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子育てと染色

昨日は息子のスキー教室であった。

私が住む市が主催しているイベントで
地元のスキー連盟の方がインストラクターとして
地域の子供たちにスキーを教えてくれるものである。

私の息子はスキーは初めてなので
ウェアのレンタルなどが必要であったが
それでも参加費は破格の値段。
私たち親にとってはありがたい限りである。

朝早くに出発するため、
朝ごはんを食べさせて準備を整えて
集合場所まで息子を送り届けると
嬉しそうな顔をして息子は出発していった。

そうして家に戻ると、
ほどなくして妻と娘が起きてきた。

娘は息子が今日終日いないことを
知らなかったらしく、
「お兄ちゃんはどこに行ったの?」と
しきりに聞いてくる。

スキーに行ったと答えると、
「私も行きたかった」不満そうな顔をしていた。

そんな一日のスタートであったが、
共働き家庭の休日は何かと忙しい。

平日に買いに行けない分、
色んなものを買いに行かなくてはならないし、
帰ってすぐに食事ができるように
作り置きをしておかなくてはならない。

特に昨日は買い出しに行かなくては
ならないものがいくつかあったので、
妻と娘と3人で買い物に行くことにした。

お店に入りいつものように買い物を
していくのだが、
何だか違和感があることに気が付いた。

何かと思って見ていると、
その違和感の正体は娘の動きであった。

いつもは家族4人で買い物に出かけるのだが、
昨日は息子がいないことで娘の動きが
いつもと違っていたのである。

いつも娘は変な動きをしたりするので
買い物に行くと娘から目を離せないことが多い。

ところが、昨日はそれがかなりマシだったのだ。

以前から娘の行動が一緒にいる人によって
変わることはよく感じていた。

私と二人で買い物に行っている時は
どういうわけか娘は徹底して買い物を
手伝うというスタンスでいるし、
妻と行くときには大抵変な行動をして
手を煩わせるらしい。

そして昨日は息子がいないことで
いつも家族でいるときの動きとは
異なっていた。

娘にしてみれば、息子は兄であると同時に
親の注目を取り合うライバルでもある。

そのライバルがいないことにより、
昨日は娘はいつも注目を集めるために
している行動をとる必要がなかったのであろう。

それ故に昨日の娘の動きは
いつもと違って見えていたのだ。

そして、私の中でふと
これは何かに似ているなと感じたのである。

それは染色である。

「なんでいきなり染色?」と思われるかもしれないが、
染色をしていると同じような現象に
しばしば出会うのである。

染色には色んな手法があるが、
基本的には繊維に物理的もしくは化学的な力で
色の成分となる染料をくっつけることで
生地や糸に色を付けて成り立っている。

世の中でみる繊維製品の多くのものは化学的な力で
染料をくっつけているものが多い。

化学の力でくっつけたものは
洗っても落ちにくいし、強いからである。

しかし、どんな繊維でも化学の力で
染めることができるかと言えばそうではない。

化学の力を利用するからには、
繊維自体に染料と化学結合をするための
手のようなものがないとダメだからである。

仮に繊維がその手を持っていたとしても
その数には限りがある。

薄い色を染めるのであれば
手に対して染料の数のほうが少ないので
比較的均一に染まってくれる。

しかし、濃い色や複数の染料を混ぜて
染める色の場合には話が変わってくる。

繊維が持っている手は一定数で
それに対して多い量の染料があれば、
染色は椅子取りゲームの様になってしまうのだ。

子供の椅子取りゲームのように
身体能力にあまり差がなければ
椅子取りゲームとなったとしても
それほどムラになることはないが、
染色の椅子取りゲームは少々話が違ってくる。

染料の中には繊維との反応が
早いものと遅いものが存在するからである。

例えば赤と青の染料を混ぜ合わせて
紫の染料液と作ったとする。

その中に繊維を入れて染色をしたとして
青色の染料のほうが反応が早ければ
染めあがった生地は紫ではなく、
青になってしまうのである。

もちろんこうならないように
染料を選ぶ際には反応するスピードが
似たものを選ぶのであるが、
どの染料も反応速度が早ければ
今度は部分的に赤と青の部分ができて
ムラ染めになってしまったりするのだ。

いくら綺麗な色の服であっても
色ムラがあっては台無しなので、
これを抑えるための方法が必要になる。

それは一体何かというと、
均染剤(きんせんざい)という薬剤を
投入するのである。

この薬剤は一体何をするのかというと
染色の反応を遅くするものなのだ。

「え?反応を遅くしたら生産性が落ちるのでは」
と思われた方もいるかもしれないが、
まさにその通りである。

均染剤を入れれば反応の速度が落ちるので
生産性だけを考えれば入れたくはないものである。

しかし、染まりを一定に綺麗に仕上げるためには
必要な薬剤なのだ。

この染色の手法に子供との関係は
似ている気がするのである。

息子と娘ではそれぞれが私たちと関わろうとする
速度や強さは異なってくるし、
妻と私でもその程度は異なってくる。

私たちはそれぞれ染料でもあり繊維でもある。

そんな反応速度が違う染料が混ざり合い、
お互いの繊維を染めるのが家族のようなものなのでは
ないだろうか。

しかし、そうすると反応速度の速い人ばかりが
家族を占有してしまうことになってしまう。

こうならないために、私たち親がすべきなのが
均染剤を投入することである。
全体的に反応速度を落としてやれば
少々反応速度の差があっても、
ムラになることは少なくなるからである。

親として早く反応してやることは大事でもあるが、
早いばかりではダメなのだ。

私はどちらかというと根がせっかちなので
ついつい子供と向き合うときに
素早く反応してしまい、
対応にムラが生じがちだった気がする。

そんな私こそ、均染剤が必要なのかもしれない。

息子がいない土曜日の日中を過ごして
改めて子供と向き合う姿勢について考えさせらた
いい機会となった。

ちなみに息子は夜7時ごろに帰ってきたが、
初めてのスキーを体験したことで
一皮むけたような印象を与えてくれた。

一日両親を独占した娘は疲れて
眠ってしまっていたので、
次は息子のターンである。

色んな事を話す息子を見ながら
子育ては面白いなと実感する土曜日の夜であった。


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