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スタートアップでの人事制度の作り方――会社のカルチャーとマッチする評価システム

数人で起業したスタートアップも、事業の成長に合わせて社員や関係者は増えていきます。従業員の評価や給与を決める人事制度は、そこで働く人のモチベーションを大きく左右するもの。正しく設計できていないと、せっかく採用した人材が早期に退職するリスクがあります。

会社のカルチャーとマッチする人事制度を作るために必要な考え方や評価システムの実例など、スタートアップ経営者が知っておくべき人事施策について紹介します。

従業員が10人を超えたら就業規則が必要


メンバーが少ないうちは、明文化されたルールがなくてもチームはうまく回るかもしれません。しかし、会社が成長するにつれ、従業員が不平や不満を感じたり、うまくマネジメントできなくなったりするタイミングが必ず訪れます。そのときに備えて、早いうちから人事制度を考えておくことが重要です。また、制度は一度作ったら終わりではなく、成長の段階に合わせて常に見直していくことも必要です。

労働基準法第89条では、「常時10人以上の労働者を使用する使用者は(中略)就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない」と定められています。この10人には正社員だけでなく、業務委託や継続的なアルバイトも含まれます。従って、思っているよりも早い段階で就業規則の作成と届け出が必要となることに注意しましょう。

また、就業規則は変更する際にも届け出が必要ですから、頻繁に更新できると考えないほうが良いでしょう。組織にとって理想的なのは、トラブルが起きるたびに場当たり的に制度を変更するのではなく、社員が安定した環境で働けるようにすることです。頻繁な制度変更は、社員が組織に対して不信感を抱くリスクがあります。

付け焼き刃ではない人事制度は要件定義から考える

それでは、どのように人事制度の内容を考えていけばいいのでしょうか。参考になるのは「まず全体を見通して要件定義を行ってから実装に取り掛かる」というソフトウェアやアプリ開発の手順に似た考え方です。

「会社をどうしていきたいのか」「どんな人に働いてほしいのか」という大枠を考慮せずに、いきなり具体的な制度を作成することは、仕様書なしでコードを書くような不合理かつ非効率な行為です。

人事制度には、会社のビジョン・ミッション・バリューにつながる価値観が反映されるべきです。一人で働いている段階からでも、その会社が何を是とし、何を否とするかは常に考えておきましょう。そうすれば自然と、「とにかく業界トップの専門性を集めたいので、中途採用や有期の嘱託契約だけを行う」「会社のカルチャーを大切にしたいので、新卒の教育や転職者のオンボーディングを充実させる」といった、人事制度のおおまかな方針が定まるでしょう。

その後、従業員が10名を超えたり、事業の拡大に合わせた採用の強化が必要になったりしたタイミングで、社労士や弁護士と相談して具体的な制度に落とし込んでいきます。中長期的な展望も含めた会社の方針や、現状とのギャップをはっきりと言葉で伝えることができれば、専門的な知見やアイデアも引き出しやすくなるでしょう。

チャレンジを推奨するため、評価と給与を切り離す施策「OKR」


人事制度の中でも、従業員に大きな影響を与えるのが評価制度です。評価制度の目的は、「報酬の決定」と「人材育成」に大別されます。これらの目的のもと、真摯に丁寧に制度を運用することで従業員のリテンションや能力開発につなげることができます。

評価の手法はさまざまですが、会社が目指すビジョンへの理解・体現や職務への姿勢などに基づく定性的な評価と、具体的な目標の達成度(パフォーマンス)を測る定量的な評価の2つを組み合わせた運用が、多くの企業で導入される一般的なアプローチです。定性評価と定量評価の配分にも、会社のスタンスが現れます。また、評価をして終わりではなく、マネージャーは評価の根拠を懇切丁寧に説明することが求められます。

さらに、前述のとおり、評価には報酬を決定する尺度であると同時に、人材育成としての側面もあります。報酬の決定と人材育成のバランスが非常に重要であり、例えば定量目標の達成度を過度に給与に反映する仕組みとすると、挑戦的な目標を立てる従業員が少なくなり、スタートアップに重要な勢いを失う恐れがあります。

こうした目標管理指標の課題感の中で注目されている手法が、「OKR(Objectives and Key Results)」です。OKRではまず会社全体の達成目標と主要な成果を決定し、それを個人レベルの定量的な目標まで具体化していきます。達成目標の難易度をあえて難しいもの(60~70%の達成率を目指すような目標)に設定して、チャレンジを推奨することが特徴で、達成度と給与を紐付けない運用が一般的です。あくまでも、組織の戦略遂行が目的で、個人がそれに向けてチャレンジする仕組みです。

また、OKRと併せて給与の決定方法としては、裁量を与えられたマネージャーが、評価を介さずにチーム内で原資を分配するという仕組み(ノーレーティング)を導入する企業が増えています。目標の達成と評価を切り分けることで従業員のチャレンジを促すことが可能になりますし、会社(≒経営者、人事部)ではなく、直接つながりのあるマネージャーが裁量を持つことで、日々の面談などで交渉の余地が残るため、従業員のフラストレーションが溜まりにくいというメリットがあります。

こうしたOKRの導入やマネージャーの裁量による給与の決定も、無数にある人事施策のうちの数例に過ぎません。自分が目指す会社の姿を早い段階から描いておくことで、より適切な人事制度を構築していくことができるでしょう。

 人事制度の相談は誰にしたらいい?

前述の通り、初手を間違えると大きな問題に発展する可能性があります。雇用契約に関するトラブルは弁護士や社労士、人事評価や制度の運用などは人事経験者など、内容に応じた専門家に相談することをおすすめします。

もし相談したい内容がまとまらない場合には、課題ごとに的確な相談先を紹介してもらうために、メンターや信頼できる先輩起業家と話してみるのも良いでしょう。ただし、専門家ではありませんので、課題に対する対処方法を相談するのではなく、「それぞれの課題に対して誰に、どのように質問すればよいのか」アドバイスを求めるというスタンスで話すことを心がけてください。

HAX Tokyoでも定期的にスタートアップからの相談に応えるイベントを開催していますので、お気軽にお越しください。

まとめ

・従業員が10人を超えたら就業規則が必須。急な変更はできないので早めの準備を。
・人事制度も要件定義から。ビジョン・ミッション・バリューとつながる内容を具体化する。
・評価は定量と定性の組み合わせがスタンダード。あえて評価と給与を切り離す施策も生まれている。

(取材・文:淺野義弘 / 編集:シンツウシン)

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