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痴呆症の苦しみを演じるレクター博士[映画ファーザー 感想,批評,レビュー,あらすじ]

 「羊たちの沈黙」という映画をご存知の方は多いのではないだろうか。この映画、ファーザーの主役は、羊たちの沈黙でハンニバル・レクターを演じたアンソニー・ホプキンスである。しかも彼が演じる役の名もアンソニーである。検索したが、アンソニー・ホプキンスの為に役を当てたのか、そうでないのかわからないが、役者当人には運命じみた仕事だったのかもしれない
 羊たちの沈黙やレクター博士シリーズの作品から時間が経ち、アンソニー・ホプキンスもその分年をとっただろうが、痴呆症の役にふさわしくない程にエネルギーに満ちている。ものとられ妄想や、家族が誰なのかわからない等の痴呆症の症状をアンソニー・ホプキンスが演じており、痴呆症の当事者の苦しみがわかるということである
 病気で苦しむ人にどれだけ優しくできるのか。男(演 マーク・ゲイティス)(この「男」というのは役名である)のように、アンソニーに冷たくしてしまう気持ちもわからなくはない。この男が、アンソニーの娘であるアン(演 オリビア・コールマン)の旦那なのか、他人なのか、それともアンソニーを診ている医者なのかわからない。アンソニーはその男に虐待された(またはされていると痴呆症の症状で思い込んでいる)わけである。私はこの映画を観て、ストレス時に人に優しくできる自信がなく、自己嫌悪を感じてしまった
 アンソニーはアンの妹であるルーシーの話を頻繁にしている。しかしルーシーは一度も登場してこない。映画が進むと、ルーシーは入院しているか、若くして事故にあったような描写があり、ルーシーの現在が示唆される。アンソニーはそのことを痴呆症のせいで理解できていないということになる。痴呆症のつらさというものがよく表されている
 結局、どこがアンソニーの妄想なのか、本当のことなのか映画では示されないが、示す必要もないだろう。終盤にアンソニーが老人ホームに入所した描写がある。アンソニーが子供のころを思い出し涙を流すシーンには、心を動かされた
 誰でも年を取るということと向き合わなければならないと、この映画に教えられた気がする

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