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クラフトビールの価格って高いですか?安いですか?

皆さんはクラフトビールというものを飲まれたことはありますか?
クラフトビールを飲んだことがなくても、言葉そのものを聞いたことがある人は増えているのではないでしょうか。

かつて2000年前後に地ビールブームが隆盛した時期がありました。その後、地ビールブームは下火になり、数年前からクラフトビールという呼ばれ方で再びビールシーンが盛り上がりつつあります。

なお、この記事を書いた時点では、いわゆるクラフトビールを生産するブルワリー(醸造所)の数は509か所になっています。地ビールブームが下火になったときには、ブルワリーの数が約200か所くらいまで減っていたらしいので、かなり増えていることがわかりますね。

このように、近年の日本ではクラフトビールブームが広がりつつあります。が、とは言え、クラフトビールはまだまだ一部の愛好家たちが楽しんでいるものであり、一つの文化としてまだまだ広く社会に浸透しているものではないと言えるのでないかと私は思っています。

一方、多様なビールを楽しめるクラフトビールの文化を日本に根付かせたいとも私は思っています。しかしながら、日本でこれからさらにクラフトビールの文化を根付かせていくためには、乗り越えないといけない壁がまだまだ多くあります。その中の一つの大きな壁は、クラフトビールの『価格』です。私はそう考えています。

今回はその『価格』について考えてみたいと思います。

※「クラフトビール」という言葉の定義について、よく議論が巻き起こりますが、ここではざっくり、
クラフトビールとは、大手ビールメーカー以外が提供しているビール
としたいと思います。なお、ここでの「大手ビールメーカー」とは、キリンビール社、アサヒビール社、サントリー社、サッポロビール社、および、左記4社と何らかの提携をしているビール会社とします。

本題に入る前にちょっと自己紹介

初めましてな人は初めまして。
記事を読んでくださりありがとうございます!

いつも記事を読んでくださっている人は、ありがとうございます。
大好きです!

橋元 達也と申します。

大学で博士(工学)取得後、大手電機メーカーに勤めた後、ベンチャーへ転職。その後、『自らビールを提供し、ビールを囲んで語らう場をつくる』ことを目指し、2020年10月にビールメーカーへ転職しました。

現在、子育てもしながら家族と共に自分の夢に向かうべく、一歩ずつ歩んでいくために色々トライしています。

記事の中で自己紹介をするのは初めてですが、少しでも興味を持っていただけたら嬉しいなと思って書いてみました(自意識過剰)。

下記記事にはより詳しく私のことを書いてありますので、もしよければ読んでやってください!

冷静に考えるとやはりクラフトビールの価格は高い

天気の良い休日。散歩をして少し疲れ、休憩しようかな…と思っていると「クラフトビール」と書かれた看板があるビアバーを発見。早速入店し、席に通された後、メニューを一通り見る。

「UCHU BREWINGの宇宙IPAを1パイント(約473mL)の大きさで!」

メニューを指さしながら威勢よくオーダー。

ちなみに、そのメニューに示されている価格は1パイントで1,300円。

※上記の価格は架空です。お店によって価格は変わります。

日頃クラフトビールを楽しんでいるファンであれば、特に気にならない価格です。まあ、クラフトビールってこれくらいするよね的な感覚。

しかし、いわゆる大手メーカーのビールを飲んだことしかない人からすれば、

「ビール1杯に1,000円!?」

二度見した上で目ん玉が飛び出ると思います。

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もちろん、その価格を『高い』と捉えるか、ビールの作りてが手間暇かけて作っているんだからそのくらいの価格は当然で『妥当な』価格と捉えるかは人それぞれかと思います。しかしながら、日常で大手ビールのみを飲んでいる日本の大多数の消費者の感覚から見れば、やはり高いと感じるでしょう。

日本におけるクラフトビールの価格

いきなり何となくノリで小説風に書いてみましたが、上述したとおり、クラフトビールの価格は、大手メーカーが出しているビールの価格に比べるとかなり高いです。

感覚的に高いですと言うのもあまりよくないので、大手メーカーのビールとクラフトビールの価格の違いについて、いくつかのECサイトやクラフトビールの取り扱いがある酒屋で私が確認し、検証してみました。その結果は以下のとおりです。

★大手メーカーのビール
飲食店・バーでの生中1杯 …400~700円
小売店・ECでの350mL缶1本…200~300円

★クラフトビール(国内ブルワリー)
ビアバーでの1パイント  …1,000~1,400円
小売店・ECでの350mL缶1本…500~900円
※USなど海外のクラフトビールだと価格はさらに上がる場合あり

このように、クラフトビールの価格帯は、大手ビールに比べると2~3倍以上の違いがあります。

なお、上記で示したのは、大体の価格帯であり、下記価格帯から外れるものもあります。詳細に徹底した価格調査をしているわけではないので、上記結果には高い精度があるわけではありませんが、大体このくらい価格帯が違うということがわかる程度には十分な精度だと言えるでしょう。

日本でのクラフトビールのシェア

また、日本のクラフトビールの販売量シェアは2020年時点で約1%です。
(売上金額シェアだと約2%)

一方、クラフトビール大国といえるアメリカでは、クラフトビールの販売量シェアは2020年時点で約12%です。実に日本の12倍です。また、売上金額シェアも同様に12倍の24%です。

アメリカでこれだけシェアが伸びている要因には、例えば「1人あたりが飲むビールの量が多い」や「酒税が安い(日本の約10分の1くらい)」など色々なものがあると思いますが、大きな要因の一つにクラフトビールの『価格』もあると思います。

【参考】
★Brewers Associationのレポート
https://www.brewersassociation.org/press-releases/2020-craft-brewing-industry-production-report/

★2018年のビール消費量世界ランク
https://www.kirinholdings.co.jp/news/2019/1224_01.html

というのも、これまた私が個人的にECサイトや商品のデータベースを目視で数十個確認した調査結果になりますが、USでのクラフトビールの価格は、350mL缶サイズのもので200~300円台のものがほとんどです。たまに高価格なものもあるのですが、それは限定醸造だったり、長期間熟成させたりなど何等かのプレミアムな価値が付加されていました。

熱狂的なファンであれば、ある程度の価格であっても、お金を出してクラフトビールを飲もうとします。しかし、そこまでクラフトビールのファンではないライトな消費者であれば、価格が高すぎると中々手を出そうとしなくなるのではないでしょうか。これが現在の日本のクラフトビールシーンの現状であり、シェアが約1%に留まっている一つの要因だと考えます。

一方、アメリカでは、クラフトビールは、日常的に飲用するビールとしてある程度手に取りやすい価格であるため、クラフトビールの熱狂的なファンだけでなく、比較的ライトな消費者層も飲用するからこそ、クラフトビールのシェアが約12%にまで広がっているのだと私は推測しています。

※ちなみに、Googleで「世界各国のビールの平均価格を比較しているサイトがありました。
https://www.visualcapitalist.com/how-much-does-a-beer-cost-in-your-country/

『価格』以上の『価値』をどうやって感じてもらうか

ビール業界は典型的な装置産業です。そのため、醸造する規模が大きければ大きいほどいわゆる規模の経済が働いてコストが下がり、その結果として、商品の『価格』を下げることができます。日本の大手ビールメーカーでは年間醸造量が約100万KL以上あるため、市場で200~300円という価格で流通させることができています。

なお、アメリカのクラフトビールの価格が低い理由の一つに、クラフトビールメーカーといえど結構な規模でビールを生産していることがあると思います。2018年のレポートですが、日本のクラフトビールメーカーでは約280社で3.3万KLであるのに対し、アメリカのクラフトビールメーカーでは約6,300社で295万KLです。1社あたりの平均でみると、アメリカのクラフトビールメーカーは、日本のそれの約5倍くらい生産しています。

【参考】
http://www.kitasangyo.com/pdf/archive/world-alcoholic/c.beer_2018.pdf
※P14を参考にしました。「KL」と単位がありますが、おそらく「万KL」の誤記かと思います。

なので、理論上、クラフトビールであっても生産規模を大きくすることができれば、ある程度コストを抑えてクラフトビールの価格を抑えることもできるはずです。しかしながら、そんな簡単にホイホイ生産設備に投資できたら苦労しません。

もちろん、企業努力として、規模を大きくして生産効率を高めてコストを削減し、価格をある程度抑えることを考える必要はあります。しかし、実際のところでは、経営的な観点からいっても、中小規模のブルワリーでは日々のキャッシュフロー管理で忙しく、設備投資をしづらい環境にあることが多いと思います。

設備投資を簡単にできないから、コストダウンが中々図れない。では、「じゃあどうするべきのか?」ということになります。

私自身、この問いに対して明確な答えをまだ持っているわけではないです。しかしながら、個人的には「『価格』以上の『価値』を感じてもらうためにはどうすべきか?」を突き詰めることが大事だと私は思っています。

「何当たり前のことを言ってんだ!」という感じですが、これを愚直に考えるしかないのだと考えます。

人は『価格』を見て無意識のうちにその価格に見合った期待を抱きます。そして、その抱いた『期待』を超える『価値』を体験したときに嬉しさや驚き、感動を感じて次もこれを選んでみようと思うのではないでしょうか。この点については、また別記事で考えをまとめてみようと思います。

なお、『価値』にはビールの味そのもの以外にも色んな体験があります。いわゆるモノ・コトで表現されるやつですね。ビールの味がモノならば、ビールを通して得る感動や驚きなどがコトになります。現在のクラフトビールのブルワリーの多くはそのあたり意識し、SNSを活用して色んな発信をしてPRしています。

個人的に、SNSの活用では、宇宙ブルーイングがそのあたりの仕掛けが上手だなと思っています。例えば、宇宙ブルーイングファンのみなさんは、宇宙ブルーイングのECサイトで販売されるビールの購入合戦を『宇宙戦争』と呼んで楽しんでいます。『宇宙戦争』で購入できた人もできなかった人もその結果をSNSで共有して楽しんでいます。どうやって現在のような状態にまで戦略的に構築していったのかという詳細はわかりませんが、宇宙ブルーイングはPRがとてもうまいと思います(もちろん味も美味しいです)。

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さいごに

さて、私は本記事において、クラフトビールの文化を広めるためにはクラフトビールの価格が下がればよいのではないかと述べてきました。ただし、それは、あくまでも「クラフトビールの文化を広める一つの手段」として、の話です。

ここで、いきなり手のひら返しみたいになりますが、クラフトビールのブルワリーの視点でいえば、必ずしも『価格』を下げることが売上アップにつながるわけではないとも私は思っています。大事なのは『価格』と自分たちのビールが提供できる『価値』のバランスを考え、適切な『価格』を設定することにあると考えます。

このあたりも次回の記事で書こうと思います。

コンパクトにまとめようと思いながら結局長くなってしまったので、今回はこのあたりで終わります!笑

それでは、Kan-Pai!!

この記事が参加している募集

インプットしたものを何かでアウトプットしたいと思い登録。いずれブルワリーを自分で立ち上げ、それを中心にビアバーやゲストハウスなどシナジーがありそうなことを始めることを妄想中。ビールを囲んだコミュニケーションでみんなを笑顔にしていきたい。