、zipperなど20世紀末の原宿系ティーンエイジャー女子向けファッション誌でよく見たものと指摘されているが、彼女の作品傾向は、デジタル加工全盛の現代にあって手加工に戻した結果、20世紀末のスタイルに類似したものになり、それが2010年代のティーンエイジャーにとって「新しい」と受け取られている、というような印象を受ける。

直接的にヤバい、商標権・著作権侵害案件

さて、酒井さんが今回炎上している主たる原因は、テプラ芸のオリジンを主張するクレームよりは、商標権・著作権の侵害を連発しているところにあるだろう。twitterで挙げられている中でもドラゴンボール、セーラームーン、ドラえもん、ハローキティなどがあるが、下記のザ・ローリング・ストーンズのロゴなどはそれが他者の著作物であり商標登録されているという認識すら薄いのではないかという懸念すら感じさせる。

これなどを見ると、彼女に仕事を依頼しない理由は明らかであろう。彼女はどこから何をパクってくるかわからない地雷であり、クライアントを巻き込んで炎上する可能性を考えれば、商業的な依頼など出せるはずがない。

生まれる前にあったものを「再発掘」する

酒井さんが「自分がパイオニアだ」と主張しているテプラの使い方は、1990年代にルシールという製品で商業的に行われていたスタイルへの先祖返りであった。彼女がそれについて知らなかったのは仕方がないかもしれない。なにしろ彼女が物心ついたのは21世紀に入ってからであって、彼女にとっては彼女自身が発見したように感じられても不思議ではない。

また、酒井さんが知的財産権を侵害している対象は、ザ・ローリング・ストーンズ、ドラゴンボール、セーラームーンなど、彼女が生まれたころには世の中に溢れかえっており、彼女が物心ついたころにはすでに過去になりつつあったものである(少なくとも主たる活動期間は終えている)。彼女は彼女が産まれる以前の創作物をナチュラルに、それが当たり前のように剽窃している。他人の著作物だと明らかに分かる場合でも剽窃しているし、フリー素材だと勘違いしているかのようにふるまっている場合もある。これらは、彼女や彼女の支持者にとってしたら、物心ついたときから空気のように当たり前に存在しているモチーフであり、使うなと言われることが理不尽と感じられるのかもしれない。

しかしそれでも、高々30年前のものを「発掘」してきた程度でアーティストやクリエイターを名乗り、他者からそう遇されたいと思うのは怠慢であろう。彼女のやっていることは消費であって創作でなく、カルチャーであってアートではない。もっと勉強してくれと思うところではあるが、私も正直なところ以下と同じような感想を抱いている。



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