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極秘任務の裏側

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軽快でドタバタな一ノ瀬たちの活躍をぜひ!【全18話】
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#眠れない夜に

【小説】極秘任務の裏側  第1話 

【小説】極秘任務の裏側 第1話 

 錆びた鉄の階段を降りて路地に出ると、ビル風がふたりを襲った。
「硬いなぁ。ほら、笑って。笑顔笑顔」
「いででででで……!」
 頬を強くつねられ、笑顔どころか涙が滲む。
「なにすんだよ!」
 一ノ瀬が声を上げると、ケイはふふふと笑った。
「リラックスリラックス」
 軽い足取りで先に進むケイの後を、頬をさすりながらついていく。
気合いを入れないと。これは下手したら命に関わる大きな仕事だ。
両手を横に

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【小説】極秘任務の裏側 第2話

【小説】極秘任務の裏側 第2話

 一ノ瀬の頭をかき乱すだけかき乱してケイが去っていき、大通りにひとり取り残された彼は途方に暮れていた。
 目の前の歩道橋をぼんやり眺め、はは、日差しつえー……とか独り言を呟いてみたが、自分がなにをするべきなのかもう全然わからなかった。ケイは先程この歩道橋に何かを見つけて焦っていた。しかし、一ノ瀬がどう見ても平和な日常しか見当たらない。試しに階段を少し上り、歩道橋の上を行き交う人々を見渡してみる。駅

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【小説】極秘任務の裏側 第4話

【小説】極秘任務の裏側 第4話

 今度こそ本当の極秘任務。間違いなくハラダからの指示だ。
「何も知らない一ノ瀬君に今回の事件を説明します。ちゃんと聞いていてくださいね」
「はい」
 何も知らない一ノ瀬君は神妙な面持ちで頷いた。
「まず、君が偽任務で聞いたL38の情報は誤りが多いです。まったく、どこから漏れたのか知りませんが、適当な情報漏洩はやめてほしいですね」
 正確な情報漏洩の方がまずい気がするが、一ノ瀬は黙って聞いていた。

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【小説】極秘任務の裏側 第6話

【小説】極秘任務の裏側 第6話

 ケイが去っていった後、一瞬自分がどこへ向かっていたのかわからなくなっていた。そうだ、銀次郎と「エンヤ」のところに……。いや、ハラダに連絡をするべきか。ケイに会ったこと、情報を漏らしてしまったこと。伝えるべきではないか? 今度こそ怒られるだろうなぁ……。結局ケイが何者だったのかもわからないまま、逃がしてしまった。クビ? クビかもなぁ……。とりあえずハラダに電話をしようとスマホに目をやると、電話が鳴

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【小説】極秘任務の裏側 第7話

【小説】極秘任務の裏側 第7話

「じゃ、じゃあ、作戦会議を始めます」
 一ノ瀬が言うと、だるそうに座った銀次郎がつっこんだ。
「学級会議みたいなノリだな」
 なんて生意気な小学生だ。そもそも、先程から気になっていたが、この少年、小学生とは思えない鋭さがある。やはり天才ボスの血を引いているせいか。

 一ノ瀬、エンヤ、銀次郎は、例の部屋で埃まみれの机を雑に並べて円卓会議を始めた。
「えっと……まず聞いておきたいんだけど、なんで銀次

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【小説】極秘任務の裏側 第8話

【小説】極秘任務の裏側 第8話

 埃っぽい机の上に、銀次郎はリュックから妙な機械を取り出し、設置した。
「なに? それは」
「言ってもどうせわかんないだろ」
 そうだろうけど、かわいくない奴め……。
「わかりやすく言えば、データの読み込みとか解析とかできる機械だよ。しょーじさんがくれた」
「しょーじさん?」
「自分のボスの名前も知らねーのかよ。これだから新人は」
 そういえば有り得ないことに、一ノ瀬はボスの名前を知らなかった。さ

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【小説】極秘任務の裏側 第9話

【小説】極秘任務の裏側 第9話

 一ノ瀬は駅前にある親子丼の店へ直行した。初めて本社に来た時から気になっていたのだ。幸い、まだ夕飯時には少し早かったため、並ぶこともなく席につけた。メニューは親子丼以外にも魅力的なものが揃っていたが、目当ては揺るがない。数分も経たず、運ばれてきた親子丼は期待以上のもので、一ノ瀬は心も腹も満たされた。
 会計の前に一口水を飲んでから……と、何気なく店の外に目をやると、忘れられないあのシルエットが。ケ

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【小説】極秘任務の裏側 第10話

【小説】極秘任務の裏側 第10話

「ロン! トイトイ、三暗刻、ドラドラ……18000。悪いわね」
「くっそぉぉぉ! 跳満かよぉぉ」
 お世辞にも綺麗とは言えない雀荘に、場違い過ぎる華やかな女性。この数時間、くたびれたおっさん相手にゆるふわのロングをかきあげ、麻雀牌を華麗に切っている。
『もしもし? 凛子さん、聞いてます?』
「あーごめん。聞いてなかったわ。お友達がなんだって?」
 通話をしながら、手牌を睨む。
『いや、だから結局は

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【小説】極秘任務の裏側 第11話

【小説】極秘任務の裏側 第11話

 ちっくしょう。なんでこんな面倒なことに。
時は遡り、昨日昼過ぎのこと。後藤は路地を必死に走っていた。眩しい空を苦々しく睨みながら、走る足がもつれてくる。
そう、この男が現在一ノ瀬たちが追っているL38を盗んだ犯人。陰では薄らハゲなんて言われていたが、こう見てみるとそこまで薄くもない。本人はまだ若いのに薄くなってきたとかなり気にしていたが、周りはそれほど気にしないものだ。そして何度も「知らないおっ

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【小説】極秘任務の裏側 第12話

【小説】極秘任務の裏側 第12話

 前日にそんな後藤の葛藤があったとは知らない一ノ瀬たち。ミクブロとトイパラの強力タッグで後藤を追い詰めようとしていた。
正直、情報を探っていたケイには、後藤がただの捨て駒だということはわかっていた。片棒を担がされた頭も運も悪い男。しかし、実際にL38を奪って逃走しているのであれば、実行犯を捕まえるチャンスである。それに、後藤という男なら簡単に捕まえることができる気がしていたのだ。
 なのに。なぜか

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【小説】極秘任務の裏側 第13話

【小説】極秘任務の裏側 第13話

 銀次郎とエンヤもまた、一ノ瀬たちと同じ駅に向かっていた。お菓子を買うためにコンビニに寄り、かなり長いこと吟味していたため少し出遅れたが、やはり現場のそばを捜索するのが筋、と銀次郎は心得ていた。一ノ瀬たちと三人で基地にした場所も気になるし。あの部屋が結局なんだったのか、一ノ瀬は教えてくれなかったけれど、なにか事情がありそうだった。きっと今回の事件になんらかの関係があるはず。銀次郎は冴えていた。だっ

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【小説】極秘任務の裏側 第14話

【小説】極秘任務の裏側 第14話

 角を曲がったとこでばったり、なんてシチュエーション、実際に存在するんだな。
後藤は隣を歩く赤いメッシュの女性をちらちら見ていた。エンヤって変わった名前だな。イントネーションが独特。日本人に見えるけど、海外の血が入っているのかもしれない。
正直、自分は他人の迷子捜しにつき合っている場合ではないのだが、困っている女性は放っておけない。後藤はまた横目でちらっと見た。小柄なのに背筋がシャンと伸びて、かわ

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【小説】極秘任務の裏側 第15話

【小説】極秘任務の裏側 第15話

 一ノ瀬とケイは完全にパニックになっていた。エンヤが後藤と行動を共にしている。遠目にわからないが、とても追う者と追われる者の雰囲気ではない。まあ、しかしエンヤのことだ。後藤を前にしても普段通り接していそうな気もするが……。
「これは……どう解釈すればいいのかな」
 頭を抱えるケイ。
「僕はエンヤさんをよく知らないからわからないんだけど……彼女は何をしているんだろう?」
 一ノ瀬はまだ左目から涙を流

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【小説】極秘任務の裏側 第16話

【小説】極秘任務の裏側 第16話

 目の前に横断歩道がなかったため、一ノ瀬とケイは少し迂回して大通りを渡り、先程エンヤと後藤がいた角に立った。ひとまず乱れた呼吸を整えながら、ふたりが消えた先を目で探る。
「どこ行ったんだろうなぁ……この先ちっちゃいビルしかないぞ」
「片っ端から勝手に入るわけにもいかないし……とりあえずちょっと周辺歩こうか」
「叫ぼうか? エンヤの名前」
「後藤もいるのに?」
「あ、そうか」
 ふたりはきょろきょろ

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