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短編物語「晴天のペキペキ」

朝、ベランダに出ると寒さに思わずフーッと息を吐いた。真っ白い息は視界を覆った。

昨日の大雪とは裏腹に、今日の空はまっさらの青だ。まさに真っ青。外は凄く寒いけど、日差しは凄く温かい。とても気持ちがいいので、朝からコーヒーを淹れる事にした。

私はコーヒーに”うるさい方”なので、豆をガリガリするところから始めた。このガリガリが心地いい。なんだか頭の中のいらないものをほっぽり出して、空っぽになるような、心地の良い振動だ。鼻は冷たい空気でちょっと痛いけど、それでもいい香りが漂ってきた。

「乾燥して冷えた日はコーヒーにもってこいだな」

大き目の独り言を話しながら、コーヒーを淹れた。もう一度ベランダに出て、さっきの最高のお天気をおかわりした。

コーヒーをすすりながら遠くを眺めた。真っ白い街と真っ青な空。コーヒーを片手に感傷にふける今日の私は、芸術家に違いない。

屋根のひさしにツララができている事に気づいた。太陽の日差しに輝くツララ。耳を澄ますと、ツララが解けてヒビが入るような音が聞こえる。芸術家になった私に見つけてくださいと言わんばかりのこの情緒。

ツララはペキペキと言っていた。

私はこんな日の事を、「青天のペキペキ」と名付けた。今日の私は芸術家だ。名前だって付けられる。

誇らしげな気持ちでコーヒーを飲みほした。

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