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研究者と起業家は同じ−−「まごチャンネル」のチカク佐藤氏が考えるエンジニア組織の育て方

HAX Tokyoでは日本で活躍するハードウェア・スタートアップを招くトークセッションを不定期に開催しています。今回は2020年10月26日にオンラインで開催されたイベントから、チカク共同創業者(ハードウェア開発責任者)佐藤未知氏によるセッションから一部抜粋してレポートします。

チカク(まごチャンネル)
株式会社チカクは、「距離も時間も超えて、大切な人を近くする・知覚できる世界を創る」をミッションとするIoTスタートアップ企業です。第一弾プロダクトとして、スマートフォンで撮影した動画や写真を実家のテレビに直接送信できる動画・写真共有サービス「まごチャンネル」を開発・販売しています。
https://www.chikaku.co.jp/
https://www.mago-ch.com/

研究者からスタートアップに転身した経緯

−−佐藤さんはVRの研究者からスタートアップの共同創業者に転身していますが、その経緯について教えて下さい

起業したいという思いは学生の頃から漠然と抱いていました。転機となったのは博士課程でシンガポールに渡ったときの体験でした。当時、海外のリサーチインターシップ先を探していたのですが、学会でシンガポールに訪れた際、現地の企業経営者から「うちに来なよ」と誘われたのがきっかけでした。

その会社は10人程度の福祉×IoTのスタートアップで居心地がよく、そのままシンガポールに留まることも考えましたが、自分も1から仲間とともにスタートアップを興したいという気持ちが強くなり、帰国後に起業の機会を探すことにしました。

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チカク共同創業者(ハードウェア開発責任者)佐藤未知氏

――シンガポールでは日本との貿易窓口を担当されていたそうですが、それまでの研究者としてのキャリアとのギャップはありませんでしたか?

スタートアップは基本的に、できる人がいなければ一番できそうな人がやるという文化です。私も「日本語が話せる」というだけで、重要な役割として、本来担当していたアルゴリズムの開発の傍ら、日本の税関とのやりとりを全て任されました(笑)
会社組織に属する人間としては、これまでの経験を基に自分のミッションを着実に遂行するという考え方も大事ですが、創業間もないスタートアップは会社としての体制が確立できていない点が多々あるので、まずは事業が成功するために皆ができること・できそうなことを持ち寄るというマインドが重要だと思います。

−−スタートアップに参画する研究者の中には「ビジネス」という言葉に対して抵抗感や苦手意識を持つ人が少なくないと思うのですが、研究開発しているものの延長線上にビジネスがあるという視点で考えると、研究者こそビジネスとの相性が良いのではないかと思うのですが

「(資金調達など)人のお金で好きなことをやる」という意味では研究者とスタートアップって同じなんですよね。研究者も科研費などを基に研究をし、スタートアップも資金調達を基に事業化を進める。そうして自分が信じる未来に対して全力で取り組んでいるわけですから、両者は非常に似ていると思いますね。なので、仰るとおり研究者とスタートアップの相性は良いと思います。

チカクが考える組織を成長させる方法

−−開発面をリードする研究者にはCTOとしての役割を求められるケースも多いと思いますが、どういった資質が求められていると思いますか?

CTOは「経営者の中で一番技術に詳しい人」であって、リードエンジニアではないと考えています。なので、必ずしも一番技術力が高い人がCTOをやる必要はありません。CTOは技術者である前に経営者である必要があるので、開発ではなく経営に主軸を置ける人がCTOになるべきではないでしょうか。

−−チカクではソフトウェア開発責任者の桑田さんと佐藤さんのお2人でCTO的な役割を担っておられますが、佐藤さんはどのようにチームを束ねてきたのでしょうか

前述のとおり、初期は何か1つのロールに秀でたスペシャリストが集まりながらも、そのロールに縛られずにできることをやるというのが重要です。

その結果、できることが増えるので、別の人同士の仕事の間を取り持つ機会が増え、創業期のメンバーは幅広いロールに携わるようになります。そういった状況になってからサーバーサイド担当、ハードの設計担当というように特定の業務に専念するという人を採用するという順番で組織を大きくしていくことが、チカクでの経験上大事だと思います。それこそ、まごチャンネルを出したばかりの頃は社長(梶原健司氏)や私が電話に出たり、ユーザーからの問い合わせに対応していたこともありました。

最初は「全員野球」で力を合わせて取り組み、実績と経験が伴ったあたりから適材適所でチームを作るというのが、確度の高いチームビルディングだと思います。

−−「まごチャンネル」はセコムとの提携など事業も急成長していますが、大企業との提携を成功させる秘訣はありますか?

今あるリソースでPoC(コンセプト検証)を実施する際に作り込みすぎないことですね。すべての案件がうまく行くことはないので、時間や労力をかけすぎないほうがいいでしょう。最小限のリソースであっても、可能性があればすぐにわかります。起業と同じで「小さく始めて、すぐに改善できるようにしておく」ことが、大企業との取組でも重要です。

――最後にこれからスタートアップを始める人、始めたばかりの人にメッセージをお願いします。

ハードウェア・スタートアップは「作ることが楽しい」と思う人が集まるので、自分が作りたいものを作りがちなのですが、「ほしいと思う人がどれぐらいいるのか」「自分も使いたいと思うか」ということを、まず念頭に置くことも大事なのではないかと思います。
そのためには実際に自分で使い続けてみたり、ターゲットとなりうる人に使ってもらって、本当にそのプロダクトが欲しいと思うか、いくらなら買うかを早期に検証すべきでしょう。そのためには理想的な開発環境を探すのと同じ熱量で、ユーザーを探す努力もしたほうがいいし、願わくは自分自身がその製品を最も求めているユーザーであることが望ましいと思います。

(聞き手:市村慶信 文:越智岳人

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