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中3の夏休み

 のんびりマイペースな月もいよいよ中学3年生。
 小学生の時は
「学校ぶっ壊せ。学校なんてなくなればいい。」
「なんで勉強しなくちゃいけないの。」
「いつまで勉強しなくちゃいけないの。義務教育なんていらない。」
「義務教育が終わったら勉強しない。高校も大学もいかない。」
といい続けていた。
 中学に入っても、毎日がんばっているけど、勉学はふるわず、
「学校行きたくないなぁ」
とつぶやきながら登校する日々。

 その月が受験生。高校を目指している。学校で進路についてシュミレーションしたりして、ずーっと一貫して工業高校を目指している。
 高校へ行く気なんだっていうのも驚きだけど、自分の将来の姿をイメージしながら、明確な目標を一貫して口にすることに驚きと、我が子ながら尊敬の念がわいてくる。
 私は目標が定まらぬまま流されるように高校、大学へと時間稼ぎをしたようなものだった。
 いや下手すると今も定まっていないのかもしれない。
 幸い頼もしい仲間に出会ったり、おもしろい授業をしてくれる先生に出会ったりして、学びはいっぱいあったけれど、私自身はふわふわ漂っていたと思う。
 月は頑固で真面目で素直な性格のままに、周りの言葉を聞きながらも、自分はこういう考えでここを目指すと揺らがない。
 最初は
「勉強が嫌で工業を目指すならもう一度考え直した方がいい。5教科の勉強もあるよ。」
 親としては広い視野で見て決めた方がいいんじゃないかという老婆心が働いて、つい口を出す。
 「5教科を学ぶことはわかっている。工業高校で技術を身につけたい。」
と月。
 うん、そうかそうか。
「工業高校ではなくて、普通科で学んで工学部に進む道もあるよ」
というと、
「そういう道もいいけど、必要となったら工学部も考える。今はやはり、工業高校を目指したい」
とはっきりしていて、とても頼もしく感じた。
 さあ中学3年生になって、中間テストと前期の成績が受験に大きく関わると中学2年生の終わりに告げられた。
 中間テストはいまいちというかさんざんだったらしい。
 そりゃそうだ家でテスト勉強している所を見たことがない。
 夏休み明けの実力テストをがんばるから中間テストの結果は見せたくないという。戒めとして持っていたいと。
 相当な結果だったなと思いながら、がんばってねと言って受け入れた。
 
 家では宿題がないからと勉強しない。テストの前も勉強しない。
 大丈夫かと思いながらも、あまり口を出さずにきた。
 おとさんの方がやきもきしていたくらいだ。
 授業参観では積極的に挙手をしているし、わからないところを教えてくれるというクラスの仲間の名前も聞いているので、月なりに考えてやっているのだろうと思っていた。
 あれこれ口を出しても頑なになるだけだし、中学生だから、親があまり口を出さない方がいいだろうと思っていた。
 ところがだ。夏休み前の三者懇談で、提出物を出していないことを知った。それっていわゆる宿題って言うんじゃないのか。
 宿題も自主勉強もやるかやらないかは自分次第だし、やったことやらなかったことは自分に返ってくることだと折りにふれ話していたけど、今の月の最善がこの状態なのかなとも思って、思うところあれど、黙って見ていた。
 でも、今回はお尻に火がついている。
 高校受験は試験だけでなく、中学の成績が基本にあること。部活もやっていないので、評価はやはり、出欠や、提出物、授業態度でしかつけられない。中間テストがさんざんでも、日常がちゃんとやることをやっていたらよかったけど、提出物が出てないのは基本が揺らいでいるということよ。
 そそて、提出物の期限は先生との約束事だから、できないから黙ってるんじゃなくて、できないなら、相談した方がいいよと話す。
 月のがんばりはわかっているし、他人の評価なんてどうでもよくて、月が月であればいいと思うけれど、高校受験は評価が大事になってくるものなので、ちょっと他者の目も気にせにゃならんよ。
 コンコンと話したら、
「母さんもう話さないで」
とあおざめた顔の月。
 すみません。くどかった。つい。授業態度は積極的で真面目だと思うのに通知表がいまいちなのはこういうことかと今頃気がついた自分にショックをうけていた。
 とりあえず学校で、先生達に提出物の現状と今後の予定を伝えて来たらしい。
 できたら夏休み中にでも届けに行ったら?という提案は即却下された。
 隠し事がなくなり、悩み事が見通しがついたおかげか、よく話すようになった。
 口を開いたら、提出物を出していないことをポロッと口にしそうで、閉じていたのかしら、罪悪感に悩まされていたのかしら、一人でこもっていた世界が、開放された感じ。
 
 さあて、夏休みに入ったら、高校見学。
 私の学生時代はそんなのなかったなあ。いいなあ。私の親としてではない好奇心で、高校見学についていくことにした。
 工業高校3校、工業の専門学校2校、普通科の公立と私立とあわせて7校。ちと多い。
 3校以上は見学するといいと学校から言われていたけど。
 
 夏休みに入り、7月中には提出物を完成させると目標をたて、取り組む月。
 でも、口を開くとお盆に来る従兄弟との時間をどう過ごすかを声高らかに話すので、おとさんが気が気でなくて、イライラ。提出物もテスト勉強もしっかりとやるよう口を出すので、どーんと重い空気になる。
 能天気に見える月も心の中では受験を意識しているさと思うんだけど、見込みが甘いのかしらん。
 受験生はずーっと受験のことを考えて夏休みを過ごすんだろうか。
 私はどうだったかなあ。
 心配症のおとさんが,、ある夜、2人でお酒を飲みながら、
「月の希望校は中途半端なヤンキーばかりだから、いじめられるにちがいない。」
「高校見学する予定の普通科高校は、月の偏差値では無理な所なのに、そんな所を見に行ったら、夏休み明けにいじめられる」
と言い出す。
 心配で心配で心配。私だって心配。でも、心配していたらキリがない。心配なんていくらでもわいてくる。その夜はどんどん心配沼にはまった。けれど、沼にはまって出られなくなってはどもならん。
 月を信じる。月の周りの人を信じる。明るい方へ意識をむける。

 夏休み入ってすぐの2週間は次々高校見学。貴重な経験をさせてもらったが、とにかく暑くってぐったりヘトヘト。
 そして、おとさんのいじめられる発言が頭の中で渦巻いて、変な保護者がいるっていうので目をつけられていじめられるんじゃないかと心配になって、なんだかわけのわからぬ緊張で、ヘトヘト。
 でも、ヘトヘト以上に収穫はあった。
 月はイメージが広がって、希望校も迷い出したよう。
 資格や免許が大きいらしい。
 そして、もしかすると寮生活も選択肢に入っているらしい。
 ちゃんと迷って、どのように迷っているか、明確に言葉にして、父さんならどうする?なんて相談している姿も頼もしい。
 それぞれの学校に一長一短があって、どこがいいのかはわからない。
 どこを選んでも、得るものも捨てるものもあるだろう。いっぱい迷って、その時の最善を尽くしてくれたらいいなと思う。

 工業高校に私は初めて足を踏み入れた。土木工学科や機械工学科など、若者たちが私たちの日常を支え、未来の世界を創り出してくれる姿がイメージできて、なんだかすごい世界を見た気がした。大事な未来の宝。
 どの学校でもどの子も大事にされて、自分を大事にして、豊かな学びがありますように。

 我が家の受験生は高校見学を1校残して、迷い中。
 少しお楽しみタイムに突入する。
 豊かな学びも祈るけど、何より、いい出会いがあるといいなあ。お互い理解しあって、一緒に悩み、一緒に笑える友が見つかりますように。

 
 
 

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