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仏壇のお茶

郊外の土地に月賦で建てた
2世帯住宅で、
仕事に出掛ける
娘夫婦の孫を見守り、
日々やり過ごす。

仏壇には、
亡夫の写真。
写真の前には、
冷めた宇治緑茶。

アルミ枠の窓を開けて
庭に出れば
もくもく雲に
冴えたあおぞら。

太陽に向かう
ヒマワリに、
「今日も咲いてくれて
ありがとう」
と、ひと声掛ける。

畳に小さな
布団を敷いて
アブアブ、機嫌のいい
孫むすめ。

台所へ行き、手を洗い
スリキリ量って
ミルクを作り、
「たくさんお食べよ」
と、赤子に飲ませる。

咀嚼音が、何て健気な…。
ああ、何て可愛いらしい…。

美しい肌を
すべすべさわる。

36年前、この子の親に
私もお乳をやったのだ。

孫むすめをそっと
布団に置き、
ブラウスの前を、はだけ
ためらい手を入れ
自分の胸をサワサワ触る。

「お母さん、
ブラジャーくらいしなさいよ」
と、娘がくれた
封も切らない下着が入った
タンスの引出しに、
なんとなし
目が行く。

はちみつ漬けの
梅干しのような、
下腹からの
甘酸っぱい体調に
頭がもたげ
しばし自分の世界から
抜け出せなくなる…。

はっと。
時計を見ると
じきに正午だ。

満腹になり、
くたんと眠った
孫むすめの枕元で
仏壇のお茶を、
「ゴクリゴクリ」
飲み干す。

おそうめんでも茹がこうかと
台所へ行き手を洗い
まな板を出し
わけぎと、みょうがを
トントン刻む。

夫には、金ですっていたけれど、
今はチューブで
「ごかんべん」
一寸だけよ。

すこし生姜に、
手間を抜く。

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