独り言多めの読書感想文(和田竜さん『村上海賊の娘』)
和田竜さん『村上海賊の娘』を、読書感想文してみる。
おこがましいの承知で本日の前提。GLAYの『いつか』椎名林檎の『長くて短い祭』Go!Go!7188の『恋のうた』この作品の美点は、上記3曲との間に共通項を持つと設定する。話を始めよう。
眞鍋七五三兵衛《まなべしめのひょうえ(しめ)》は作中「剛強無双の巨漢、怪物」と表現される。戦での在り方。しめはたった一人逆境に立ち向かい、仲間の裏切りを笑い飛ばし、好いた女を追う。失礼、語弊が生じた。「面白《おもしゃ》い女」として、女との命のやりとりを心から愉しむ。戦での在り方。漢気溢れるしめはカッコイイ。
村上景《むらかみけい》は作中「悍婦にして醜女」と表現される。戦での在り方。女でありながら海賊働きが大好きな景は、かつて知り合った仲間を助けるがために心を折られ、一度は普通の女として生きようとするが、自分がどうありたいかを考え直し、己の未熟ささえも駆け引きの道具として利用し、意思を貫こうとした。戦での在り方。弱さをも力に変える景はカッコイイ。
この作家さんの作品に出てくる登場人物はみな個性豊かで、でも一本筋を持っていて、見ていて気持ちが良い。無門も好きだし靭負も好きだ。ついでに寺田又右衛門も好きだ。そんな中、あえてちょっとだけ視点を変えて見てみようと思う。
この際はっきり言おう。しめはきっと一切家事をしない。
それどころか靴下は裏返しのまま床に脱ぎ捨ててあるし、戦から帰ったら帰ったで、でかい声で「今帰ったぞ」に続いて「メシ」だの「フロ」だの四の五の言わずラリアットだの好き勝手するに決まってる。そりゃあ命がけでお家《いえ》を守っている訳ですから文句は言えませんけど? 現代社会では到底なじまないタイプに違いない。そして問題のシーンである。
「どや? 姫。わし処は泉州一の海賊やど。貰ちゃろか」「女房が死んだよってな。嫡妻が欲しねん」
聡明なあなたは、このセリフをサラッと流してはいけない。そう。全くもって前妻の死因に触れていないのだ。ここには「聞かん坊と共にストレスを最大限まで与え続けた結果」「力任せに抱き潰した」「不幸な事故」など、さまざまな憶測が飛び交う(あくまで私の中で)
なくなりはしたが、下手に「海賊に輿入れ」を成し遂げていたらと考えると……いや、この辺にしておこう。
話を戻す。景はきっと一切家事が出来ない。
見れば分かる。しめでさえもてなす程度に料理ができても、景は(人を殺めるため以外に)刃物を持ったことすらないに違いない。レースをネットに入れず洗濯機を回して、結果的に糸がピーってなっても気にしないだろうし、むしろ「この位でほつれるなんてヤワ」とか八つ当たりさえし出しかねない。掃除は四角い部屋を丸くするだろうし、咎めれば「ちっせぇな」とかこちらのプライドを傷つけられる可能性さえある。「あれ、俺間違ったこと言った?」と思い始めたら最後、死ぬまで負のループから抜けられなくなるから気をつけて欲しい。あなたは自分を疑っちゃいけない。一体何の話だコレ。
という訳で散々この作品の魅力を語ってきた訳だが(ウソだろ)最後にこのハード本2冊にも渡る壮大な物語の、最大の魅力を語ろうと思う。
それは、「後奏でトリハダが立つこと」だ。
冒頭で並べた3曲との共通項。印象に残るサビは勿論、重厚な後奏によってこの作品はぐんと格式を上げる。自分と作中の登場人物を結ぶもの。次の瞬間、
あなたは時代を越える。『その手をにぎりたい』でも触れたが、トリップする。手を取って初めて、その物語は己の血肉となる。身近な気の良いおっちゃんだと思っていた人が、実はとってもお偉いさんでした。そうしてフィクションとして動いていたはずのキャラクター達が、史実上の名のある一人になる。
後奏。一旦物語を締めると、その後を史実として書き残す。史実は確かに自分の足元へと続いているのだ。独りよがりではない、きちんと背骨を持った個体は客観。大人の読み物へと変貌する。本の持ち方が変わる。大切にするべきものであるとインプットされる。伝わるだろうか。おこがましくもこの感動、一人で味わうには勿体なさすぎる。
という訳で『村上海賊の娘』時間をかけるだけの価値があります。個人的にはハード本のカバーも好き。特に上巻。全然「悍婦で醜女」じゃないけど!(笑)
ここまで読んでいただいてありがとうございました😊うれしい。
あなたの読書ライフが、より実りあるものになりますように✨
P.S.これは本当にただの独り言なんだけど、例えば「前提として3曲上げ」た段階で瞬時にここに与する4曲目を連想した人がいたとしたなら、当たる当たらない関係なくおしゃれさんだと思う。そんな能動的な読み手になりたい。
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