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岡山戦レビュー〜天敵撃破と自ら招いた苦戦〜

時代の転換期、7年ぶりの勝利

山雅にとってはJ全クラブの中でも最も苦手としていたと言っても過言ではない天敵・岡山に2013年以来の勝利。金沢に10年振りの勝利を献上したり、歴史的失点を喫したりと結果からも"一時代の終わり"を感じるシーズンになっているが「負の歴史」も今年のうちに払拭できたのは好材料である。

怪我人の多い岡山からするとなかなか攻撃の起点を作れず、FWまで辿り着かない時間も続いたので不完全燃焼の試合であったと察するが村山のビックセーブや高橋の好守がなければ逆転されてもおかしくないような時間帯も長くあったのは明確な反省点。

岡山を苦しめた前半、前回の町田戦に続いてヒヤヒヤ展開になった背景を中心に振り返っていきたい。

〜個人的MVP〜

個人的MVPは先制点をあげたセルジ。得点シーン以外でもポープに防がれたシュートなどフィニッシュで違いを見せた両チーム唯一の選手だった。

次点は佐藤、杉本、鈴木、橋内

佐藤は自由を与えてくれる442のチームだと毎試合ここに名前を書くことになるのでは?と思うほど攻撃の構築面で存在感が大きい。

杉本もセルジとの関係性がここにきてより一層深まっている印象。二人が近くでプレーしていると相手からすると奪いどころを見つけるのが難しい。

1点目のスイッチとなった鈴木はサッカーIQの高さが光った。阪野のシュートに繋がった突破も「どこに突っかければどこが空くか」整理されている証拠である。

イ・ヨンジェに対して屈することなくやり切った橋内もさすがの対人能力。442のチームにかなり得意な印象が付いてきているが「橋内が広範囲カバー出来る」という前提は必須なように思う(逆にここで押されてた千葉戦は結果もついてきてない)

〜戦評〜

■「軽率さ」を見逃さなかったカウンター

まずは試合の入り。どちらもセーフティ重視で、かつ激しいフォアチェックを行うサッカーを展開していたため、なかなか地上でボールが収まらない時間が続く。

山雅が杉本や鈴木、セルジらがいい形で受けたら1人2人と剥がしながら組織の破壊を行う一方、岡山はイヨンジェをメインターゲットに縦一発を狙うような展開に。ただロングボール合戦になると岡山の方に分があったように感じる。

ただ理想を言うと岡山はSHがこちらの前・杉本のIHの後ろ(佐藤の両脇)を狙うような攻撃山雅は中盤の優位性を生かして前進するような攻撃をする狙いが見えたが、逆にそこが守備側の狙いどころにもなっており、この時間までは狙ってはそれを消すという我慢比べのような時間となる。

そして、得点シーン。この両者の攻撃の狙いとそれをさせない守備の狙いが先に噛み合ったのは山雅側、綻びを出してしまったのは岡山側だった。

1点目

阪野がプレスに行き、杉本がCBに出て行ったので「IHの裏を狙う」という岡山の狙いを出すには絶好のシチュエーションが来たのだが、それが故にCB濱田、SH野田は縦に急ぎすぎてしまった。その「狙いを察知する」鈴木の変則的なプレスに気づくことができなかったため、鈴木はあっさりとそのボールを奪取。椋原は低い位置で貰おうとしていたのも鈴木の選択を簡単にさせたのでこの岡山の右サイドのズレが1失点目に繋がってしまった。

■動かない展開

・追加点は狙うがリスクはかけない山雅

失点直後で意識のズレが出てしまった岡山に対してセルジの惜しいシュートなどで追加点まであと一歩のところまで迫ったが給水後は時間が経つにつれて「持つ岡山」と「構えてカウンターを狙う山雅」という構図になっていく。

もちろん先制点を取ったことで余裕を持って繋ぐというやり方も1つあるが、構える山雅に対しての攻略法をほとんど持ってないor実現できずにいた岡山に「いかに点を取らせないか」を考えると非保持で構えるという選択自体は妥当性があった。

・狙いを実行できない岡山

また、狙いを実行するSHが狙われて失点に繋がった岡山はその影響もあってかなかなかそのIH裏を突けない時間が続く。さらに山雅が引いている限り、ハーフスペースでの間受けもかなりスペースが限られてくるのでうまくSHが経由地になれず、やむなく中盤省略。

その後

しかし、ロングボールをいち早く拾うサッカーに振り切っているわけでもなく、FWのサポートをするべきSHがIH裏で受けるために動いているので「"2トップ"VS"3CB+佐藤"の勝負で負けない限りはピンチにならない」という山雅としてはやりやすいまま前半は終了する。

■攻略法を提示したパウロ

そこで後半頭から岡山ベンチが動く。リードしていてやり方を変える必要もない山雅に対して、今の岡山なら「裏抜けをより強化するか」「間受けできる選手を入れるか」の2択だと考えていたが、後者のプレーができる関戸を投入。

これにより中盤の繋ぎに変化が表れるかと思われた……が、それほど関戸のところからの変化は見られず、GKも入れてビルドアップを試みるも結局山雅の陣形は動かないので再び中盤省略の流れが続く。

後半

苦しい状況の岡山だったが、具体的な解決策を提示していたのは中盤のパウロだった。31ビルドアップの前に位置していたパウロだが、後半10分あたりからこちらの2トップの右端にポジションを取って岡山の左サイドに優位性を作り出していく

それが実ったのは後半15分のシーン⇩

パウロ

食いついた塚川をワンツーで交わすことでその後ろの佐藤・大野のところでも1VS2を作り、完全に山雅の352を攻略する形を作ってきた。山雅が交代直後でプレスのタイミングにズレが生じたのもあるが、贔屓目なしに一番再現性のある崩しをされたシーンのように思えた。

そこからさらに赤嶺山本の投入などもあり、同じようなシーンは作られなかったが、このあたりから風向きが少しずつ変わっていく。

■「試合の流れ<スタメン固定」の交代策への疑問

ここで少し疑問だったのは攻撃も守備もバランスよく行えていた山雅が温存のために先に大きく動いてしまった点である(具体的には中盤の塚川、右の前、左の高橋。その後の右の隼磨、FWのジャエル)。正直、岡山はブロックを敷いている山雅に対しての策はなく、あってもCBがそれをしないという苦しい時間が続いていた。

今季は試合の中である程度試運転を行っていかなければならない点があるので多少は仕方ないとは思うが、相手の出方を見ることなく、4枚(ポジション的には5カ所)変えてしまったことが逆風になっていたのは明らかで、プレスがハマっていなかった塚川だけでなく、ジャエルや高橋、中美らも試合に入るのに苦労しているようなプレーを見せているのは気になった。

温存というのはつまり次節のスタメンを変えずに戦うためだと思うが試合の流れを壊してまでこの時期に「スタメン固定」にこだわる必要があるのか?は少しだけ疑問が残る。

仮に選手交代後の混乱の時間帯で1点を返されていれば試合は大きく崩れていただけではなく、采配で流れを変えることもできないままやられていたのではないかと思わされるほどそれくらい終盤は押し込まれていた。

■一昔前の「J2=リアクションサッカー」を表した試合

最後は岡山の放り込みなどもあって、16年のPOを彷彿とさせるような展開に持ち込まれたが、交代策を使い切っていた山雅は5バックがスペースを埋めて最後でやらせないことに専念。それを見てSBを前に上げる3322のようになった相手の噛み合わなさも助けになって結果としてはなんとか0で抑えきる。

支配率は山雅42%、岡山58%。試合の内容的にも相手に持たせてミスを誘うような攻撃やシンプルな放り込みが最後まで展開された試合となった。

ハードワーク&リアクション型のチーム同士の対戦となったこの試合だが、「相手に持たせてミスを誘うチームが増えてくる」→「それを阻止するために中盤を省略する」→「さらにそれを阻止するために後ろに人数をかけてセカンドボールを拾えるようにする」というここ数年のJ2の流れを詰め込んだような試合となった。

ここからは少し脱線するが、俗に言う「J2で勝てる戦略」はリスクを回避した中盤省略のようなサッカーだったことがこのあたりに示されている。ポゼッション型のサッカーで昇格した大分ですら中盤では極力リスクを冒さないための「疑似カウンター」のような特殊形だった。去年、今年はその流れが変わりつつあるシーズンとなっているとはいえ、やはりまだ岡山や山雅のように保持率を抑えるチームも多い。

そうした意味でこのまま完成度の高いポゼッションサッカーを構築している徳島がこのまま優勝できるか?は興味深い。優勝争い、またJ3の2位争いも残り1か月注目していきたいと思う。

■策士・手倉森監督のいる長崎。チーム力を示せるか。

次節はアウェイで長崎と対戦。前回対戦では前半早々に畑に先制点を許した後、後半20分にはルアンのスーパーゴラッソをくらい2点差に。しかし、交代で入った中美・阪野が相手の弱点を見事について、すぐさま2点を奪って同点。その後は最後まで上位の長崎と真っ向から殴り合いを続けたが、最終的にドローで決着。前体制のあっさり失点してしまう悪癖と戦い方を柔軟に変えて後半ブーストをかける良さがどちらも出た試合となったが、戦い方もメンバーも(山雅に至っては監督も)現在は全く変わっている。

キャプチャ

football labのスタメン表を見てもその違いは歴然。中でも中盤の骨格ともいえる前・佐藤・橋内が加わったのは大きな違いとなってくる。(また主力級でいうと塚川・高橋・隼磨も怪我?)

長崎側は勝負の仕掛けどころだった両SB毎熊・亀川が不在で2年目コンビ鹿山・江川が両SBとして定着。3年目名倉・ルーキー氣田ら若手も好調で違いを生み出している。そして、1番の違いはなんといってもマリノスからレンタルで加入したエジカル・ジュニオール。加入5試合で4得点1アシストと早くも爆発中。山雅もマリノス時代に決勝点を決められた経験があり、最も警戒しなければいけない選手なのは間違いない。経験のある橋内も得意とするタイプではないが、ボックス内近辺でいかにシュートコースを消していけるかがポイントになってきそう。

またJ2屈指の策士、手倉森監督の存在も不気味ではある。良くも悪くも多彩さがあった前半戦と違って後半戦は安定性が高まった一方、対策はたてやすくなっている。ここまでは過密日程もあって相手の分析・落とし込みが不完全であったり、岡山のように実現性が伴っていなかったりしたが、長崎と手倉森監督にはそれを可能にするだけの個の力と多彩さがある。柴田山雅にとっては個だけではなく、チーム力や相手に合わせた采配が必要となってくる、大きな試練となりそうな一戦。厳しいアウェイ戦となるが、なんとしても最低限勝ち点を持ち帰りたい。

END



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