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Jリーグ再開で直面した「5人×HT除いて3回交代」の難しさ~采配の妥当性と最悪の展開~

選手交代はサポーター側から良し悪しを評価するのはなかなか難しい。チーム事情が分からない上、どれだけ最善の手を打っても結果が出なければ違う交代策のほうが良かったと批判されるし、何の考えなしに手を打ったとしてもそれが勝利につながれば賞賛される。

しかも今節は初めてのレギュレーションで、久々の実践。布監督に限らず、全監督がそれぞれの苦労があったはず。情報は限られてるが他の会場のことも触れつつ、考察していきたい。

もちろん結果がでれば良かった、でなければ悪かった…そういう考えもアリだが、分析するからには監督の意図や描いていたビジョンを踏まえながら考えていくべきだと思う。

■他会場から見えたこれからのJ2

まずは注目されているのは愛媛の川井監督のHT3枚替え。かなり驚きの采配……のようだが2枚(2回)も交代を残していることを考えると、この策が外れても後から十分修正は可能。リードされてるチームの大胆采配→大逆転は増えていくだろう。

次に永井ヴェルディも選手交代に成功したと言えるチームだろう。町田を相手に高いポゼッション率を誇っていたが、前半はほぼチャンスを作れず……しかし、HTでの藤本と山下の2枚替えが功を奏し、この二人が同点ゴールを生んだ。町田は前半3分から約90分間リードしていたが最後は耐えきれずにPKを献上。それまでは自分たちの時間帯だった町田だが"前後半や終盤で展開がひっくり返る"ことは増えてきそう。

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さらに甲府の交代も強烈だった。試合前からFWに金園・太田・ハーフナー・ラファエルとかなり攻撃的なベンチメンバーを置いてきたが特筆すべきは高さ。それぞれ184cm、176cm、194㎝、190㎝と高身長で、森下橋内が180cm、178㎝であることを考えるとその異常さが分かる。実際に出たのは金園・太田・ハーフナーの3人であったが、70分過ぎにこの3枚を出してこれたのは5枠の交代枠の影響。終盤のパワープレーの時間が以前より長くなることも起こってきそうだ。

以上の3点から見ても終盤にドラマが起こるような試合は増えてくる。逆に言えば、相手が終盤に攻撃の圧力をかけやすくなっているのでリード時や同点時のリスク管理の難しさも増したと言える。

■"1度目"の交代の重要性

1度目の交代が重要な意味としては「この交代をHTに切れば(3度の交代の)1度目にカウントされない」点が1つ。監督心理を考えると間違いなくHTに誰かを交代すべきかを悩むことになるだろう。

例えば後半途中でガス欠しそうな選手をここで変えておけば合計4度の交代が可能になるので(最善かは置いといて)この試合のHTで久保田と杉本を交代しておけばもう1回を終盤で使えた…という発想も出てくる。

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HTでの交代はなくとも、5人交代により1度目の交代の幅はかなり広まった。J2全体で交代は早く、活発になっており、どこで最初に動くか?が試合に及ぼす影響は大きくなったといえる。

川井監督が後半頭から攻めにいくという強い意思を示したように、1度目の交代には後半の戦い方・監督のプランが最も反映されやすくなっていくだろう。

その点、橋内の負傷交代で半強制的に"1度目"を使わされたのは布監督自身が述べていた通り、大きな誤算・ダメージだろう。よりにもよってこのルール適用1試合目でこのシチュエーションが起こったのは不運と言わざるを得ず、試合を難しくした。

■橋内の負傷により必要になったリスク管理

さらに不運なのが負傷したのがDFリーダー橋内だったこと。常田も年齢のわりには経験のある選手だが、山雅のCB歴で考えると最も経験のある選手と最も浅い選手での交代となった。このシチュエーションでCBに服部を入れるという選択肢もあったと思うが、常田を選択したということからも当初から服部のベンチ入りはCF起用にかなり比重は置かれていたということが分かる

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さて、実際に後半の戦い方を振り返るとカウンターや裏のスペースはある程度割り切って、高いラインで前から奪いにいく攻め方をしていた。52分のルカオ、55分の金子とカウンターで攻め込まれたが、やはり橋内がいたことでカウンターを潰せていた面は大きい。

常田も無難なプレーを見せていたが、タイプを考えると橋内と同じタスクを与えるのは酷というもの。そこから相手が前線を入れ替えてフレッシュな選手をいれてくることを考えても(たとえ、高木彰をいれたとしても)カウンター合戦は相手のほうが有利だったはず。

服部をいれてシンプルな戦い方に切り替え、こうしたカウンターのケアを戦術的に行ったことで無失点に抑えられた試合ともいえる。

■ベストではないが明確だった選手交代

そして、初の5人交代、布体制2戦目ということで「交代意図を明確にすること」も大事な要素だった。3枚目の他の前線の選択肢には高木・アルヴァロといたが服部投入は明らかにチーム全体への攻撃のビジョンは伝わりやすい。

どちらかに得点が入っていれば前者の二人を使う可能性も十分あったはずだが、①同点というシチュエーションでのカウンターケア②疲れている中で(言い方は悪いが)頭を使わずにシンプルに攻撃すること③セットプレー対策。これらを考えても3枚目の阪野→服部は理にかなった交代策だと思う。

同時投入で高木やアルヴァロを久保田とともに入れることもできたと思うが、「前線で時間を作る」というタスクを遂行するのには久保田でやれると布監督の中にはあったのだろう。実際、久保田が入った後の時間帯はかなり落ち着きを取り戻していたし、チャンスも増えていた。

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新加入の2人への監督の信頼度や実際の活躍はこの試合の最も良かった点の1つにあげられる。

■致命的になりかねない1手だったかも

ただ、ベストではないと感じる理由もある。こちらの3度目(最後の交代カード)とむこうの1度目(窪田・西田の2枚替え)はほぼ同時だったが、金沢が残り2度(3人)の交代でのプランBを持っていた場合、交代カードは使い切っており、ベンチからは指示出す以外どうにもできない。

柳下監督はそういうタイプの監督ではないにしても、こちらが交代枠を全て使い切ったことを積極的に突いてくるシステム変更・戦い方をしてきた場合、あの時間帯での3枠の使い切り方はなかなか危うさもあった気がする。

そして、仮に先制されてしまったとしたら服部の放り込みしか手の打ちようがないということも考えられる。そうなっていれば最悪のケースであり、采配は酷評されていたはず。保守的な交代策と思っていたが、振り返ると結構な賭けだったと思う。

先ほども書いたようにHTで1枚使っておく、(難しくはあるが)橋内の負傷か久保田投入のタイミングで2枚替えを行うなどして交代枠をあと1枚使うor残しておきたかった。

■この采配を招いた去年からの問題点と投入したかった1手

最後に。この試合の交代カードの切り方になった要因は去年特に問題だったボランチのビルドアップ・ゲームメイクにあると考える。

後半は久保田投入(73分)まで押し込まれ、危険なロストが非常に多かったが、ボール保持時のボランチの不安定さが目立った。試合を通してセルジや杉本、久保田が下がってゲームメイクに関わっていたが、前半との違いは前線が下がらざるを得ない状況にある。こうなると相手も守りやすくなる。

一番気になったのは後半の多くの時間で相手にとっては守りやすいようなビルドアップの形を作ってしまっていたこと

ビルドアップ

3バック化までいかないにしろ、疲れている時こそはっきりとした縦関係を築いて相手を交わす工夫をしたい

ビルドアップ2

また、最大のピンチも57分頃の橋内が負傷した直後のカウンターだが、藤田のバックパスがルカオに渡った"らしくない"ミスは明らかに消耗して判断が鈍っていた結果で、塚川も判断ミスが非常に多かった。

久保田投入でビルドアップは向上されたが、ボランチの疲労度を考えると経験があってビルドアップもうまい山本真をどちらかと変えるという選択があって良かった

しかし、藤田・塚川を崩さないなら実際に行われたように①中盤を省略して放り込み②セルジを左にして組み立てに専念③久保田を前線にしてセカンド回収というような形を取るのは正しかったと思う。

■今後に向けて

以上の点からも、金沢戦での交代策はリスク管理とチームとしての戦い方を示すのに理解できるものであった。

と同時に5枚の交代枠を使うタイミング・本当の意味で誰が出ても変わらないチーム力など課題は多く残った。

やはり1年目の監督となると選手の特徴や性格の把握、戦術の浸透などで5枚交代は不利に働くかも……というのが客観的に見たところだが、今季の目指すところは変わらない。ひとまずは高橋や吉田、乾、ジャエル、イズマら主力になりうる選手が早く試合に復帰し、何とかチーム全体で乗り切りたい。

END


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