ニラじゃないじゃん、それ野草じゃん。
土曜日。
午前中で学校が終わると、おなかをすかせて
家に帰ってくる孫のために、ばあちゃんは
よく、ニラ玉を作ってくれた。
中華のお店で出てくる、あのニラ玉とは違う。
うちのニラ玉は、ニラ入りの卵焼きだった。
私は、ばあちゃんの作るそれが大好きだった。
「ばあちゃん、今日はニラ玉?」
「本当にあんたはニラ玉が好きじゃなぁ。
作ってあげるから、花壇のとこから、
ニラ取ってきてくれるかい?」
「うん!わかった!」
急いで、勝手口から出ると
花壇へ向かって走り出す。
そして私は、
ニラ玉に胸躍らせながら、
ひたすらに、チューリップの横に揺れる、
ニラを取るのだった。
・・・皆さんは、お気づきになっただろうか。
この、ばあさんと孫娘の会話の不自然な点に。
そうです、
花壇に、ニラは生えません。
知らなかった。
あれが、ニラだと思っていた。
なんとなく見た目も似ていたし、
物心ついたときから、ばあちゃんのニラ玉は
あの味だったもの。
私がニラだと思って食べていたのは、
ノビルだった。
ノビル(野蒜、山蒜、学名: Allium macrostemon)は、ヒガンバナ科ネギ亜科ネギ属の多年草。日当たりのよい土手や道端に生える野草で、全体の姿や臭いはニラに似ている。
---------- Wikipedia
そう、野草だったのだ。ニラじゃなかった。
大学進学のため、家から出る18歳の春まで
思いっきり、騙されていたのだ。
夏休み。
久々に実家に戻ると、
ばあちゃんは「ニラ玉食べるかい?」と、
いつもの笑顔で、作ってくれた。
「いやいや、これニラじゃないじゃん、野草じゃん!」
とは、言えなかった。
久しぶりに食べたニラ玉は、
確かに美味しかったけど、
ちょっと複雑な気持ちになった。
月日は流れて、私はいい大人になり、
ばあちゃんは、寝たきりになった。
もう、ばあちゃんの
ニラ玉を食べることはできないと思う。
ふいに思い出して、たまに食べたくなる。
ノビルの味は、ばあちゃんの味、
大切な思い出の味なのだ。
そんなノビルの花言葉は、
「タフなあなたのことが好き」らしい。
ばあちゃんは、この花言葉を
知っていたのだろうか。
帰り道、
バーミヤンの横を通り過ぎたとき
ふと、そんなことを思った。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?