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あなたの写真。

『もっとましな写真はなかったの?』

お葬式に行って思うことは、いつもそんなことばっかりだった。
いざ私が写真を選ばなきゃってなったとき、限られた中から、1番あなたに近いあなたはどれだろうって探したら、家でしか見せないようなだらしのない顔の写真がどうしても並んでしまった。
親族たちには不評だったけれど、私が知ってるあなたの写真はこれだ!と、思った。

多分、あなただと気づかないんじゃないかな?
そんな写真を最後に選んで、私は季節感の無いたくさんの花の中に、業務的に並べてたことを思い出してた。

気がつけば、よちよち歩きだったあの子が、言葉を喋るようになっていた。
生活に追われて、時間に追われて、人に追われて、時代に追われて、ずっとずっと何かに追いかけられてて、自分のことにも興味が薄れて行くのは当たり前で。
だからあなたのことなんて、思い出す余裕もなかった。

そんな毎日が続くから、そんな毎日が続くくらいだったら、また何かを失うくらいだったら、どうせ一人ぼっちなんだから、と、すべてを捨てて海辺の街に引っ越してきた。
方便がきつすぎて海外で暮らしてるみたいな気分になるし、しかもちゃんと道がわかんないし、田舎すぎて日本なのかも疑ってしまうくらいの場所だから、毎日が冒険というか、迷子というか、サバイバル。

相変わらず街の音で目が覚めるんだけど、今は暮らしの音がする。
この部屋で、最も日当たりが良いとこにあなたの写真を置いて、会話も報告もしない。
何にもしないけど、そこから私の1日が始まる。

あんだけ不評だった写真だったけど、私からしたらあなたはこんな顔よ。
だらしない笑顔がなんだか憎めないけど、なんかムカつくけど、最後はなんだかんだで許してしまう、私の大好きだったあなたの顔。
やっぱりあなたの写真はこれだなって思う、いつ見てもね。
だから他の人達も、そーゆー写真を選んでるんだなってわかった。
他人には見せない本当の、その人の当たり前の表情。
私たちが知らなかっただけで、その人はそんな顔の人。

きっと私の人生はこのまま何もなく、言い方を変えれば穏やかに、時代は変われど変化はなく、刺激もない。
驚きも感動も人並みにはあるだろうけど、あなたが居ないことを感じるたびに、私は空っぽに戻り続ける。
そんな人生を選んだよ。

なんか、私ね、笑うポイントが違うんだって。
多分、あなたのせい。
多分じゃない、絶対あなたのせい。
あなたが笑うとき、それは笑わされてるんじゃなくて、なんだか心からあふれてくる得体の知れない何かが、あなたの中心あたりをくすぐってくるんだったっけ?


未だにそんな人は居ないみたい。
まぁ、私は元気です。仕事いってきます。


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