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教国の暗殺者『一部六話(完) あの子は、わたしを友達と呼んでくれるだろうか』マハト・オムニバス~ファンタジー世界で能力バトル!~
「ギリギリ合格といったところですけどねぇ。頼んでいた『支配者の指輪』は粉々にしてしまうし……ま、テロリストを無力化できたのでそこは良しとしましょう。アレにはアルモアの民も困っていましたから」
「カーク……っ!」
セレナの声は怒気をはらみ、隻腕の男を激しく睨む。
雪に埋もれた森から景色は一変し、寒さとは無縁の洞窟へと変わっていた。
カークがゲートを開き、セレナを移動させたのだ。
「そんなに怒
教国の暗殺者『一部五話 夢のひととき3』マハト・オムニバス~ファンタジー世界で能力バトル!~
セレナは血だらけで倒れ伏すムラトを呆然と眺めた。
長らく降り続いた雪もようやく止み、夜の森は静けさに包まれている。
ムラトの周りには細かな金属片が散乱していた。粉々に砕かれた『支配者の指輪』の断片だ。
奴隷じみた境遇の男に絶大な力を与え、各地でテロを引き起こしたこの遺物も、こうなってはただの金属の塊。その力を発揮することは二度とないだろう。
(今度もまた、失敗してしまった……)
緊張の
教国の暗殺者『一部五話 夢のひととき2』マハト・オムニバス~ファンタジー世界で能力バトル!~
「何人増えようが同じこと! このムラトは『天啓』を成す! 邪魔者は全て殺す!」
鬼神の如き気迫でムラトは吠える!
突進してくるセレナとシンシアをまとめて殲滅せんと猛り、手斧を横薙ぎに切り払う!
当たれば胴を軽く輪切りにされてしまいそうなパワー! これを二人は同時に跳躍、足元を死線が通り抜ける!
「「はぁっ!」」
「ぬう——ッ!」
さらに二人は空中でくるりと一回転、姿勢を制御しつつ、そのまま
教国の暗殺者『一部四話 あなたを支えるもの3』マハト・オムニバス~ファンタジー世界で能力バトル!~
「はぁあああ——ッッッ!!」
ムラトの斧が大地を穿つ!
一面に敷き詰められた雪が風圧で吹き飛び地面が露出する!
この一撃を後退して躱したセレナはその勢いで膝に力をため、バネのようなしなりで飛びかかった。
「せい——っ!」
渾身の回し蹴りがムラトの首を狙う! しかし、ムラトの腕と身に纏う鎧に阻まれた!
空中でくるりと回転したセレナは距離を取り、ムラトに向かって身構える。
嵐のような吹雪は
教国の暗殺者『一部四話 あなたを支えるもの2』マハト・オムニバス~ファンタジー世界で能力バトル!~
暗殺者を追い払ってから数時間——ムラトは太い切り株の上で足を組み、瞑想にふける。
セレナという暗殺者に折られた肘は痛み、熱を持っていた。しかしこれまで自ら与えてきた罰に比べれば何ということはない。むしろ手間が省けたというものだ。
この痛みこそが弱さを正し、進むための力を与える。それが『天啓』を成就させるために必要なことであるとムラトは信じていた。
周囲は夜の闇に包まれ雪と風が執拗に襲い来る
教国の暗殺者『一部四話 あなたを支えるもの1』マハト・オムニバス~ファンタジー世界で能力バトル!~
(わたしが本当に大事なもの……大切なものって、なに?)
身を裂くような北風と雪から逃れるように、セレナは木の根元に腰かける。
雪と風が体温を容赦なく奪っていく。しかし動く気力はない。セレナはもう生きる理由が、目的が見いだせなくなっていた。
考えるのは自らの存在意義、そして自らをただ認めてくれた友のことだ。
セレナは命令を遂行するために生まれ、命令を達成することを目的として生きてきた。
教国の暗殺者『一部三話 壊れたやつら3』マハト・オムニバス~ファンタジー世界で能力バトル!~
が、しかし。
諦めかけていたセレナの頭上を何かが横切った。
雪が一瞬止み、次いで大きなものがムラトに覆いかぶさるのが見える。
狼だ——黒い狼がムラトに飛びかかったのだ。
狼は相手の右腕に飛びつき、鋭い牙を剝き出しにして噛みついている。
サイズは虎か獅子程度あり、普通の狼と比べても大柄だ。その毛並みは荒々しく逆立ち、降りしきる雪を受けてまだらのようになっている。左目はなく、その代わり赤い
教国の暗殺者『一部三話 壊れたやつら2』マハト・オムニバス~ファンタジー世界で能力バトル!~
だが——セレナの脳裏に再び少女の幻影がよぎる。
グランデ教の民を殺して、シンシアは喜ぶだろうか。こんな血に汚れた人間を、シンシアはまだ友達と思ってくれるだろうか。
そんな思いが湧いて出ると、ムラトの首筋に向かった切っ先は髪の毛一本のところで止まり、どうしても進まない。
「ムラト様! 危ない!!」
突然の怒声。振り返るとそこにいたのは瘦せこけた男——セレナと瓜二つの。
次いで氷のような殺
教国の暗殺者『一部三話 壊れたやつら1』マハト・オムニバス~ファンタジー世界で能力バトル!~
「あなたはここにいて。足手まとい」
「えっ、でも——」
有無を言わさず扉を閉めたセレナは宿の廊下でそっと佇む。
いくら考えてみても、今回の仕事でキヨミは邪魔にしかならない。いつものように一人で行動し、静かに事を進めるのが一番に思う。
張り切るキヨミを残していくのは少し心苦しいが、使えない人間を連れて行く方がよっぽど危険だ。
(それにしてもカークは何故この子を……)
セレナの心に疑念がふつふ
教国の暗殺者『一部二話 許されざる者3』マハト・オムニバス~ファンタジー世界で能力バトル!~
イムテルは創造と破壊を信条とするグランデ教を信仰する北方の国家だ。
大総統のハリベルト・フィルツが支配する、国土のほとんどが雪と氷に覆われた極寒の大地。
砂漠の国・ペルセケイレスとはまた違った意味で人の住みづらい土地だ。
そんなイムテルの外れに小さな村があった。
針葉樹の森に囲まれたここは、木こりを生業とする民がわずかに暮らす寒村。人は数えるほどしかおらず、家もぽつぽつとしかない。
教国の暗殺者『一部二話 許されざる者2』マハト・オムニバス~ファンタジー世界で能力バトル!~
「あははっ、すっごい雪! ねぇすごいねぇ、セレナおねぇさん!」
一面を覆う雪原に少女の黒髪が映える。
新雪を駆け回る度に雪を踏みしめる小気味よい音が響き、その後ろを小さな足跡が点々と連ねていた。
雪にはしゃぐその姿はさながら仔犬のようで、懐かしい童謡の情景を思い出させる。
そんな子供っぽい姿にセレナは小さくため息を吐いた。
「やめなさい、キヨミ。ここには遊びにきた訳じゃない。目的地もまだ
教国の暗殺者『一部二話 許されざる者1』マハト・オムニバス~ファンタジー世界で能力バトル!~
「お疲れさまでした~。できればもっと早く帰ってきたかったんですけどねぇ」
カークの嫌味なセリフを無視し、セレナはそっぽを向いた。
カークの『異なる地点を繋げる能力』を使えば潜伏先からここまで戻ってくるのは造作もないことだ。それでもことさら時間にこだわるのは、セレナの失敗に対する嫌味に他ならない。
洞窟をくり抜いて作られたアジトは薄暗く、カークの持つ明かりが誘蛾灯のように周囲を照らしている。
教国の暗殺者『一部一話 あの子はまだ、わたしを友達と呼んでくれるだろうか……』マハト・オムニバス~ファンタジー世界で能力バトル!~
きっとここが自分の居場所だ。そう自分に言い聞かせた。
月明かりも届かない狭くて薄汚い路地裏。こんな場所は自分のような人間にこそふさわしい。
来た道はごみや汚泥が散乱し、何かが腐敗したような異臭が立ち込めている。行く先は真っ暗闇の一本道、突き進んでもいずれ袋小路に陥る——逃げ場はない。
これまで歩んできた道のりがこれからの行く末を暗示している。そんな風に思えた。
この裏路地を無感情に歩い
砂漠の獅子『四部第六話(完) この煩わしくも居心地の良い喧騒の中で』マハト・オムニバス~ファンタジー世界で能力バトル!~
*砂漠の獅子四部第一話: 『パンドラの箱』マハト・オムニバス
まだ日も高い昼下がり、ペルセケイレスの酒場はいつも以上の賑わいを見せていた。
口には出さずとも住民たちはキメラに不安を感じていたのだろう。それがようやく幕を引き、ピリピリとした緊張感がなくなっている。これまで溜め込んでいた不安がなくなったことでみな羽目を外しているようだ。
多様な人間が往来するペルセケイレスではこれからも様々な問