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#詩

遠視

地平線が見える
霞んだ山にある
地表に人々
彼らより少しだけ、私は天に近い
今すぐにでも飛び跳ねると
この身体は落ちていく
足元は覚束なく
またも世界を見る
声を張り上げると、引力に吸収されていく
私と世界を繋ぐもの
何かあるだろうか?
地表は、私を受け入れる準備ができているだろうか?
いいえ、きっと無理な話だ
爛れて循環する私の中
指を入れ込む
途端に熱い嘔吐
ぐらぐらな視界に
仄白い地平線

驟雨

夏の中ほど
爪、およびナイフ
まだあまり
凄惨に慣れないので
腕、その身をもって
ためらいを決する日々です

また今日も
好き勝手に雨が降っています
台風の外枠の中
明け方の遠雷
あまりに無感動な目覚めに
突然
理由のない
名前のない
嗚咽
喉の奥底から湧き上がり
首から上の部分が
不思議な引力で伸縮を繰り返し
赤く粘った液体をただ、体外に吐き出すと
ぬるま湯のような汗が身体を覆っていた
真っ白い

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フリアイの翼

例えるとしたら、
それは拡張された膜だ
からだの暖かみなど押し潰して
冷たく膨らんだ気泡は、
肉でも骨でもなく
また、血の通った地点にもありえない
開け展かれた翼は、水面から切り離されるべく胸を張り、
湖面または海面、あるいはゴムボートが浮かぶ、
それなりに水が張られた、それなりに膨大な矩形を見据える
輪転
天下に置き去られた魂など
どうぞ好きに持ってゆけばいいだろう
私と、真っ黒なこの翼
抜け落

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サムサラ

安定剤の反動は存外優しい
と、誰も騙せないであろう嘘を書いてみた
しかし私を基準とするならば
世界には頭の悪い人間しかいないので、きっと騙される
唯一知能を持っているのが私であるため
あらゆる有象無象は私と同調できない
逆に、私を基準としなければ
世界は複雑すぎる
下位存在などという考え方はしていないが
奴らと同等の人間でないことはあまりにも自明であるから
自分は神をも超えた存在なのではないかと思

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ねじけ者

全てにちょうどいい駅前
繁忙の昼間は適度に喧騒だった
現状では六人待ちのレストランに行く
軽薄なバインダーに挟んである紙は「名を記せ」という
殿
とだけ書いた
ウエイトレスの訝しんだ表情がおもしろかった
すると意外にも、書き直してくださいと言われた
その反発に反発するべく

今度はそう書いた
ウエイトレスの困った表情がおもしろかった
つうかこの女可愛いなとか思った気がするが気のせいだ
殿は女を馬

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再誕

もう一度だけオレは変われる
稲妻のような愛を知り
過去に埋もれたくないと初めて思えたオレの再誕
過去の砂浜に打ち付けられた、心情の波は乾いて気化していく
手を伸ばしたら、腕から崩れていくような現実に
オレはいつも追いやられてきたけど
死にっぱなしは嫌なんだ
何回でも生き返る
内なる炎を燃やし遂げるオレの再誕
その度に欠損を増やしていくことを知っていても
それでもオレは絶対に死んでいたくない
この世

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曳船

オレは今
ドアの目の前
取っ手は私たちを招くようだと
アイツは言っていた
吐く息が白に色づくと
手が震えるかのように
あからさまな焦りと吐き気と
オレ自身への怒りで
ついつい前屈みになって
鍵を握りに差し込み回すと
影より出づるものか
罪の潜んだ虚しさに襲われる
音を立ててドアを閉めた
それから握った手を開くと
気づきもしなかった水滴が立ち現れた
アイツが何処にいるのか
わからない
連絡は取れない

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シグロゾ

眼前にあるもの、その意味するところは鉄屑の溜まり場で、近づいてみればみるほど難解な全体像が重なり堆積していく。反射的に目が瞬く、一歩進み立つ足に水溜まり、首を傾けたぼくの完璧なスケッチが落ちていたので拾おうとしたけれど、水源は波立つばかりの朝。じめっとした、それなのに青い空、首を上に向けると馬鹿みたいに立体的で、威圧するように膨れ上がった雲、その奥に臨むのはどこかでひと雨降らせたに違いない、どんよ

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という痕
できるだけ
長生きしたつもりだった
破片
指と指の間
乱反射している
理科はよくわからないけど
でも覚えていた言葉です
覚えたいことしか覚えなかった
喋りたいことしか喋らなかった
食べたいときしか食べなかった
眠りたいときしか眠らなかった
手を振りたい
私の少女

手首が抉れている
深い赤と黒
もろい
痛み
頭痛で誤魔化すことしかできなくて
もろく
痛い
欠片
傷口と空の間
射し込む

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