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アイスクリームのおっちゃん

私はあまり家で甘いものを食べない。

食べだすとキリがないのと
それが習慣になると太ってしまうからである。

だが、ときどき自分を甘やかすときがあり
そんなときは大抵アイスを食べる。

ところが、我が家のように小さな子供がいると
自分だけ食べるというわけにもいかない。

私が食べていると羨ましそうに寄ってくるし
娘はいつも「パパが食べるなら私も食べたい」と
言ってくるので、
大抵私が食べ始めるタイミングは家族みんなで
アイスを食べるタイミングになるのだ。

そうなると必然的に私がアイスを食べる時には
4本以上入ったファミリーアイスを買わねばならない。

前置きが長くなったが、
今回私がこんな話をしたのはinfocusさんの
下記の記事を拝読したからである。

infocusさんはお子さんが5人いらっしゃるので
アイスといえばファミリーサイズ一択となるそうである。

お子さんたちにも人気でオススメのアイスを
ご紹介さえているので、ぜひ読んで頂きたい。

私はこの記事を拝読してシャトレーゼの
ファミリーアイスがノーマークで合ったことに気付き、
この週末にさっそく最寄りのシャトレーゼに行こうと
決めている。

そんなファミリーアイスを思い描いたとき、
私の頭の中に一人の人の姿が浮かんできた。

かなり昔の話になるので、
ここではあえてイニシャルではなく名前で書くが、
我が家には2か月に1回ぐらいの頻度で
遊びに来る人が一人おり、それが森さんであった。

父の仕事関係の友人だということだったが
当時私は子供だったので、どのような付き合いなのか
いつから友人なのかは全く知らなかった。

2か月に1度ぐらいの頻度で
夜の7時頃に我が家にやってきて
父と母とお酒を飲みながらワイワイ騒ぐ。

この時は絶対に父と母が喧嘩をしないのと
少しだけ夜におやつを食べることができるので
子供心に森さんが来るのが少し楽しみだった。

そして、私たちの楽しみはもう一つあった。

それはアイスである。

森さんはどこで調達しているのか不思議だが
我が家に来るときには必ずファミリーサイズの
アイスを購入して手土産に持ってくるのだ。

私の実家は時々アイスは買ってくれたものの
常に冷凍庫に入っているような家ではなかった。

なので、ファミリーサイズのアイスを3種類ほどまとめて
持ってきてくれる森さんの来訪はとても嬉しいものだった。

”アイスクリームのおっちゃん”私達が勝手につけた
森さんのあだ名であるが、
このあだ名で呼ぶと森さんは何とも恥ずかしそうな
嬉しそうな顔をしていた。

ところが、森さんはある時から我が家に来なくなった。

この理由を父や母に聞いたことはなかったが、
職人気質な大工だった父と何かの理由で仲違いしたらしい。

楽しみにしていた森さんの来訪が止まり、
私にとってアイスが特別なものに戻った。

それから月日は流れ私が21歳の頃、
父が亡くなった。

父が亡くなった時には唖然としてしまって
何をしたらいいのか戸惑ったが、
実際お通夜の手配で業者さんと話し始めると
奇妙なぐらいバタバタしてしまい、
悲しみを感じる余裕すらなかった。

父は亡くなる前には一部の仕事以外ほとんど周りとの
交流がなくなっていたが、
父が亡くなったことを関係者には連絡しなくてはならない。

父が生前使っていた携帯や電話帳などで
私が電話番号を調べ、
兄や母が連絡をしているときに
ふと私の頭の中に森さんのことが頭に浮かんできた。

一時的ではあれど、定期的に一緒に飲んだ仲である。

どこかに連絡先があるはずだと調べてみるが
どこにも森さんの連絡先は載っていなかった。

母に聞いても「わからない」というだけ。

結局、その時は森さんにコンタクトすることもできず
父を見送ることになった。

それから19年が経った。

その間に私は就職をして実家を離れ、
そして今では家族を持っている。

こうしてnoteの記事を読んでふとファミリーアイスの
ことを考えた時に、
あの時連絡できなかった森さんのことが
頭に浮かんできた。

父と同じぐらいの歳だったとすれば
もう70歳を超えているはずだし、
元々病気持ちだと当時から言っていたので
今はもうご存命ではないかもしれない。

だが、間違いなくファミリーアイスを見ると
いまだに私は森さんのことを思い出している。

何だかこういう形で人の記憶に残るのも
悪くない気がする。

私も父と同じで、あまり友人は多くない。

自分に万一のことがあったなら
誰に連絡すべきかを考えてみても
友人というカテゴリであれば片手で
事足りるほどしかいないが、
そんな彼らの家に遊びに行くときには
かつての森さんと同じように
アイスクリームを持って行ってみようと思う。

そうして次は私が”アイスクリームのおっちゃん”を
引き継げるとすれば
何だかステキである。


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