シャーマンと鍛冶屋2(葉脈盆地17)製鉄民と鬼2 日本には錬金術師はいなかった。
秦氏と同じように、非常に有益な産業技術を持ち込んで、吉備回廊を繁栄させ、吉備冠者(きびのかじゃ)とまで言われた温羅は、なぜ倭から討伐され、鬼とまで呼ばれ滅ぼされたのか? 製鉄民、鍛冶師の源流を再び、ミルチャ・エリアーデの著書"鍛冶師と錬金術師"から。"●鉄を生み出した地上最初の人々とされる、中央インドのアスール族の伝承。地上の製鉄の煙を非常に嫌悪した、至高存在シング=ボンガが鳥の使者を送り、製鉄をやめるように言ったが、製鉄民はきかず、鳥を切り刻んだ。シング=ボンガが地上に降り老人の化身となって、鍛冶師をうまく誘導して、製鉄炉に入らせ、生身で焼かせた。"これは鍛冶師・製鉄民が製鉄炉に人身供犠をした事のモチーフとされる。●鉄器時代は戦争と大虐殺の絶え間ない連続。大量奴隷制度と普遍的貧困化。などから製鉄・冶金術への憎悪が生まれ鉄工人を"巨人と悪霊の範疇"と分類した。神々の敵とまで呼ばれた。"(青銅器民からの敵視?) 炉の燃焼原料とする山林伐採や住民を攫い、奴隷を酷使し、時に製鉄炉で焼く人身供犠があったとすれば、鬼とされた当時の状況が理解出来る。●青銅器文明と鉄器文明とは、連合し得ない。同時に大和とししては、やっきになって、優れた製鉄集団が欲しかったに違いない。結果として、旧来の吉備王朝(吉備冠者)を、鬼として滅ぼし、産業から部族から全てを服属させ、部族神の位置まで、乗っ取った。出雲神話同様、ヒコイサセリノミコトと温羅のシャーマン戦こそが本来の吉備神話であった可能性が高い。大和朝廷にはより根源の祟りは出雲から来ており、出雲神話が古事記には取り上げられ、荘重な出雲大社が築かれた。非常に深い鎮魂の意思が感じられるが、中途半端な立ち位置の吉備王国には古事記に取り上げられる神話も無い。温羅を鬼ではなく、吉備冠者として祀り直す神事が必要かもしれない。また大和朝廷黎明期の古墳、遺跡には吉備の特殊器台、特殊壺が儀式祭器としてかなり多く出土しており、滅ぼされる以前の吉備王国のシャーマン・巫女達が祭祀に関与していた可能性が高く、出雲王国よりは連合王朝内勢力だったかもしれない。●このような部族王国殲滅乗っ取り方程式が、ヤマタノオロチ神話、両面宿な、土蜘蛛、熊襲、蝦夷全てに当てはまるならば、打続く古代の天変地異、疫病禍は不思議ではない。新しく吉備津彦命として統治にあたったヒコイサセリノミコトの子孫はブーメラン効果により、雄略天皇に滅ぼされた。吉備(温羅)殲滅、出雲殲滅、二重の祟りを受け滅ぼされた恨みは救いようが無い。これが吉備王国の呪いの本体であるならば、近年盛んに催される"ウラジャ祭り"は、県民の本能的嗅覚が、真に祀るべきものに気づいたのだと思われる。●"金属は神の身体ないし犠牲に供された超越的存在に由来する。" これらのそれまでの農耕狩猟とは異次元の領域は、シャーマンのサイキック力に全く違う関与を要求する。地の骨、鉄鉱石を掘り出し、天空からの隕石をてなづけ、人身供犠を行い、さらに脳内磁場の力を放射して、鉄に呪力を籠める。ここから錬金術という途方もない世界が流出する事となる。ただし日本には錬金術の歴史が無い。大陸からの冶金シャーマンの流れを断ったからだと思われる。その代わり、神剣、霊刀を鍛造する、世界にも類まれな、刀工産地が産まれた。備前長船。(画像は、"錬金術師と竜"。アンドレーア・アロマティコ著、"錬金術おおいなる神秘"より。"ゾロアスターにおいて鍵を握る術"からの抜粋写本。リンチェイ・アカデミー図書館蔵。)参照:ミルチャ・エリアーデ著 ".鍛冶師と錬金術師"。
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