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BOOK REVIEW「まく子」

(西加奈子著/2016年)

テレビで紹介されていた新刊に興味を持ったのだが、そういえば彼女の作品を読んだことがなかったなと思い、図書館でこの本を手に取った。

序盤を読むと、どうやら、小さな温泉街に住む主人公の慧が、彼を取り巻く温泉街の住人たちとの関わりのなかで成長していく物語のようだ。

しかし読み進めるうちに、いやいや、そんな単純なものじゃないぞということがわかってきた。

ネタバレになるので詳細は省くが、転校生の少女・コズエが「私は別の星から来た」と言い出したところから、一気にSF作品へと舵が切られていく。「これは一体…?」と戸惑いながら先へ進むと、もう、エンディングは完全にファンタジー。

あまりの急展開に呆気に取られてしまうのだが、その不思議な体験から学び、成長した慧が紡ぐ言葉が人間の本質を鋭く突いていて、胸に刺さってグッときた。

例えば、こんな言葉とか。

ぼくたちは、誰かと交わる勇気を持たないといけない。ぼくたちは、ぼくたちの粒を誰かに与える勇気を持たないといけない。あの人はぼくだったかもしれないと、想像する勇気を持たないといけない。誰かを傷つけたら、それはほとんど僕を傷つけているのと同じことだ。絶対に、絶対に誰かを傷つけてはいけない。
ぼくはみんなだ。ぼくはぼくでしかなくて、そして同時に、みんなでもあるのだ。ぼくはそれを知っている。ぼくの命という小さな永遠は絶え、でもいずれみんなの大きな永遠に受け継がれてゆくだろう。体が朽ちても、心臓が止まっても、ぼくがみんなである限り、ぼくの「ぼくたる所以」は、ずっと消えはしないのだ。
ぼくは、こわがっているこの体ごと、成長してゆくのだ。そしてそのなれの果てが「大人」ではないのだ。大人もまだ、何かの渦中なのだ。いつか死ぬまでの、絶対に死ぬまでの、その奇跡みたいな「ひとつの過程」に過ぎないのだ。ぼくらは今偶然、奇跡みたいな偶然のさなかに、この姿であるだけなのだ。

読み切ってあらためて考えると、このストーリーでタイトルが「まく子」っていうのも、なんかすごい。あらゆることを含め、西加奈子の頭の中がどうなっているのかとっても興味が沸いた。これは新作も完全に期待が持てる。

(てかこの作品、映画化されてるんだ!この世界観をどうやって?!いろんな意味で見てみたい!!!)

現在、文庫版も販売されているよう。


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